「やっと5時間目終わった~」
「いったい誰が来てくれるんだろう、楽しみー!」
「ほら皆さん、一度静かにしましょうね」
「いったい誰が来てくれるんだろう、楽しみー!」
「ほら皆さん、一度静かにしましょうね」
2月も頭、寒い中の時間割をほとんど終えて。6時間目の【総合】は、なんと「あの」トレセン学園からウマ娘が来てくれるという話になっていた。
今日が節分ということで、「鬼は外」をやってくれる鬼役の子が各地を回っているらしい。片田舎の公立小学校にも来てくれるなんて、実にご苦労なことで……黄色い声で沸き立つクラスメイトを脇目に、ボクは一人、最後尾の特等席で窓の方を眺めていた。
よくテレビ番組で「人気お笑い芸人がキミの学校に!?」なんて企画やってるけど、実際に心の底から嬉しいと思ってる子はごく一部なんだろう。実際には興味のない人だっていて、「早く終わらせてゲームしたい」なんて考えてるんだろう。今のボクみたいに。
今日が節分ということで、「鬼は外」をやってくれる鬼役の子が各地を回っているらしい。片田舎の公立小学校にも来てくれるなんて、実にご苦労なことで……黄色い声で沸き立つクラスメイトを脇目に、ボクは一人、最後尾の特等席で窓の方を眺めていた。
よくテレビ番組で「人気お笑い芸人がキミの学校に!?」なんて企画やってるけど、実際に心の底から嬉しいと思ってる子はごく一部なんだろう。実際には興味のない人だっていて、「早く終わらせてゲームしたい」なんて考えてるんだろう。今のボクみたいに。
「皆さん! トレセン学園の生徒さんが来てくれましたよ! 大きな声でお迎えしましょう!」
それに、こんなところに来る生徒なんて暇人ばっかりだろう。物珍しくて感動するクラスメイトもいるだろうけど、所詮はそこまで──
「こんにちは、サクラローレルです! おにはー? そとー!」
「スーパークリークです~。悪い子はいませんかぁ~?」
「メジロアルダンです。皆さんとお会いできて嬉しいです」
「スーパークリークです~。悪い子はいませんかぁ~?」
「メジロアルダンです。皆さんとお会いできて嬉しいです」
──いやボクでも見たことあるウマ娘ばっかりだー!?
「こちら、私達が焼いたクッキーです! 皆さんにプレゼントしますね!」
「もちろん、豆まき用のお豆さんもありますよ~」
「ちゃんと皆さんの分ありますからね、慌てないでくださいね」
「もちろん、豆まき用のお豆さんもありますよ~」
「ちゃんと皆さんの分ありますからね、慌てないでくださいね」
俄かに色めき立つ教室。そりゃそうだろう、だってGⅠ級の最前線を走り続ける、いわば時のウマ娘が……何を血迷ったか、鬼柄の胸巻きと腹巻きだけでクラス中にお菓子を配っているんだから。
というか教育に悪くないのコレ!? 先生たちもなんで許可出したの!? まだサクラローレルさんはともかく、スーパークリークさんとメジロアルダンさんは、その、胸の辺りが張って……!
というか教育に悪くないのコレ!? 先生たちもなんで許可出したの!? まだサクラローレルさんはともかく、スーパークリークさんとメジロアルダンさんは、その、胸の辺りが張って……!
「はい、どうぞ~」
「あ、あり……ども……」
「あ、あり……ども……」
そうしてボクにお菓子と豆を渡してくれたのは、幸いなのかローレルさんで。その薄着で前屈みになるのは色々アブないと思うんだけどなぁ!? もにょもにょとお礼を伝えながら、綺麗に包装されたプレゼントに目を落とす。見た感じはクッキー……かな。悩んだのは、表面が普通の生地の茶色じゃなくて、ウマ娘の綺麗な絵が描かれた一品だったから。
ローレルさんの意地悪そうな笑顔に、クリークさんの包み込むような笑顔。アルダンさんの静かな微笑みに……黒い短髪のウマ娘が、口を大きく開けた笑顔。全部で4種類、なんだけど……最後の娘は教室にいなくない? 今日は来れなかったのかな……なんて思っていたら。
ローレルさんの意地悪そうな笑顔に、クリークさんの包み込むような笑顔。アルダンさんの静かな微笑みに……黒い短髪のウマ娘が、口を大きく開けた笑顔。全部で4種類、なんだけど……最後の娘は教室にいなくない? 今日は来れなかったのかな……なんて思っていたら。
「ウ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛……!!」
「!?」
「きゃぁぁーっ!?」
「きゃぁぁーっ!?」
