幸せはみんなと同じになることじゃないんだって、ナオとユーリが教えてくれたから



幼い少年の姿で、優理“直にいちゃん”から貰った答えを愛おしそうに抱いて、光の先に消えていった……
彼と入れ替わるように直の前に現れたのは、星界の巫女としての姿……ではなく、ずっと目にしてきた一人の少女としての姿のナーラ
彼女は告げる――

「ユーリが消滅してナオが生存したことで、最終演算結果は照合失敗ということになったわ」

「必然的に融合知性群体(わたしたち)は、この文明圏(ほし)の融合と同化を停止する」

「だから“私”として最後のお別れを言いにきたの」


世界は選別による滅亡の危機からギリギリで救われた―――
淡々と結果を読み上げる少女の言葉から、その事実を知る直。
そして、もう一つこれがナーラという少女の個が存在できる最後の時間であるという事も。
この先彼女は知性群体の一部に組み込まれ、限りない不死の存在として星々を巡る悠久の旅に出るのだと。

ナーラは、自らのよく知る二人のやり取りを見ていたと言い――

「嘘をついてたんだね、ナオ。みんなを救うために」

少女の言葉に、自らにとっての真実とは何かをもう一度見つめ直して、青年はこう答えた。

「いや……もう嘘じゃない」

「俺は、俺が幸先輩を死なせたことに、俺の決断以外の理由をつけるつもりはないんだ。幸先輩の願いとも関係なく」

――何故なら俺は、その答えを貫くために優理を手にかけてしまったから。
もう、それを取り消すことは、あいつの魂に賭けて許されない。
心の奥に深く固くしまい込んだこの本音は、もう誰にも見せることはない。
この胸の中で一生、優理が真実の墓守を務めてくれることだろうと――。

直の静かな、しかし揺るぎないその答えに。

「……うまくいかないね。私、みんなを幸せにしたかっただけなのに。
ナオやサチのように、私も幸せになりたかっただけなのに………」

小さな窓の向こうに広がっていた、二人の男女が紡いだささやかで、でもとても優しい景色。
もう手が届かない程遠く、色あせてしまった輝きを思い消沈するナーラに、直は優しく語って聞かせる

「そうさ。難しいよ、人間は」

「心はみんなで違うんだから。良かれと思っても上手くいかないこと、わかり合えないことだってたくさんある」

うつむく、小さな彼女の頭を撫でながら。

「けど、わかり合えなくたっていいじゃないか。それぞれ違う俺がいて、ナーラがいる。
幸福の形が同じじゃなきゃいけない理由なんて、何処にもないんだよ」

不思議そうに、彼を見上げたナーラは問いかける。

「ナオは、それでもいいの……?」

神代直は、胸に去来する喪失の痛みに耐えて、微笑みと共にこう答えるのだ。

「ああ。俺は、自分のやり方で、いつかきっと幸せになってみせる」

「たとえ………」

「たとえ、孤独(ひとり)でいようとも」


―――ナーラも、自分にとってのそれ(幸せ)を探しに旅立つのだろう?
そう続ける直には、一つ問いかけるべき事柄があった。
再び、知的種族の生きるこの星に知性群体は訪れることはあるのだろうか、と。


「さあ……どうだろうね」

それは、彼らの一部となろうとする彼女にも見通せぬ未来だったが。


「でも、融合知性群体(かれら)の中に、ちっぽけだけど私も融けることになるから」

「ナオとユーリがぶつかり合った想いを知っている、この私がね」


「だから、もしもう一度その時が来ることがあったら……
その時は融けているのをやめて、ナオみたいに孤独(ひとり)になっても抵抗するよ」

「幸せはみんなと同じになることじゃないんだって、ナオとユーリが教えてくれたから」


そう言って悪戯っぽく笑む姿は、やはり彼のよく知るナーラのそれだった。

「そうか……なら……」

彼女の答えに、人類は微かな希望を得られたのかもしれないと思う直。
互いに譲れないもののために、己と優理が戦い、優理が命を落とした事にも意味があったのかもしれないと……
こみ上げてくる想いとともに直は続く言葉を呑み込んだ。


「――じゃ、お別れだな」

「――うん、さようなら。ナオ」


……二人の間で小さな握手が交わされ――それが最後の別れとなった。




  • 切ないよなぁ・・・でもこれで良いんだろうなぁ 取りこぼしたもんは多すぎるけど、得たものもちゃんとあったんだなぁって -- 名無しさん (2020-03-31 18:06:01)
  • 他のルートじゃナーラを忘れる直が忘れずに済んだ代わりにナーラまで喪う悲しみ背負っていくのがのがホント不幸悲しすぎて… -- 名無しさん (2020-12-24 18:00:03)
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最終更新:2021年01月15日 16:24