あなたの他に、求めるものなど無いと言ったァァッ!!



それだけ宿せば、これからの回収も容易かろう。励めよ、バイロン。今のおまえは良き器となった。
回収を続けるがいい、さすれば、おまえという器はより満たされるだろう。

……《伯爵》よ、あなたは今の私を見てそれだけ(・・・・)しか思わぬと?
幼いこの身を導いていた時間……思い出しませぬか?我らが二人であった時、あなたは事有るごとに私を褒めてくれたではありませんか……!


……ああ済まぬな、忘れていた。
よくやったバイロン(・・・・・・・・・)おまえは私の自慢だよ(・・・・・・・・・・)──これでよいか? では行くがいい、迅速な仕事を期待する。

やはり、判りませぬか……!

強欲だな、まだ求めるか? 欲しい言葉があるなら言え、満足ゆくまで囁こう。

いいえ……そのような言葉遊びに意味などありません。それでは私は報われない……!
あなた様の心から自然に生まれ出でた想いでなくば、意味など何処にありましょう!


予想以上に喰らったらしいな、バイロン。今の私に追随しかねんほどだ。
縛血者(ブラインド)として、そこまで強大になった者はいないだろう。


そのような、飽いた瞳での称賛など要りはしない!
聖者の如く高みにあり、個人を欲してくれはしない!
何故どれほど愛を叫ぼうと、“言葉”だけしかくれぬのだ!

並び立った、上り詰めた。そう語りながらまだ、あなたの視線は道具を見つめる所有者の目ではないか!

御身はッ……何故、狂おしく───私をその腕で、抱きしめてはくれないのか!


何故と?単純な話だ。おまえは我が美観に抵触する、即ち“醜い”……直視に耐えん。



総数四桁に届くであろう血族の魂を吸収し巨大な力を得たバイロンは、数百年分の想いを籠めて父であり憧れである《伯爵》と対決する。
だが、闘いの始まりより、《伯爵》はバイロンがどこまでも自分に執着し、そこから脱却する姿勢すら見せないことに冷淡な反応を返すのみ。


「もはや気づいていよう、おまえは我が謀の駒に過ぎん。雌雄併せ持つおまえを仔としたのは、救いの手で縛る演出(・・)だ」

「理不尽な痛苦だったろう? 何故だと恨み、己の身体と世の不条理を憎んだはずだ。
だからこそ、私が手を差し伸べるにはうってつけだった。どこまで従順であるかを試す、試作品(・・・)としてな」

「疑いなく後を追い、二心なく頷き、姿を晦ませば律儀に我が影を追う……まるで鴨の雛だ。
当然だとも、そうなるように仕組んだのだからな」

「バイロン、おまえが自覚する精神は自我などではない。一体の怪物により造られた、歪な傀儡に過ぎんのだ」

自覚なき創造物(・・・・・・・)。自らに疑いを投げかけぬおまえは、自分自身に巡り合う事ができぬ」


失われた肉体を淡々と再生させながら、軽く腕を払う(単なる筋力)だけでバイロンの躰を打ち砕く夜の王。
――彼は、未だ己に課せられた筋書き(・・・)しかなぞれない、想像通りの働きしか見せない仔を「醜い」「つまらぬ」と一蹴する。


「自ら台本を組んでいながら、あなたは私を受け入れぬと!?」

従順であるからこそ、認められぬという事実。それは、あまりに無体ではないか。

「歯車で結構ですとも。私もまた、あなたの一部と受け入れてくれるのならば」

「――つまらぬから袖にされるなどと、そのようなことを! 御身は!」

「阿保め、おまえが言うな(・・・・・・・)


――だが、《伯爵》はそれこそおまえの歩んだ道筋そのものだろうと鋭く切り捨てる。
子も、臣下も、敵対者も、全ては取るに足らぬ道具。
彼女が実践してきた行動が、今や最大の皮肉となって彼女自身へ向かい返された。


「未だに依存し、妄執へ縋るその醜態。だからつまらぬ(・・・・)と言うのだ。
駄々を捏ねる暇があれば、可能性を見せてみろ」

ニナの方が幾分かは賢い。あのまま魂を明け渡すかと思えば、今は私を討とうと決めている」

「おまえと同じく、私へ全てを差し出すように仕組んだはずだが……中々どうして、大したものではないか」


その不確定な事象こそ、《伯爵》という超人が感じる唯一の娯楽なのかもしれない。
長年をかけて進めた謀に、所有者に従う『柩の娘』。
――不測の事態は起こらない。だからこそ、思惑を超えた決心に彼は美観を感じるのだろう。


「これよりどのように踊るか、楽しみだとも。
回帰に至るまでの手慰み……いや、それ以上になるやもしれぬ」

「しがみつく幼子とは大違いだ───そうであろう?」


《伯爵》の言葉さえ振り切ってバイロンは駆け抜ける。
己が想い人は意思を曲げぬと知っている。ならば後は、力ずくで手に入れるだけだ。



「あなたの他に、求めるものなど無いと言ったァァーーッ!」


故に、全力。喰らい餌とした魂を燃料に、無明の闇は眼前の全てを侵食し咀嚼するだろう。
命を燃やし、燃やし、燃やし、燃やし尽くす突進。
全身の骨肉が膨れ上がった異能により歪みだすも、構わない。


「猛り、貪れよ──狂人塔楼(ルーム・イン・ザ・タワー)ァァァアア!!!」



そして、遂に――瞬きにも満たない刹那。
バイロンの膂力が《伯爵》の反応速度を上回り、影を纏いし爪が《伯爵》の胸板を捉えた───その時。異変は突然に訪れる。




  • 一瞬糞眼鏡の台詞かと思った -- 名無しさん (2020-09-24 15:40:52)
  • 糞眼鏡はチトセや閣下に嫌われてもどこ吹く風で自分が好きだから問題ないスタンスだから… -- 名無しさん (2020-09-24 17:57:41)
  • どちらかって言うと相手にも本気で向き合ってほしいって本気おじさんのそれ。 -- 名無しさん (2020-09-27 15:14:13)
  • 伯爵も後々自覚なき創造物がブーメランになるあたりlight作品はブーメラン合戦だぜ! -- 名無しさん (2020-09-27 15:17:08)
  • 閣下ってあったっけ?誰だよ関連はブーメランではないし -- 名無しさん (2020-09-27 15:28:26)
  • ↑2まぁその帰ってきたブーメランを踏み台にして覚醒するんだけどね -- 名無しさん (2020-10-02 10:08:43)
  • 英雄(お前)の他に、求めるものなど無いと言ったァァッ!! -- 名無しさん (2020-10-17 15:35:03)
  • ↑ノンノンノン……もっっと愛を籠めてッ……! -- 名無しさん (2020-10-30 01:25:32)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年12月28日 22:00