グランド√……父と娘の、最後の語らい。
「怖いか」
「はい、たまらなく……恐ろしいです。狩人でもない、白木の杭でもない……
ただのアリヤ・タカジョウに戻るのが───身が引き裂かれるほどに、恐ろしい」
「大丈夫さ……おまえは、強い子だ。夜を滅ぼす装置の俺に、人の情を魅せてくれた。
おまえに出来ぬことなど、何一つないさ……」
一歩を踏み出すその怯えを、老人は認め、その上で乗り越えて生きてゆけると信頼を語る。
そしてアンヌにも、不器用な娘に日常のささやかな喜びを教えてほしいと頼み……。
ああ――参った。やはり俺は……無骨者の、ようだ。
次に、何を話そうか、教えればよいか……思いつかぬらしい、アリヤ。
本当に、これは参った。血生臭い逸話しか、俺の足跡には……ない。
遺言を語り終え、それでも残る僅かな時にも可愛い娘に何かを贈ってやりたい、と。
願うのに、上手く行かず。クラウスは複雑な表情を浮かべ、心底困り果てていた様子で。
───構いません。
それに対し、涙声になりながらもアリヤは続きを願う。
受け取るべき願いは受け取った。ならばもう会話の内容は重要じゃないと。
――私は、あなたの言葉が聞きたい。あなたの言葉だから、いいのです。
――他の誰でもない、あなただからこそ。
――父の昔語り以上に、娘が心惹かれるものなどありませんよ……お父さん。
死に連れ去られるまで、大切な親と話していたいと。少女は切に願った。
その言葉に、男は不器用な優しい笑みを浮かべて――
――ああ……おまえは賢いな、アリヤ。
破壊の喧騒とは程遠い、平和な時間が流れる。
沿岸部の倉庫地帯で流れるのは、老人が娘に贈る昔語り。
数分ほど続いた後に……その声は途切れる。
地に突き立った白木の杭は、月光に照らされた墓標のように、その影を静かに伸ばしていた。
人の伝説もまた、終わる。
一人の少女の過去を解き放ち、闇夜の攻防に幻と消えたのだった―――。
- 総統にもこんな救いが来ないものか -- 名無しさん (2020-10-20 17:13:04)
- 誰かしか愛せない破綻者だからなぁ -- 名無しさん (2020-10-22 02:55:11)
最終更新:2024年09月02日 23:39