――“アンファング”結成前の一幕。
ひょんな事から、さつきとレオナ、そして忍と共に難関ダンジョン、通称“Aegis”攻略に挑む事になった零示。
その道中、仲のよさそうな雰囲気を感じ取っていた忍が、三人はクランを組んでいないのかと素朴な疑問を投げる。
――それに対し、零示とレオナはそもそも、独力、持ち前の能力で立ち向かうタイプで発想すらしなかったと返し……
さつきの方も過去協力したプレイヤーと偶にパーティを組むが、基本は単独でのプレイだと告げていた。
忍のその言葉に、改めて現在のパーティの顔触れを振り返る零示。
札付きの無法者。アリーナの絶対女王。名の売れた世話焼き探索者。それに加えてGMの一般参加。
―――話題性としては中々のものだろうか。
そうした中、話の流れに乗る形で、レオナが記念として形だけでもクランを作ってみないかと提案してくる。
「却下だ。興味ねえって言ったろうがよ」
「ワオ、速攻に切り落とすのね。いいじゃない、せっかくの機会なんだし
何も一生モノってわけじゃないのよ?これぞイチゴイチエなりってね」
「おまえの立場が一番面倒なんだろうが。ここにいる全員、無駄に騒がれる羽目になるがいいのかよ?」
自分が好き勝手やって噂や憶測が幾ら立とうが気にはしないが。有名人と近しくなって知名度が上がると碌なことにならないだろうと。
懸念する少年をよそに、さつきはレオナの提案に乗り気の様子で……
「そんなに重く考えることじゃないし、気に入らなければ数日でクラン解消しちゃえばいいでしょ」
「“インスタントクラン”か……そうだな、初めて会う人達と数回限りのクエスト用にクランを作るというのはEAだと珍しくもない」
話が女性陣営有利に傾く中、それでも零示は抵抗する
「知ってるっての。しかもそれ、出会い系がよく使うやつじゃねえか」
「だからそれが何よ」
インスタントクランがこの場合適しているとは分かっていても。
さつきが零示を男として見ていないとしても。
――男女比1:3。それでインスタント組んでいるのは、いかがわしいことこの上ないだろう、と。
渋る少年に、論点を察したのはレオナ。
そのまま彼女は、悪戯っぽく口角を吊り上げて―――
「つ・ま・り、レイジが美少女三人を侍らして、ハーレム築いているように見えちゃうわけ。
よっ、男冥利に尽きるわねこの色男っ!」
「あー、あーあー……なるほど。ないわー」
「く、淫猥な……! 恥を知れッ」
自分なりに配慮していたはずが、容赦ない女三人組から、容赦なくイジられた狂犬クンは叫ぶ――
「ははははは───
てめえら、名誉毀損って知ってっかコラァ!」
「そんな怒らなくてもさあ……むしろ普段の噂からすれば可愛いほうじゃない。病院送りより健全だと思うけど?」
「変なプライド張るくらいなら、いっそ腹くくりやがれ……っと。
ねえみんなクランの名前何にする? 後はもうそれだけで登録完了できるから」
だが、そんな幼馴染の扱いも慣れたもの。さつきはさわやかに、かつ自然に彼の怒りを流してクラン結成の手続をほぼ終えていた。
その姿に内心で溜息しかでない零示であったとさ……。
最終更新:2021年03月20日 23:41