グランド√、
バイロンが滅び、人間に戻ったアンヌは、同じく人間に戻ったであろう
友人のために、
ニナ達血族に率先して協力する事で、混乱を早期に収めることを望んで行動を続けていた。
そんな彼女を通し、
戻ることのない日常を
見ていたトシローは、アンヌに危うい橋を渡るような真似をして欲しくないと告げるが……
たとえ短い時間とは言え、自分を導いてくれた彼に、少女は
等身大の自分として抱いた、勇気を振り絞り友人を救いたいという想いを語る。
―――それは、
言い訳によって隠してきた己の弱さを見つめ、それでも逃げ出したくないという小さな決意表明だった。
本編より
「いいんです。このまま全部忘れたふりをしたくない。
それは誰に言われた訳でもない、わたし自身の言葉ですから」
「こうして普通の人間に戻って、少しだけど見えてきた気がするんです」
「わたしが本当は、何をやりたかったのか。何が怖くて、ずっと変わりたいと思っていたのか」
一度、深呼吸と共に目を伏せる。
顔を上げたときに、台本を読み上げるようにアンヌは自分の言葉を紡ぎ始めた。
「“自分は無力な傍観者だ”“何もできないから、何もしなくていい”」
「“わたしなんかよりずっと凄い人達がいる”“できる人達がきっとなんとかしてくれる”」
「救いの手も、心を締め付ける後悔も、全部、全部……
“普通じゃない人達が与えたり奪ったりするものなんだ”――」
「……そんな風に、考えてました」
儚げに微笑して、そう語る。
「わたしは、すごくありふれているんです。
どこにでもいる、臆病な人間です。勇気の出せない人間です」
「自分だけにできることが何にもないし。
何処かの誰かは、きっとこれよりうまくやれるんだろうなぁ、って。
……そんな思いが、どうしても消えません。
だって一度もわたし、すごい吸血鬼なんだぞ──なんて思えませんでしたから」
「自分よりすごい何かを盾にして、誰かの言葉にずっと守られてた。ううん、甘えようとしてた」
「無力な自分に甘えていた。力がないから、弱いから、それをずっと理由にしてた」
「ならわたしは……吸血鬼があった時に、何ができていたの?」
「“成り立てだから仕方がない” 今度はそんな言葉を盾にして、ずっと甘えてはいなかった?」
「もし……もしもわたしが一番強い吸血鬼になっても、きっと同じことを言うんです」
「“人それぞれ、力が全部じゃない”って。ふふ……おかしいですよね」
……その気持ちは、痛いほど判る。喪失の体験から、復讐の正当性を求めた過去が蘇る。
弱いままでいい理由、強者じゃなくていい理由、それらは意外なほど世の中に溢れている。
甘えていれば楽だろう、お題目は無数に存在する。
それは言葉遊びの数だけ存在し、非の打ち所なく守ってくれるのだから。
「だから、今は────」
怯えを宿しながらも、しっかりと空を睨んで。
「そんな言い訳に縋りつく方が───わたしは、こわい」
「弱い自分を受け入れて、ケイティを見捨てることの方が───こわいから」
毅然と、彼女は自分の気持ちを口にした。逃げてもいい理由から決別し、逃げたくない理由を選んだ。
- グランドのアンヌは本当素晴らしい -- 名無しさん (2019-12-25 10:15:32)
- 十二対戦てアニメでもあったね、正しいことをしない理由はいくらでもある。世界のせいにしたっていい。でも正しいことをしない人間はできないのではなくやらないだけだ -- 名無しさん (2021-11-26 12:01:30)
最終更新:2023年10月29日 22:24