私は白木の杭。吸血鬼を滅ぼすためなら、使えるものは何でも使います



「世間話ならさっさと済ませて。お帰りはあちら。もし手を組むと言うのなら、早く切り出したらどう?」

「脳細胞まで腐食しましたか、吸血鬼(ドラキュリーナ)? 獣を前に、狩り方を算段しない猟師はいない」

「あら、最近の狩人はわざわざ獣の前に姿を現すものなのかしら? 超一流である白木の杭が、何故?」


スカーレットとの邂逅の直後から、謎の眠りに落ちていたトシロー
そんな彼が長い眠りから目覚めた時、ニナを中心とした仲間達は、怪物の群れを越え、カルパチアに陣取る滅びの元凶――《伯爵》を打倒する為に動き続けていた。
バイロンさえ勝てなかった相手を前に、彼らが望みをかけたのは『柩の娘』と共鳴を起こしたトシローの存在。

ニナは協力者(生き残り)をかき集め、怪物の包囲を破りトシローを《伯爵》の元へと向かわせる作戦を立てていたと語り……
あまりに不確定な要素が大きすぎる闘い……それでも種族の生き残りという表向きの目的を達するべく――内心では、過去の影を強く求めながら――トシローも腰を上げる。


そんな縛血者達の前に、若き白木の杭……アリヤが姿を現す。
一瞬で緊張が走る店内。しかし、狩人の懐から銀も炎も飛び出してこない、ある意味不自然な状況をニナは指摘する。
その理由こそ……


「あなたも、私の放送を聞いたわけね。ま、それも当然か。隣人に気を付けようとも、白木の杭を無効化させる事はできなかったと」

すなわち、縛血者の魂と始祖リリスの復活の関係を。

「……吸血鬼の失敗作(ミスクリエーション)にしては、知恵が回るではないですか」

嘲笑の混じった肯定に、若き公子はその上でこうして姿を見せた真意を問う。
……一層毒の増した言葉でもって。

「私たちを殺すのならお好きにどうぞ。ただし、あなたが吸血鬼(・・・)を狩るというのなら、責任持ってお父様のこともよろしくね。
無敵の狩人様なら物の数でもない、そう言うのなら結構よ。ええ、ぜひやって見せて頂戴」

「嘘の放送だなんて言ってあげないわよ、滅びかけの私達がその証拠だもの。
トシロー1人に梃子摺っていたあなたがどこまでやれるのか、本当に見物だわ」

「あう……おなか痛い……」
「うわぁ……おっかねぇ……」

――にこりと、擬音が付きそうなほど爽やかな笑みを浮かべたニナが……恐ろしい
――武力以外の怖さがある。笑っているのに、空気がどんどん張り詰めていくのはどういうことか
女性陣二人と、トシローとモーガンは無言でニナから一歩下がっていく。
ぶつかる視線は火花を散らし、皮肉と嘲笑が戦の如く飛び交っていた。


「とてつもなく嫌な女ですね、この腹黒」
「誉め言葉ね、脳筋。正直者にね、施政者なんてやっていけないの」


相性が悪いのだろう……縛血者と狩人という以前に、相手へ嫌悪感を覚えるようだ。
鼻を鳴らし睨み合うことしばし、アリヤは街の地図を広げ、忌々し気に口を開いた。
――示されたのは、夜にしか知り得ない『裁定者』の分布図。
――知性無き獣たちは大通りを動き、不用意に直進すればそこで終わり。
――カルパチアも既に獣の巣であり、機動力と瞬発力を備えた戦力を先陣としなければ最上層までは辿り着けない……

それは、トシローやニナにとって今最も必要な情報ではあったが、それを狩人である彼女が惜しげもなく晒した理由とは……?
モーガンがその場の皆の疑問を、アリヤにぶつけた時……返ってきたのは激発寸前の“怪物”への殺意だった。

「企むことなど一つきり。何もおかしな事はないでしょう、野猿」

「そう、何も……おかしな事はない」

濃縮した感情が荒れ狂った果ての、能面となった表情。その唇は噛み締めすぎて青白くなっていた。

「私は白木の杭(ホワイト・パイル)。吸血鬼を滅ぼすためなら、使えるものは何でも使います」

アリヤ・タカジョウは静かに激している。

「ただの刈り取り役? 私が? 我々が? 生涯を費やして戦い、人類のためと戦い抜いた――あの師父(レイラー)さえも?」
「我が師をも、ただの人間と歯牙にかけぬか吸血鬼(ヴァンパイア)……!」

他の縛血者など、もはや見えてもいない。獲物の範疇にすらいない。
残った縛血者は全て、《伯爵》を殺すための当て馬だ。この少女もまた、形は違えど吸血鬼(ヴァンパイア)を葬らんと猛っている。


「後悔を、させてやらなければならない」


相容れない―――少女の姿を前に、トシローは絶対の溝を感じ取っていた。
この怒りさえも、《伯爵》が死ねば縛血者へ向けられることだろう。
常軌を逸した狩人は永遠に天敵であるのだと、夜の住人に刻み付けるに足る気魄だった。




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最終更新:2024年12月14日 20:40