突然夜空の彼方から響いた轟音が、両者の意識を釘付けにしていた。
数百メートル先の市街地、
ギアーズ所属の飛行兵器に苛烈な砲撃を続ける、
謎の人型兵器。
ロビンフッドに属してもいない、その兵器は遠く離れたこの場所においても、圧倒的な死の気配を感じさせ……
その輪郭を視認しただけで凌駕は、自分達とは異質にして隔絶した怪物性を直感していた。
……硬直した凌駕に対し、イヴァンは
指揮官からの通信を受ける。
『撤退せよ、ストリゴイ。乱丸の機体損傷が危険水域に達している。イシュトヴァーンの援護も間に合わぬ。
貴様は甚大な損傷を負った。よって《無名体》の鹵獲作業は失敗と判断する』
『以上のことから、即時帰還せよ。これ以上の消耗は見逃せん』
「へぇ……そいつは最優先の命令で?」
『最優先でだ』
「……了解だよ、少佐」
「生憎だが、今夜はここまでのようだぜ……軍人ってなア色々と世知辛い縛りがあってなァ」
相手の立場からすれば当然の行動かもしれないが、しかし……凌駕は仲間を奪われた怒りを隠せない。
「待て、ふざけるな……!おまえを、このまま生かして帰すと思うのかッ……!?」
「ああ、素晴らしき因縁なるかな……この俺だって、口惜しい事この上ないぜ」
その怒りを受け止めつつ、イヴァンの新たな“戦友”を見つめるその瞳は、あまりに穏やかで、恍惚の色に染まっていた。
「だが、これで終わりじゃねえさ。生きてる限り、俺もお前も闘い続けなくちゃならねえんだからなァ……」
「だから今夜は、ここで幕って事にしとこうや……先も言ったろ、お前の勝ちだ。
悔しいが、同じ輝装段階じゃ劣勢だったってことだろうし……」
「チッ……やっぱり苦えな、敗北の味って奴は……
次は必ず、おまえにこの味を堪能させてやるぜ――なあ、戦友?」
友も、仲間も、誰一人守れなかった己が勝者……?
イヴァンの称賛ともとれる言葉は、今の凌駕にとってはさらに怒りの炎を滾らせる要素でしかない。
そのまま、背中を向け立ち去ろうとする敵に、少年は追いすがろうとするも捨て身の特攻で既に肉体は限界だった。
「……ッ、待て、戻って来い……ッ!!
俺は、おまえたちを許さない――ッッ!!」
武装は砕け、両の脚だけで身体は支えられず……不様に四つ足で這いながら、秋月凌駕は絶叫する。
トドメを刺せなかった無念と、見逃された悔しさ。
闇の中に姿を消したイヴァンの背中をじっと睨みつけ、彼は無力さを噛み締めることしかできなかった――
- 怒張してきたぁー! の対義語である -- 名無しさん (2020-09-26 23:55:47)
最終更新:2021年07月10日 22:18