どれだけ、熱情を言葉に乗せようとも、必死に行動に表そうとも、
男としての己に一片も関心を寄せはしないと。
決して消える事のない憧憬と慕情の焔に、報いなどは齎されるはずはないのだと。
その
無情な現実を理解しながらも……この思慕に己は殉じると、人として名付けられた名を捨てて
魔女の手足に徹する道を選んだ至門。
そんな彼が、同じく報いなき道に躊躇いなく命を投げ出した少女の姿に触れ、
思わず顕わになってしまった人としての感情。
愛は与えるもの……そう信じて疑わない女にぶつけた、
少年のまま老いてしまった男の無骨で不格好な告解である。
「……当代ただ一人生き残った、本物の魔女。不老不死の秘法と莫大な黄金で、世界中の権力者どもを今も顎で動かす現人神。」
「そんなあんたから見りゃあ、俺なんざちっぽけな塵屑なんだろう。いつの間にか、こんなジジイにもなっちまったしよ」
「けどよ、それでも俺の気持ちは変わらねえ……アジアの片隅で、あんたに拾われた餓鬼の頃からなぁ」
「俺はあんたのためなら、いつでも死ねると思ってる。
この気持ちだって、あんたの言う愛ってやつの類なんじゃねえのかと俺は思うぜ?」
「なのにあんたは一方的に与えるだけで、気づこうともしてくれねえ。
あんたには必要なくても、俺のこの気持ちは存在するんだよ───」
「しょうがねえだろうがッ、この目にゃ今も昔もあんたしか見えねえんだからよォッ!
他に値打ちのあるものなんて、俺にゃ何一つもありゃしねえんだよッ!」
それは、詩的でも洗練もされていない、吐瀉物のように生々しい原色の感情の発露であり……
己という男は、ただそれだけのものでしかないという何にも譲れぬ真実の想いだった。
「――ああ気持ち悪い」
「なぁに? おまえ、そんな独りよがりのどぶどろが、私の人類愛と同等とでも言いたい訳?」
「それで私に、終生おまえだけを愛せと?
生まれた町しか知らずに年老いては死んでいく、無知な田舎娘のように?」
「何と言う増上慢なのかしら。おまえの愛とやらなんて、
肥溜めに咲いた萎れかけのみすぼらしい花よ。本来美しくある花への冒涜だわ」
「おまえごときが私に何かを恵んでやれるなどと、
たとえ妄想の中でも思われていたことが不愉快ね……まったく汚らわしい」
……そして、超越者である魔女はその告解を不快気に否定、彼を完全に突き放す。
もはや、縛り付ける事も、罰を与える事もせずに、言葉の刃で彼の真情を削り取るのみ。
関心が失せた、道具として在れと言い残し、彼女は去っていく
「……ほれ見たことか、ざまぁねえ」
「いい歳こいて、未練たらしいったらねえよなぁ……俺って男はよぉ」
そのまま、己が施した拷問の傷から再生し始めた
キャロルへと屈みこみ、
届くことのない言葉をかける。
「判るぜ、おまえの気持ちがよぉ……」
少女の虚ろな瞳、その奥にあるものを見透かすような語りは、同時に自らの在り方を確かめる行いでもあった。
「でも、俺らはこれでいいんだよな。報いなんざいらねえ……
どれだけ惚れてるかっていう、自分への証が立ちゃあそれでいい」
「だからよぉ……たとえ無駄だろうが全力でいくぜぇ。
こうなりゃ、おまえと俺のどっちが勝つかだ――――」
- 二人がスフィア到達、とまではいかずとも真っ当な相棒か主従か恋仲か、位の間柄に到れる可能性はあるのかなぁ。 -- 名無しさん (2020-05-22 02:19:46)
- ↑ 見てる視点がどうしようもなくズレてるし、無理じゃあないかな……(トゥルーを見ながら -- 名無しさん (2020-05-22 02:21:07)
- どっちも一方通行だしなぁ。昏式作品は一方通行、あくまで自分の気持ちの話ってのが多いが、その中でも特に噛み合いそうにない奴だし -- 名無しさん (2020-05-22 02:37:18)
- 切なすぎる。50年の恋がバッサリw -- 名無しさん (2020-07-30 02:39:58)
- 至門ほんといいキャラしてるわ -- 名無しさん (2021-05-02 20:38:15)
- キャロルに対して一方的に親近感覚えて羨ましがってる至門さんのシーン好き -- 名無しさん (2021-05-03 01:14:45)
最終更新:2021年12月19日 20:51