そう、もっと、もっとだ――全霊を賭して、我が矛盾を正すがいい!

発言者:《伯爵》
対象者:トシロー・カシマ


「貴様ァァァアアアア───!」


愛する者を闇の世界へ墜とし、その死後の魂さえ貪っていた――
その元凶たる事実を淡々と語った《伯爵》を前に、かつてないほどにトシローは激昂する。
全力を取り戻した肉体の限界――その先へと彼はまさに立ち入ろうとしていた。
剣閃は秒刻みで鋭さを増し、一撃一撃を捨て身で放つトシローの意識は、《伯爵》の滅殺……その一事にのみ向けられる。

今この時、この瞬間、此処で吸血鬼を滅ぼせないなら――己が生に意義などない、と。


……そんな一人の男の嚇怒を、まるで英雄譚を観劇する観客のような目線で《伯爵》は見つめる。
力量差は依然埋まらない。どれだけ友の託した力が、未知の可能性が、トシローを後押ししていても。


「羨ましいぞ、純粋にそう思う。それほどの敵意、殺意、狂える情動を私は感じたことがない。激昂した瞬間など、ついぞ思い出せんのだ」

役割(ロール)以外に我執のない私は、おまえから見ればさぞ純粋に見えるだろうな。余分も余暇もない、無味無臭の純血種に――」

「故に新鮮だ……心躍るぞ、その怒り。美醜以外に執着の無かった胸の内を、その敵意に漲る眼光が照らしてくれる」


己ももっと早く、三本指の鴉を名乗っていたあの時分(もっとも忌むべき過去)に……
貴様に会いたかったと悔やむトシローに、微かな悦を籠めて最強の吸血鬼は語り続ける。


「憎悪を保ち続けることさえ、存外難しいのだ。仇怨の寿命は短い、容易く愛で駆逐される。
されど、おまえは艱難辛苦を望む……異端だ、希少だ。物珍しい、故国の影響か?」

「私の眼に狂いはなかった。やはり――おまえは面白い」


内面をより深く覗き込むような、その言葉と共に、始祖復活の場となる異空間が巨大な圧迫感に包まれる。
トシローの戦闘感覚が……立ち止まり、荘厳に腕を伸ばした《伯爵》の姿に最大級の危機感を訴えた。


「さあ、見せてくれ、教えてくれ。私の知らぬ私の起源を、私の知らぬ私の(うろ)を」


「狂える刃で切り裂いてくれ、復讐者(アヴェンジャー)。正当なその怨嗟こそ、我が虚無を満たす篝火と成らん」


―――その時、耳に届いたのは産声か。
―――聞こえるはずがない、《伯爵》からの心音。解き放たれた枷に、魂からの鼓動が迸った。



そう、もっと、もっとだ―――


全霊を賭して、我が矛盾(あやまち)を正すがいい!



刹那、空間に満ちるは略奪と焼却の二重波動。
たった一人の標的の、更なる飛躍を求め……他者の生命を弄ぶ暗黒の魔人はその代名詞たる力を解き放った……




  • ベルグシュラインと同じこと言ってんな伯爵 -- 名無しさん (2023-12-11 19:35:32)
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最終更新:2023年12月11日 19:35