ここから始まるんだぜ、俺とおまえの物語は───



アンヌ√、仮面の奥の正体を暴かれたアイザックが、過去の影の重みに動けずにいるトシローへと告げた去り際の台詞。
凄惨な事件を引き起こしてきた張本人でありながら、あまりにその口調は穏やかかつ爽やかであって、
この物語全体で大きく影響を及ぼす、トシローを狙うアイザックの“裸”の決意表明であると同時に、理解者であり友人だった事実を確かに感じさせる所もある。



負傷を恐れる事無く咆哮と共にトシローの封縛を破った、“三本指”を名乗る覆面の男。
追い詰められながらも満足気にトシローの名を呼ぶその姿に、トシローは白刃を閃かせ――

「流石、いい腕してるな。このイケメンには傷一つ付いてないぜ」

其処に居たのは、『カサノヴァ』と共に炎に消えたはずのアイザック。
茫然としたのは一瞬。戦士として現実を冷静に受け止めるべく、トシローは簡潔に問いかけた。

三本指(トライフィンガー)を名乗り、この街の同胞を牙に掛けた……それは全て、おまえの所業か?」

――それに対しアイザックはただ一言。

「ああ、そうさ。全部俺がやった事だ」

「そうか」

容赦なく法の番人として、トシローは一個の咎人に刃を振り下ろすも、
おどけた調子を崩すことなく、鋭い彼の一太刀をアイザックは難なく躱して見せたのだった。

「ならば俺は護法の刃と化すまで。死んでくれ、アイザック」

先の賜力を破ったその胆力と合わせ考え、目の前の相手を油断ならぬ強敵と認識し、刀を構えるトシロー………

「そうかい……マジって訳か。なるほど、おまえはそういう男だったな」


友は既に夜警という暴力装置に切り替わったと察するアイザックは、しかし微笑を絶やさない。
それは、トシロー・カシマに対する絶対の切り札が彼にはあったからであり……

───けどな。如何におまえでも、自分で自分の()を裁けるのか?」

瞬間、己を研ぎ澄ましたはずのトシローの心臓が跳ねた。
第三者から見れば、何を意味するか理解しかねるアイザックの謎めいた言葉。
だが、己の過去からの影を予感していたトシローには、それは十分すぎるほどに意味を伝えていた。

「何が目的なのだ……?」

目の前の咎人を断罪するための一太刀……それを振るうための力が、彼の腕から見る見る抜け落ちていく。

その姿に、満足気な笑みを浮かべ……

「ようやく、まともに話ができそうだな。そうさ、俺は仮面を脱いだ。
おまえも処刑人なんて仮面は捨てちまえ……

その時―――二人の元へシェリル達の靴音が近づく。


「ち──これからって時に水入りか。まあいいさ。
大事なのは今夜、こうしておまえと裸同士(・・・)になったって事実だ」


アイザックは意味深な言葉を残し、狭い下水溝の一つへと身を潜らせ、姿を消そうとしており……
それを夜警として阻止すべきはずのトシローは、その場から動くことはできなかった


そして立ち尽くしたままのトシローの耳に、最後に届いたのは。


ここから(・・・・)始まるんだぜ、俺とおまえの物語は───」


ようやく捉えた獲物を過去の闇へと誘う、深い愉悦を含んだ友の声だった。




  • 裸(意味深) -- 名無しさん (2020-05-29 08:43:05)
  • 腐れバーテンダーの抜剣デス! -- 名無しさん (2021-10-08 18:56:38)
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最終更新:2021年10月08日 18:56