後ろの扉を勢い良くこじ開けて、大股開きで入り込んできた……それは、まさに「鬼」で。ローレルさん達の寒そうな恰好とは違う、肌色なんてカケラも見えないような赤色の鬼。顔を見ても牙が剝き出しの形相に……泣きこそしないけれどビビり出すクラスメイトが大多数。
「オカ゛シ゛……!! タ゛ク゛サン゛……!! アル゛ナァ゛……!?」
「オ゛テ゛ニィ……!! ヨ゛コス゛ゥ゛ゥ゛……!!!!」
「オ゛テ゛ニィ……!! ヨ゛コス゛ゥ゛ゥ゛……!!!!」
胸筋を見せつけるように腕を広げたかと思えば、重そうな金棒を突き付けて唸る鬼。後ろ側の子たちが、ボクも含めて──プレゼントは忘れずに──慌てて前へ避難すれば、のっしのっしと窓際まで乗り込んできて。
「オ゛オ゛ォ゛オ゛ォ゛ォ゛ーー!!」
いや待って最近の節分ってこんなリアルなの!? というか他のウマ娘たち鬼コスしてるけど「アレ」のお仲間じゃないの!? けどそもそも鬼が撒かれるための豆を自分から配るのも変な話か!! なんてらしくない思考がぐるぐるしていた所。
「……み、皆さん! 怖い鬼は豆を撒いて追い出しましょう!」
「私達も加勢しますね!」
「子供たちを怖がらせるのはメッ、ですよ~!」
「皆さんの力を合わせて……いざ!」
「私達も加勢しますね!」
「子供たちを怖がらせるのはメッ、ですよ~!」
「皆さんの力を合わせて……いざ!」
そう言って、取り出したのはさっき配られた豆の方で。ボクも慌てて豆を掴む。あんなに「子供騙し」だと思っていた節分が、こんなに物騒に……けれど、楽しく感じられたのは初めてだった。年の大きい小さいも無視して、皆で豆を構えて……!
「「「鬼は~~~外っ!!!」」」
「ク゛ゥ゛ッ゛!! オ゛ノ゛レ゛ェ゛……!!」
「「「福は~~~内っ!!!」」」
「ク゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛……!!!! オ゛ホ゛エ゛テ゛イロォ゛ォ゛ォ゛……!!」
「ク゛ゥ゛ッ゛!! オ゛ノ゛レ゛ェ゛……!!」
「「「福は~~~内っ!!!」」」
「ク゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛……!!!! オ゛ホ゛エ゛テ゛イロォ゛ォ゛ォ゛……!!」
流石に何十人からも豆を浴びせられれば、鬼としてはなかなかに効いたようで。教室に背を向けたかと思えば、赤色の巨体はどっしどっしと去っていった……
「それでそれでっ! トレセン学園ってどんなところなの~!?」
「ふふ、ちゃ~んと答えてあげますから、落ち着いて」
「ふふ、ちゃ~んと答えてあげますから、落ち着いて」
こうして鬼は去り、福と平和が残った教室で。ウマ娘のお姉ちゃん達は、年下のクラスメイトと楽しく談笑していた。特にクリークさんとアルダンさんが大人気で、子供たちに取り囲まれて身動きが取れない様子。そんな中、ふと後ろに目を向けると、ローレルさんが静かに教室を出ようとしている姿が目についた。
「あの……」
「おっと。どうしたのかな?」
「いや、一体どこへ行こうとしていたのかなって……」
「おっと。どうしたのかな?」
「いや、一体どこへ行こうとしていたのかなって……」
そう聞くと、ローレルさんは困った風に頬を掻いて、耳元に顔を寄せてきた。
「さっきの、鬼役の人。きっと疲れているだろうし、差し入れに行こうかなって」
「あぁ……」
「あんまり大きな声で言ってもね。キミにはネタバラシしちゃったけど……」
「あぁ……」
「あんまり大きな声で言ってもね。キミにはネタバラシしちゃったけど……」
そう言うローレルさんの顔は真剣そのもので。きっと、ボク達の夢を壊さないように……というのは言い過ぎにしても、雰囲気を損なわないようにしてくれたんだろう。それに、聞いたのがボクだったのは結果オーライだったと思う。まだサンタクロースを信じてる子もいるし。
「だったらボクが持って行くよ。ローレルさんは皆と話してあげた方がいいだろうし」
「えっ……いいの?」
「うん」
「えっ……いいの?」
「うん」
彼女達は今日しか来れないんだから、皆と居てあげて欲しいっていうのは本心。それに正直なところ……おっぱいが、目に悪いというか、さっきからドキドキして顔が熱いというか。だから、ちょっと頭を冷やしたい気分もあった。鬼役の人って、よく聞くトレーナーさんだろうし。むしろ役得かもしれない、なんて。
「それじゃ、お願いしちゃおっかな。鬼さんによろしくって伝えてあげて」
「はい!」
「はい!」
