こいつは最高の、死出の餞だ



マレーネ√、機人同士の闘争、その開幕の一戦を担った二人の男の別れの場面である。


迷う礼に、正道を外れた“ろくでなし”として生き抜く道を示したイヴァンは、彼にもう一つ、頼みごとがあると告げた。
間もなく命の灯が消える兵士が望んだこと。それは……

「殺り合ったあの時、俺はお前さんに言ったよなァ……『英雄に醜い死骸は似合わねえ、華のように美しく散ってくれ』ってよ……」

「ああ、憶えているとも……なんて身勝手な男だろうと思ったよ、正直ね」

追跡者からの組織への“勧誘”、それに対する“反逆”の宣言。そのまま決裂した両者による命のぶつかり合い……
初戦で、歓喜と共に鉄爪を振るった男の回想の言葉に、礼は温かな苦笑を漏らしていた。


「頼む、俺にもそうしてくれ。どうやら、このまま無様な鉄屑を曝して終わっちまいそうだからよ……」

「欠片も残さず消してくれ───俺を、英雄にしてくれ。なあ、戦友(・・)


息も絶え絶えであるイヴァンのその言葉に、礼は声なき慟哭にも似た真情を感じ取り――無言で立ち上がっていた。
展開されるのは漆黒の影装。そして―――

「たった今見えた、この先(・・・)の扉がある……成功しても恐らくは未完成。
不安定も良い所だろうが……これは紛れもなく、君の言葉によって開かれた可能性だ」

「だから……道を示してくれた君に敬意を表し、僕は今、未知(そこ)に手を伸ばしてみようと思う……」

影装の更なる先――それこそ、即ち。

到達(アライヴ)


刻鋼人機(イマジネイター)の到達点――緋文字礼は今、未知なる姿へと変貌する。


「――ああ。こいつは最高の、死出の餞だ」


輝装を超え、影装を超え……不完全ながらも、極点へと至った戦友の姿。礼は確かに、影装止まりのイヴァンをここに超えたのである。
周囲に満ちる真っ白な素粒子の輝きの中で、イヴァンは呟く。


「イヴァン・ストリゴイは緋文字礼に、今ここで完全に超えられたって訳だな……
これ以上なくはっきりと、目に見える形でよォ――ハハッ、畜生ォ……!


感嘆と、そして……もはや死の秒読みの中にいるというのに、それでもなお好敵手への敗北に悔しがる
愛しているから、悔しいのだと闘争者としてのイヴァンの業深さに礼は戦慄と敬意を抱いていた。
そのまま、礼は辿り着いた真理の一端を行使する。

「英雄を葬るのなら、英雄に相応しい介錯の刃が必要だろう……これ(・・)で不足はないだろうか」

背中を見せて佇む礼。残像(ゴースト)のようにその輪郭が二重に滲んでいる。
しかし奇怪なことに、礼自身から分れたであろうその分身(・・)は、別人の姿をとっていた。
分身のその異貌、その巨躯を見上げたイヴァンは、満足そうにうなずきを見せる。


「ああ……確かに左手のそれ(・・・・・)なら、間違いなく灰の一欠片すらも残りはしねえ……
何せ、この俺が一番良く知っているからなァ……」


影装を超えた、礼の新たなる力。
それをこの地上で最初に見届けた男は、死相を歓喜に輝かせた。



「さあッ、やってくれ──緋文字礼!」


「さよならだ──イヴァン・ストリゴイ」



砲光一閃。生み出された焔の華は、戦鬼の墓標となって夜空を焦がした。
その最期の望み通りに、原子核の一片までも消し去って。




  • 初戦からのライバルだったイヴァンが礼さんの真理覚醒のトリガーになるってのがいい -- 名無しさん (2021-03-29 15:36:55)
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最終更新:2025年02月16日 22:33