愛というのは与えるものであって、乞食のように恵んでもらうものなんかじゃないわ

発言者:魔女
対象者:至門


あらゆる権能を手にし、不老不死も宿す魔女。
そんな己を唯一絶対と信じる彼女が、“愛”というものへの考えを端的に表現した一幕。

目前に迫る師の理想の成就のため、捕えたキャロルから、極限の絶望を産み落とさせようとする至門。
妖蛆の力も加えた凌辱を繰り返し、仮初の死にまで至らしめたが……望んだ結果は得られず、男は肉の塊を前に立ち尽くすだけ
不甲斐無い至門(どうぐ)の様子に業を煮やしたのか、魔女は音もなく拷問部屋に現れ痛烈な罵倒を浴びせるが、
至門は、泣き出しそうな表情をしながら語る

「けどよぉ……こいつはどうしようもねえ。股裂いて臓物引きずり出しても、そんな扱いを酷いとも悲しいとも思ってやがらねえんだ……」

「こいつは、あの男のために自分自身を捨ててるんだ。人にくれてやった命だから、自分で惜しいと思う気持ちが端からねえ」

「そんな奴を、一体どうやりゃ絶望に追い落とせるっていうんだよ……」


弱音しか出せないうすのろ(・・・・)な弟子の金的を容赦なく蹴り上げ、
魔女は「お前はやる気が乏しいのではないか?かつて拾ってやったのは間違いではないか?」と、
零下の如く冷え切った言葉の刃を突き刺し続ける。

長年の自らの想いを否定するその言葉に、
至門は「汚れ仕事をずっとずっと続けてきたのはあんたのためだ」と必死に食い下がるも、
一方的に暴力を振っていた姿から一転、すべてが掌の上の出来事であるとするように。
魔女はただ機嫌を損ねた子供を扱うが如く、慈しみの眼差しを向け、
「与えてやる、恵んでやる。お前の欲しいものを」となだめすかすのみ。
それは世の理を超えた全能ゆえに、己にはこの世を覆い尽くす無限の慈悲が可能だという自負が成せる業。
自分自身の在り方一切を疑わぬ万能感によって支えられた、超越者の振る舞いと言うべきものだった。


───私の絶対愛(アガペー)(おお)きさは、この世全てを救うのだから。

───おまえにも、その一欠片を恵んであげる程度の度量はあるわ。


自己に陶酔し切った、懸想する相手からの優しげな笑みに……至門は諦観と共に溜息を漏らす。


「やっぱり、あんたは何も判っちゃいねえ………」

「なあ師匠……これ全部、もうやめにしねえか?」


そうして、哀しげな眼差しを少女の姿をした何者かに向ける。
訴えかける言葉は、切ないほどの真情に満ちていた。

唐突な訴えに、信じがたいものを見たような表情を浮かべる魔女。

「この世界には愛というものがない。
ゴルゴタの丘でこの世すべてに向けられた、ナザレのイエスという男の絶望に覆われたことによって」

「これは、その二千年に渡る呪詛を解こうという壮大な大秘儀なのよ。
どうしようもなく残酷で不完全な世界を、この私が糺してやるの」

「これ以上に崇高(・・)有意義(・・・)な使命なんて、いったい他にあるのかしら。
この世の権能、何もかもを手に入れた私が挑むだけの価値ある(・・・・)試練よ」

滔々と語る魔女の弁舌を、虚ろな無表情で見つめていた至門は、やがて口を開く。
彼が挙げていくのは、十字架上で刑死した救世主が生まれる以前実行された、人が人を殺戮してきた歴史の断片
愛に満ちていたのが本来の世界(・・・・・)というのなら、受け入れがたい事実の列挙
何が言いたいのか。本気で理解できず声を荒げる魔女を迎えたのは、寂びた苦笑。

(イエス)なんかに関係なく、人間ってのは元々そういう生きものなんだ」

「この世界がろくでもないんじゃねえ。ろくでもないのは、人間(おれたち)の方だってことだよ」


新たな救世主にならんとする私の行いが無意味だとでも言うのか。
怒りに震え髪を掴み上げる少女を前に、至門は言葉を続けてゆく。


「そんなことは、俺にも判らねえよ。ただ師匠……あんた何百年も生きてきて、人を愛したことはあるのかい?」

「馬鹿な質問ね。私は全人類を愛するわ。イエスごときの女々しい男にできて、私にできない訳がないでしょうに」


「なら……誰かに愛されたことは?」


その至門の問いかけに、真の魔女(・・)は心底呆れたような軽侮の表情を浮かべた。


「おまえ、どこまで愚かで低脳なの?
愛というのは与えるものであって、乞食のように恵んでもらうものなんかじゃないわ」


彼女の言は、いずれ来る、自らの絶対愛(アガペー)という救い――それこそが何よりも重要だという先の言を、一層強調するものとして闇に響いたが。

その回答に対し、至門は何かを諦めたように溜息をつくのだった――――




  • 怒りの救世主「ふざけるな」灰と光の境界線「そう、まだだ。俺達は愛の形を一つに定義なんてまだしてはいけないんだ」天駆翔「故に、お前の救済はここで終わる!!」マジで理想郷作り上げるのは知っているけど、魔女の前世にした所業を知るとスフィア勢や真理勢ぶつけたい。 -- 名無しさん (2019-12-23 02:56:44)
  • 長年の部下と主君というより、相棒みたいな雰囲気がたまらんなこの二人 -- 名無しさん (2019-12-23 08:11:42)
  • この魔女至門の微妙なニュアンスの違いを悉く理解しないからな… -- 名無しさん (2020-04-29 21:02:58)
  • ↑2·3 この二人が理想なり愛なり絆なりでスフィア到達可能な位の仲になるのは可能なのかなぁ。どうすれば…。 -- 名無しさん (2020-04-29 23:05:57)
  • おっそうだな(トゥルーエンドルートの一枚絵を見ながら -- 名無しさん (2020-05-25 21:02:35)
  • 愛とは無理やり突っ込むモノ・・・ -- 神 (2020-10-23 08:17:01)
  • エロゲババアよかマシ -- 名無しさん (2020-10-23 17:28:00)
  • ↑2 禿げてしまえ -- 名無しさん (2020-10-23 17:31:42)
  • 愛とは、那由多の果てまで繰り返すこと -- 名無しさん (2020-10-23 18:12:56)
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最終更新:2022年01月09日 15:47