通い妻、よね……もはや

発言者:滝沢 さつき
対象者:阿笠 忍


忍ルート……EAに忍び寄る暗雲がその濃さを日に日に増していく中、零示現実(リアル)は今日も穏やかな朝を迎えていた。
少年の部屋の台所で、その料理の腕を奮うのは幼馴染のさつき……ではなく

「さあ、出来たぞ。さつき、炊飯器の電源を止めてくれ。箸の用意も頼む」

「は、はい……」

一か月前(・・・・)さつきの代役を買って出た忍センパイである。――頼み事をされたさつきは、それに答えるも……。
元々の役目からはみ出した(・・・・・)現状と、生き生きとした表情で仕事をこなす幼馴染の姿を前に、
自分はどうしたらよいものかと若干微妙な表情を浮かべていた。
それは、先輩とこうした関係を続けている零示も、率先して動いてもらっている現状に水を差すのはどうかという感じであり。
テキパキと準備を進める忍を他所に、二人は小声で話す―――

「ちょっとちょっとどうなってんのよ? 確かにさぁ、忍先輩にあんたの世話を頼んだのはあたしなんだけど……
なんだかんだでもう一月近くもこのままじゃないの」

「オレに言われてもな……おまえの方こそ、自分で言ったらどうなんだよ?」

「そんなの言ったわよ……とっくに。“ありがとうございました。もう大丈夫ですから――”って……でもね?」

「“うむ、わかった”──って、笑顔で返事したきり……」

「……そうなのか?」

「そうなの……!そんな風に清々しく返されちゃうと、もう何も突っ込めなくなっちゃったっていうか……」

そう言って困り顔を浮かべるさつきと、
そう返事をしたにもかかわらず、毎朝朝食や掃除、洗濯をしてくれている忍を見て零示も再び黙るしかない。
ともかく、理由は不明ながらも甲斐甲斐しく世話を焼き続ける先輩の姿を見て、二人の意見は重なっていた。

――何と言うか、これは………

「通い妻、よね……もはや」

そうしてまた、ため息混じりにさつきは頬杖をつく。

「息子の世話を嫁に取られた姑の気持ちってこんなのかしら……自分のやる事無くなっちゃってなんか悔しい」

「なんだ、妬いてるのかよ?」

そう、零示が彼女をからかうと、真っ赤になってさつきは捲し立てる。

「ば、バッカじゃないの!? 誰が嫉妬なんてするもんですか!
あたしだって本当はせいせいしてるんだから!毎朝ゆっくり寝てられるし!
あんたの好き嫌い直すためにしめじやしいたけ微塵切りにして混ぜたり、ほんっと大変だったんだから!」

「なんだ零示……君はしめじが食べられなかったのか?
そうと知っていれば献立を一考したのに……普通に食べていてくれたから、つい気づかず」

さつきの大声を聞きつけ、リビングにやって来た忍。だが、当のさつきは忍の言葉に目の色が変わっていた。

「えっ!?……ちょっと零示、あんたいつの間にしめじ食べられるようになってたのよ!?」

いつもの調子が戻りつつあった幼馴染に、「いつまでもガキじゃあるまいし、好き嫌いくらい直ってる」とため息をつく零示。
それに対し、彼女なりにこだわるポイントがあったのか目に見えて臍を曲げてしまうさつき。

「……どうしたんださつき? 何かまずい事でも言ってしまったか?」

「ほっといていいぜ。その内コロっと機嫌が直るんだからよ。この天気屋は……」

二人の間のペースが掴めず困惑する忍と、ため息しか出ない零示。
―――だが零示の予想通り、朝食が始まると忍の朝食の味にさつきは昨日と同じく(・・・・・・)頬を緩ませるのみ
“コイツ、なんだかんだ理由をつけて忍の作る朝飯目当てにウチに来てるんじゃあるまいか”
少年は新たな疑惑を抱きつつ、三人の朝食の時間は穏やかに流れていくのだった。




  • なんだこの正統派ラブコメは(困惑) -- 名無しさん (2021-11-03 20:48:13)
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最終更新:2023年08月06日 00:27