「貴様ァァァアアアア───!」
愛する者を闇の世界へ墜とし、その死後の魂さえ貪っていた――
その
元凶たる事実を淡々と語った《伯爵》を前に、かつてないほどにトシローは激昂する。
全力を取り戻した肉体の限界――その先へと彼はまさに立ち入ろうとしていた。
剣閃は秒刻みで鋭さを増し、一撃一撃を捨て身で放つトシローの意識は、《伯爵》の滅殺……その一事にのみ向けられる。
今この時、この瞬間、此処で吸血鬼を滅ぼせないなら――己が生に意義などない、と。
……そんな一人の男の嚇怒を、まるで英雄譚を観劇する観客のような目線で《伯爵》は見つめる。
力量差は依然埋まらない。どれだけ
友の託した力が、未知の可能性が、トシローを後押ししていても。
「羨ましいぞ、純粋にそう思う。それほどの敵意、殺意、狂える情動を私は感じたことがない。激昂した瞬間など、ついぞ思い出せんのだ」
「役割以外に我執のない私は、おまえから見ればさぞ純粋に見えるだろうな。余分も余暇もない、無味無臭の純血種に――」
「故に新鮮だ……心躍るぞ、その怒り。美醜以外に執着の無かった胸の内を、その敵意に漲る眼光が照らしてくれる」
己ももっと早く、三本指の鴉を名乗っていたあの時分に……
貴様に会いたかったと悔やむトシローに、微かな悦を籠めて最強の吸血鬼は語り続ける。
「憎悪を保ち続けることさえ、存外難しいのだ。仇怨の寿命は短い、容易く愛で駆逐される。
されど、おまえは艱難辛苦を望む……異端だ、希少だ。物珍しい、故国の影響か?」
「私の眼に狂いはなかった。やはり――おまえは面白い」
内面をより深く覗き込むような、その言葉と共に、始祖復活の場となる異空間が巨大な圧迫感に包まれる。
トシローの戦闘感覚が……立ち止まり、荘厳に腕を伸ばした《伯爵》の姿に最大級の危機感を訴えた。
「さあ、見せてくれ、教えてくれ。私の知らぬ私の起源を、私の知らぬ私の虚を」
「狂える刃で切り裂いてくれ、復讐者。正当なその怨嗟こそ、我が虚無を満たす篝火と成らん」
―――その時、耳に届いたのは産声か。
―――聞こえるはずがない、《伯爵》からの心音。解き放たれた枷に、魂からの鼓動が迸った。
そう、もっと、もっとだ―――
全霊を賭して、我が矛盾を正すがいい!
- ベルグシュラインと同じこと言ってんな伯爵 -- 名無しさん (2023-12-11 19:35:32)
最終更新:2023年12月11日 19:35