そうして彼女からスポドリ入りのペットボトルを受け取り、廊下を進む。というかあの格好で外まで探しに行くのは相当寒いだろうし……
「とは言っても、どの辺にいるんだろう……」
渡り廊下を歩いて、なんとなく「そこにいるかな」って思った中庭まで進む。この辺で着ぐるみ姿でも邪魔にならない場所と言えば、あそこだろうし。腰を下ろすにも悪くないはず。そう思いながら角を曲がれば、案の定というか、赤い着ぐるみの上半身が目に入る。休憩中だったのだろうか。
渡り廊下を歩いて、なんとなく「そこにいるかな」って思った中庭まで進む。この辺で着ぐるみ姿でも邪魔にならない場所と言えば、あそこだろうし。腰を下ろすにも悪くないはず。そう思いながら角を曲がれば、案の定というか、赤い着ぐるみの上半身が目に入る。休憩中だったのだろうか。
「すみませーん! 鬼の方ー!」
いずれにせよ声を掛けないことには始まらないだろう。そう思って背中越しに声を掛けると、彼は振り返って──
真っ先に飛び込んできたのは、汗に濡れた体操服。真っ白なはずの生地はたっぷりと水気を含んで灰色に染まっており、隙間の一つも作らないように肌へと張り付いていた。そうして描かれた曲線は、クリークさんやアルダンさんにも決して劣らず……むしろ密着度合いの分だけ、少しばかり巨大に見えて。
中にはよほど熱が籠っていたのか、まるで上半身全体が湯気を立てているように見えて。絶え間なく吐かれ続ける息が溶けて消えるよりも、ボクと彼……ううん、「彼女」の目が合う方が先だった。
中にはよほど熱が籠っていたのか、まるで上半身全体が湯気を立てているように見えて。絶え間なく吐かれ続ける息が溶けて消えるよりも、ボクと彼……ううん、「彼女」の目が合う方が先だった。
「さっきの教室の子だよね? ゴメンゴメン、こんなだらしない格好で!」
下半身だけは着ぐるみのまま、ちょうど上半身を晒した彼女が手を合わせながら叫ぶ。髪の毛も額に張り付いていたから一瞬気付かなかったけど、その黒髪はさっき見たことがあった。
「……黒いクッキーのお姉ちゃん?」
「あぁ、覚えていてくれたんだね! ありがと、ちょっと嬉しいな……いやゴメン熱っづ……」
「あぁ、覚えていてくれたんだね! ありがと、ちょっと嬉しいな……いやゴメン熱っづ……」
そう言って朗らかに微笑んだお姉ちゃんは、けれど着ぐるみが相当堪えたのか、すぐに顔をしかめて自分を手で仰ぐ。そういえばローレルさんから渡されたペットボトルがあったなと思い、お姉ちゃんに差し出すと。
「わぁ……! いや本当ありがとう! 暑いし喉使うしで大変だったんだ~……んぐっ」
そうしてペットボトルに口を付けるお姉ちゃん。ごきゅっ、ごきゅっ……と大きな音を立てながら、瞬く間に中身が減っていくのを見て……筋力とか肺活量とか、ヒトとウマ娘じゃ全然違うって知識が実感に代わっていくのを感じていた。
「……よし、お陰でだいぶ楽になったよ。ありがとね。もうちょっとしたら戻るから、ローレルさんに伝えてもらっていい?」
「あ、う、うん……分かった……」
「あ、う、うん……分かった……」
たっぷり水分を取って元気になったお姉さんが、膝を折って視線を合わせてくれる。けどさっきのローレルさんもそうだけど目に悪い……! くりっとした大きな瞳に見つめられて、けどこっちは胸が大き過ぎて顔が熱くなっちゃう……!
「あれ、顔が赤い……もしかして冷えちゃったかな、もしくは熱がある……? ちょっとごめんね」
「ひゃっ……!」
「ひゃっ……!」
そう言いながら、少し大きな手をボクの額に乗せるお姉さん。外気に触れて冷たくなった手は、ドキドキして火照っていた顔を冷やすのにちょうど気持ち良くて。真剣そうな顔でこちらを見つめる視線が、少しずつ緩んでいくのを感じた。
「うん、熱はないか……寒い中ほんとゴメンね! 体冷やす前に戻っちゃって! 私は大丈夫だから!」
鬼さんと一緒に歩いてるところ見られるのもマズいでしょ? と言われれば、ボクも逆らう気が起きず。中庭を去ろうと背中を向けて……最後に一つ。
「お姉ちゃん、名前って聞いてもいい……?」
一瞬きょとんとした顔を浮かべた彼女だったけど、すぐに得心した様子で。
もう一度目の前で視線を合わせ、決して他の子には伝えないよう念押しした上で、彼女は名前を教えてくれた。
もう一度目の前で視線を合わせ、決して他の子には伝えないよう念押しした上で、彼女は名前を教えてくれた。
「カラレスミラージュ。今日は鬼さんの役をやらせてもらった、お姉ちゃんの名前だよ」