清めの一杯だと酒を勧め、血の匂いから、先程までトシローが何かしらのトラブルに遭遇したのだろうと推測するアイザック。
それに対し、トシローは
凶暴な素養を持つ新入りと
賜力を用いた命のやり取りにまで至った事を告げ……
アイザックは、愉しげに笑みを浮かべながら、心の奥に深く入り込むような声色で問いかける―――
「で……そいつは、何を望んでいた?」
「珍しくもない……身に余る力を獲た事で血の気を増した、お調子者だ。少々血抜きはしておいたが」
縛血者になる者は大別して二通りがいる。
すなわち、
望んでなった者と、
そうではない者とが。
トシローは夜警としての経験か、それとももっと深い過去の影を思い起こしてなのか……
面倒な事をしてくれた――また増えた頭痛の種、幻想を懐いた童の姿に苦々しい表情を浮かべる。
「俺には理解できん……なぜ、そうまで容易く己の舵を手放す事ができる?
どこまでも人である現実に目を閉ざし、虚構の怪物などに魅せられる……?」
そんな、いつも通りの「縛血者らしからぬ」持論を語る友を前に、
アイザックは、軽薄な笑みを浮かべその問いかけの核心をはぐらかすのだった……
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しかし、実態は―― |
こうした分別のあるような発言を度々漏らすトシローであるが、物語を進める程に
彼自身は揺らがぬ己自身を手に入れているつもりが、実際は愛情であれ、忠誠であれ、憎悪であれ、理想であれ……
何よりもトシロー自身が何かに命を賭けようとしては葛藤し、
再び、醒めた眼で現実を斜めに見たかと思えば、過去に心奪われ揺らいでしまうという状況にある。
ある意味、このセリフもトシローという《人間》の抱えた業を示す一つの例かもしれない。
「……だから迷う。いつまでも、飽きることなく」
死者に答を求めているから、一歩も歩き出せない。
自嘲した笑みを湛えたまま、規律に頼って一つの歯車になりたがる。
滅私を至上とした理想に似ているだけに、傾倒も早い。揺るがぬ自制は奉仕という名の逃避だ。
何かに成るという死後の旅路を終わらせたい、なのに新たな道を用意されたがっている。
答えを出せる唯一が、彼女しかいないと知っていながら。
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- モーガンさんとかはこういう発言を聞くたびにイラっとしてたんだろうな。そりゃ苛つくわな。 -- 名無しさん (2020-04-24 01:45:51)
- 昏式・高濱ラインはデビュー作品から主人公が駄目人間やなって -- 名無しさん (2020-04-24 12:54:53)
- これってようするにいついかなる時もケアレスミスするなって言ってるようなもんだからな -- 名無しさん (2024-03-01 18:24:37)
最終更新:2024年03月01日 18:24