だからこそ俺は夢を見る。想像力を駆使し、可能性を拡げる。そしてその為に、死力を尽くす。君を……その終わりのない殺戮の歯車から解き放ってやりたいから!



親友に背を押され、ようやく青臭い自分の本音を自覚し突き進む凌駕。
兵士として生きるため、今も心惑わす幻影を振り切るべく疾走するエリザベータ。
マンドレイクジャマーにより静まり返った街で、戦場で、日常で、互いに交わり合った二人の男女は再び対面し、
初めて彼らが出会った(死合った)地下駐車場(廃墟)へと共に足を向けるのだった


か、どちらかのによる因縁の清算を望む女戦士(・・・)に少年が投げかけるのは、自分の側への勧誘の言葉。
居場所なら自分が作ってみせる
死ぬまで時計機構の走狗となるのではなく、自分の傍で共に闘う道はないのかと

それを“兵士”のエリザベータは冷たく「話にならない、生き残る確率が違い過ぎる」と切り捨てる。
だが凌駕にとって、彼女のそうした返答は予想できていた事であり……
「図々しくて訳の分からない提案だったろうし、逆の立場なら正気を疑う言葉だっただろう」と告げた上で――
窮屈な建前を投げ捨て一人の男として、隠す事のない衝動をぶつけてゆく。

「だから……後は、言葉以外で証明してみせるのみ。
機構の側より俺の傍にいた方が安心だと、君にそう心変わりをさせてみせる」

「機構に居たならば、君は“エリザベータ・イシュトヴァーン”を殺してしまう……俺は、それが嫌なんだ」

少年がそう口にした瞬間、空気が一気に張り詰める。
しかし凌駕は構うものかと、己は正気(まとも)じゃない。ぶっ壊れてしまっていると開き直って……

「簡潔に言って、男の見栄さ。俺は君の素顔を守るためになら──全ての歯車を粉砕できる」

故に躊躇はしない。これから、兵士としての彼女と全力でぶつかるのだと


「そう……改めてよく判ったわ。あなたと私は、生きている世界が違うという事が」

「お伽の国に生まれた夢見がちな坊や。あなたの耳に、あの音(・・・)は決して聞こえない。
この世界を動かす暴力(ちから)が奏でる轟音は……」

「砂糖菓子のように甘すぎるその愚想を、ここで私が終わらせてあげる」


冷徹な言葉と共に、エリザベータの気配が完全に切り替わる(・・・・・)
彼を見つめる琥珀の瞳から、“秋月凌駕”は消え……映るのは排除すべき一体の敵性刻鋼人機のみ
しかし、そんな戦士の姿に微塵も怯えることなく、それどころか凌駕の心には“リーザ”への懸想が一層強まるばかり
――自らの手で、彼女を救えるかもしれぬ、その最後の機会に立ち会えている事に、震えが止まらない。
――優しく、甘く、愛を囁かれる以上に。


「そうさ、逆立ちしたって俺たちの生まれは変わらない」

「けれど、だからこそ俺は夢を見る。想像力を駆使し、可能性を拡げる。
そしてその為に、死力を尽くす。
君を……その終わりのない、殺戮の歯車から解き放ってやりたいから!」

「認識が甘い? いいや違うさ。俺はとうに、君への熱で壊れてるッ!」


彼女は俺を、“相容れぬ敵”としてただ撃滅する為に。
俺は彼女を、“守るべき女”として運命から強奪する為に。

理由は互いに異なれど、その為の手段だけは合わせ鏡のように符合する二人(俺達)は、
今───共にその身を(ハガネ)に変える。

起動(ジェネレイト)!』


決意と共に閃光(ひかり)が走る。胸の機関が咆哮する。闘志が武装を成していく。


『────往くぞッ!』


共に生まれ変わりしは、異端科学の超人機。両者同時に闘う力を身に宿し、裂帛の叫びで戦端を開くのだった。


「容赦はしない! 躊躇もしない! 俺の全てを君にぶつけるッ!」

「初めてなんだ。こんなに何かを……誰かを救いたいと願った事は! 傍にいたいと感じたのは!」

「怖くて、不安で、自信が無くて……自分がバラバラになりそうだ」


「けれど───それでいいッ!」


エリザベータ・イシュトヴァーンの身も心も、全てが欲しい。
その感情は想うほどに、焦がれるほどに強さを増していく。




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最終更新:2022年09月27日 21:55