憐れみをやろう、バイロン。最後にもう一つ、おまえに真実を見せてやる



グランド√、数多の命を喰らってなお飢える魂を抱えて絶叫するバイロン()に対し、
最後の教えであると告げるように絶対的な「格の差」をはっきりと突きつける《伯爵》()
その二人の最後の交錯が描かれるシーン。でもまだ真に覚醒してない(絶望)


取り込んだカーマインマジェンタの権能を利用し多数の縛血者(ブラインド)の魂を喰らったバイロンは
飛躍的な強化を果たし、《伯爵》という無二の存在を奪い取るために過去最高の一撃を放ったが……

胸板に突き立てようとした腕が、まるで陶器のように砕け散る。
吹き飛ばされた躰は血も流さず、痛みを感じずに、無機物のように罅割れていく。
呆然とするバイロンに《伯爵》は淡々と“種明かし”を始める。

魂の飽和(・・・・)だ。生まれ得た、その躯のな。生来の容量に限界が来た。言ってしまえば、ただそれだけの事だとも」

の魂をかき集めれば、存在はより堅牢となる。ならば当然、自らの内へと蓄積されよう。
限界(・・)なのだよ、バイロン。おまえは確かに我が直系だが、所詮はその程度。他に比べて若干の耐性があるだけだ」

「如何に後天的要因で補おうと、生まれ持った容量(ししつ)は変えられん。それがおまえの限界、魂の上限なのだから」

告げられた無慈悲な事実に、際限なく燃えていたはずのバイロンの激情は急速に冷え切っていく。

「そんな……ならば、私は―――」

《伯爵》に追いつくためには『柩の娘』を利用しなければならず、しかしそれによって得た強化はいずれ自己の限界へと突き当たる。
『柩の娘』を使う事でしか勝機はない。その時点で既に、どのような行動をしようが王の絶対勝利は揺るがないのだ。
最初から勝敗の決まっている舞台劇(ミュージカル)。二千年の時をかけ用意した台本を壊さぬ限り、《伯爵》に敗北はない。
皮肉にも“吸血鬼として正しい行動”を取れば取るほど、彼の仕組んだ演出をなぞっていくのだ。


《伯爵》が語ったように……バイロンの生涯はとっくの昔に定められていたのだろう。
その心も、勝敗も、末路さえも。《伯爵》と出会い、人ではなくなったその時から。


「憐れみをやろう、バイロン。最後にもう一つ、おまえに真実を見せてやる」

その言葉と共に、王は失意に沈むバイロンの影の異能から、二体の人形を奪い返す。

「見るがいい、柩の娘──その本来の使用方法(・・・・・・・)をな」

本人にしか扱えぬはずの賜力、そこに容易に干渉してしまった《伯爵》は、静かに語り始める。
それまで持ち主である王の神秘性、強大さ故に誰も追及してこなかった問いへの答えを。
すなわち、『柩の娘』とは、何からできているのかという事
使用者に殺した血族の魂を譲渡し、吸血鬼へと近づける───否、回帰させる(・・・・・)この器物こそ。

「その材料こそが、吸血鬼(ヴァンパイア)リリスの躯(・・・・・)こそが、この人形を組み上げし素材なのだ」

そうして無欠の魔人は、傍らに無表情で立つカーマインの頭蓋を掴み、一息に砕いてみせた。

「“魂”の回収が過ぎれば、次は“肉体”。器そのものを、始祖と同一の器物へ新生させん。この魔神器によって」

頭部を失ったカーマインの内から、ソレ(・・)は現れた。迸る血液が生き物のようにしなり、形を成す。
紅く輝く血肉は硬質化し、脊柱を支点に一本の魔槍となった。
妖しく輝く魔槍はそのまま、接触した《伯爵》の肉体へと融合を始めて――


「我、新生の器とならん。これにより、カーマインは《伯爵》と成った。
備えし機能も全て、我が身の一部となっている」


――勝てない、勝てるわけがない。
ただ在るだけで他を圧倒する威容。並ぶ者なき闇の支配者。
人類の血を喰らい夜を謳歌する、この世に唯一存在する理想の姿。

予め定められた次元の違い、埋めようのない力の差。
全身全霊を賭けた一戦さえこの絶対者には遊戯(ハンデ)だった。

否定することなどできない。目の前にある現実が、それを許さないと理解する。



「――――吸血鬼(ヴァンパイア)……」


これこそ、彼が追い求めた姿であり、彼女を縛り続けた憧憬。
そして想像もつく。これでもまだ完全には遠い(・・・・・・)のだと
『柩の娘』は三体。そして、取り込んだのはカーマイン一体。後は簡単な引き算だ。大雑把に見積もっても、今より更に二度は上限を突破する

及びもつかない領域へ、《伯爵》は辿り着くに違いない。
対峙しただけで眺めた者の目を焼き払う絶対者へ。始祖と血族の魂、全てを宿す怪物へと。


「去らばだ、不肖の仔よ。美しくはなかったが、おまえはよく働いてくれた」


そのまま、《伯爵》は無防備を晒したままのバイロンを砕くべく手を翳すも……






  • (私はあと二回の変化を残している、その意味は分かるな…?) -- 名無しさん (2021-12-18 23:41:19)
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最終更新:2024年03月29日 09:18