これでついに、ようやく私は───私の望みに手が届く



ジュン√――機械神が見下ろす中で、遂に反逆者と実働部隊の決戦が始まる。
戦艦要塞の火砲を潜り抜け、マレーネが突破口を切り拓き、軍人達の放つ影装の脅威に美汐が立ち向かう中で……
中核メンバーにして、オルフィレウスの主要観察対象となった凌駕ジュンは、ネイムレスとアレクサンドル、二体の鋼鉄(ハガネ)に立ち向かっていた。

どこまでも計算され尽くしたアレクサンドル達の殺戮の技に対し、少年少女は背中を押してくれた仲間達の想いと互いの絆を胸に、信じ高め合う。

だからこそ、斃す為に闘っている相手だとしても……
彼らには人間としての個を殺し、冷たく自らを削るように振舞うアレクサンドルの姿が痛ましく映っていた。

ここまでに至るまでの道のり、関わってきた人たちの想い――あんたにだってそういうものがあるはずだろうと。
命令だけで動く機械などではなく、おまえは生きている人間だろうと。
生きてもう一度会いたい人、叶えたい、託したい未来への希望はないのか……
戦場でありながらも、凌駕とジュンは、使い捨ての歯車(踏台)などではない、アレクサンドル・ラスコーリニコフに問いかけ続けるが。

鋼のような指揮官は、僅かに目を細めて答える。


「お前達の論点はそこか。関わった者への感慨……それを思い出せと言うならば」

「どうやら、絶対的な勘違いをしているらしい」


迫り来る攻撃を弾き、退く瞬間……彼の瞳に初めて意志の光が見えた。……だがそれは、とても明日を目指すような自己を誇る光にあらず。
むしろその逆。己を見限り、全てを否定し、終わらぬ苦行を求める昏い奈落の輝きだった。

「私にとっても益はあるのだ。英雄などという蛆の(たか)る骸の御旗は、跡形もなく砕け散るべし」

安息など、未来など、この身には不要……砕け散るまで使い捨てられて当然の存在だと。

「かつて溢した無辜の民に、墓前の花と償いを。願うが故に、餓え乾いた」

アレクサンドル・ラスコーリニコフという男は、心底見下げ果てた塵である。
そう断じる姿勢は、自らへの憎悪で構成された内罰だ。それを証明すべく、小さく乾ききった唇を動かして―――


「そうだ。これでついに、ようやく私は────」


『認証───汝が陰我(イド)を問う』


「私の望みに手が届く」


――鋼鉄(むね)の奥に秘めた祈りを解放した。


《影装・絶戒刑刀(アブソリュート・パニッシュメント)



「さあ───真理に至る者達よ。胸に宿した覚者の解で」

「この私を、裁いてみるがいい」



……発動する殉教者の影装。それは、振動結界という形をとった、この男が内に抱えてきた慟哭そのものだった。
破壊の波動に、装甲を砕かれながらも凌駕とジュンは男の抱えた苦しみに触れ、悲しみの叫びを上げずにはいられない。

――自分が一番大嫌いで、誰より己自身を許せない。失った過去に、してやれることなどない。
――そして、こんな罪科に塗れた愚者こそは、何時か悟りを得た何者かに清く正しく裁かれるべきだ……なんて。

あまりに重い自罰の念は、殲滅のみを志向する機械の兵の無慈悲な行進と合わせ、
若者達の想いが、真理に値するか否かを厳しく糺そうとしていた………




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最終更新:2021年12月08日 23:24