《伯爵》による、血族の魂の刈り取りが今まさに進行しようとする中。
ニナは
フォギィボトム全体へ向けて、
始祖の真実を明かし、
血族達に逃げ延びる途か、自分と共に闘い生き延びるか、大きな2つの選択肢を示した。
この先……混乱は避けられない。認められない現実に暴発し獣たちの群に組み入れられる者は間違いなく出てくるだろう。
儘成らぬ状況に表情を曇らせるアンヌ――
それを気遣い、以前
カサノヴァで成り立ての彼女に厳しい言葉をぶつけてしまった事を謝罪しながら、
今の自分が立ち向かうべき現実……
導く者として為すべき事を確かにすべく、ニナという女性は、言葉を紡ぐのだった。
本編より
「あーぁ……ほんと、格好つけてばかり。ほんと駄目ね、私は。慰めるのだって、こんな理屈捏ねないと恥ずかしくて……
やっぱり、一朝一夕じゃ成長なんて無理なのかなぁ」
しみじみと語るその姿に、アンヌは慌てて取り繕った。
先程まで毅然としていたこの女性に、こんな顔をさせてはいけないと思った。
「いえ、そんな───あれは、私が悪いんです!」
「いつまでも迷って……強くなったはずなのに、自分一人じゃ何もできないままだった、私が……」
「ううん、それでいいのよ」
自分に言い聞かせるようにそう言って、ニナは首を振った。
「急いで出した答えは、自分を縛るわ。憧れや尊敬は綺麗だけど、現実には存在しない絵空事を生み出して、際限なく心を縛るのよ」
「ちょっと不思議な出来事と出会うとね、憧れと現実の境界線が心の中で曖昧になるのよ。
自分がいきなりすごい何かになると、もっと成れるって錯覚してしまう」
一つだけ特別になったがために、それから先まで行けると思い上がる。
自分が生まれ変わったと思えるために……生まれ変わったのだと間違える。
自分は、何処まで行っても自分のままだ。そんな当たり前のことを忘れてしまう。
「だから、迷いが晴れないのなら、もう少し迷ってみなさい。
自分がどうして迷っているのか、最初の部分をちゃんと見るの」
「吸血鬼を構築する歯車ではなく……誰かの憧れじゃない、あなたの現実を探してあげなさい」
そして、最後は茶目っ気を覗かせる笑みをこぼして―――
「……私も、やっとそれを探したいって思えた未熟者だけどね」
――全ての真実を受け止めた上で、勝ち目のない戦いを挑むと決めた。
――たとえこの先に、淡々とした灰色の責務が続くとしても。
――その痛苦や不自由さに向き合って生きるため、ニナ・オルロックは胸を張って告げたのだ。
「間違わないで、あなたは救えるのはあなた自身しかいない。
あなたが胸を張れる現実だけが、自分を自分にしてあげられるんだから」
そう、だから――自分を見失ったままの者は、いつまでも過去に囚われたまま。
最終更新:2025年03月21日 23:46