掟を破り、隙間を縫い、邪悪と退廃の楽園を棲家として生きてきた女傑アルフライラ。
そんな彼女が、血に飢えた怪物共を前にお嬢様へと言い切った、次なる闘いへの宣誓。
トシローの言葉に決意を再び握り締め、
バイロンを討ち取る為に。
ニナ達は地下道を通り、
ギャラハッドが指示したカルパチアへの侵入路に向かって歩を進めていた。
だが、そんな彼らを狙っていた――否、
行き先を同じくするカーマインと彼女に率いられた『裁定者』の雪崩が襲う。
カルパチアへと繋がる昇降機の到着まで、
誰かが異形共を阻むために残留せねばならない――
トシローは
己の役目か、と愛刀を携え進み出ようとして……
「ああ────邪魔だ。どけよ飼い犬」
突如起動した爆薬が、通路を瓦礫で分断する。
反対側に残ったのは、入れ替わりに爆発の中へ飛び込んだ声の主…アルフライラただ一人。
壁の向こう側から、不安に揺れるニナの声が届くも……女闘士は嗤うのみ。
情が湧いたと?馬鹿が、なんておめでたい。
黙っていろよ、地上の姫が……俺は最初から何一つブレちゃいない。
ここまで、地上の者共と手を組んでやっていたのは、己が望みを成就させるため。
無法者の楽園、享楽の自由、戒律を弄ぶ退廃の王国の再建、ただそれだけが望みだった。
混沌とする地上界で目を付けた次期の公子から、“見逃せ”という貸しを引き出すべく行動してきたのだ。
───それが何だ、怪物の巣だと?
よくも、よくも虚仮にしてくれた。極刑だ、裁きが要る。
棲家を荒らされた怒りが臨界に近づく中、アルフライラは言葉を続けた。
「てめえが返り咲けようが、どうせあの人形狩りは必要だ。ここにも掃除の手が入る、
そうすりゃ……地下は結局そっちのものじゃねえか」
「俺の目的を達するには、俺の手でここを取り戻すしかなくなったんだよ。
……判ったら行け、邪魔だ」
縛血者にとって天敵である怪物、それが膨大な物量で襲い来る……。
自分も目にした絶望的な光景に、ニナは
『あなた一人で出来るわけがない』と告げるも――
「ひ、ははァ、舐めてくれたじゃねえかよ、やる気出てきた!
それじゃあ一つ、賭けと行こうじゃねえかお姫様よォ!」
アルフライラ・ワ・ライラは、爪と牙を尖鋭化させつつ高らかに嗤った。
「誓え───俺がこの人形をブッ殺せたら、
向こう一世紀てめえは地下の趨勢に干渉しねえってな」
「“自由を目指せ”。判るか?無限の生はあくまで手段だ。
何時の日か、生まれてしまったという縛りを引き千切るためのな」
だから喘ぎ、足掻き、逆らうのだ。
従っていては魂が腐る、反逆の狼煙にこそ我らの楽園は現れる。
彼女の本気を感じ取ったのか……惑いは、数秒。
『誓うわ。そして、楽しみに待ってる。一世紀後、あなたとの間で始まる勝負を』
……そのまま、昇降機の機械音が遠ざかる。
これで、残る存在は行き場を無くした魔獣と人形、そしてアルフライラのみ。
あのお嬢様を対等の敵と認識し――いずれその肥え熟した血肉を貪り喰ってやると決め。
極大に膨れ上がった戦意と共に、アルフライラの喉から低周波が放たれる。
通路上に存在する裁定者の数、総数104体。5㎡に辺り平均6体の密度。
カーマインまでの相対距離、およそ817m前後───
何のことはない──絶望的だとも、滅ぼせる。
「……ク、クク。手緩い、手緩いじゃねえかよ。オイ」
波濤となった裁定者が、通路を埋め尽くしながら爪と牙をもって飛び掛かる。それに対し、
「掻き鳴らせ──皇響愕断ォォッ!」
異能の全てを音響探知に注ぎこみ、アルフライラはただ一つの目標目掛け弾丸の如く疾駆する───
最終更新:2022年01月10日 22:25