ストーン・コールド・デッドマンズハンド
「どれだけの強者が相手だろうと、“闘い”そのものに持ち込ませないのが“狩り”の極意ってもんだぜ。
その爪牙を無力化し、狙った通りの罠に追い込み仕留めてこその本懐ってものなのさ」
「……俺の“血”は、獲物を決して逃さない」
「我が墓碑銘をここに謳おう───抱擁れて眠れ、冷たき屍腕」
先程まで疾走していたはずの四頭の馬、それを操縦していた異人の御者の顔が、恐怖に凍り付いたまま死んでいた。
傷一つなく、魚の干物のように骨と皮だけの乾ききった異様な屍。まるで、一瞬にして餓死したとでもいうように。
御者台と隼人たちのいるワゴンとの間が、一本の線で区切られたかの如く死と生の二色で塗り分けられていた。
“戦士”でなく“狩人”としての勝利を求めるガンマン、
ジェイムズ・バトラー・ヒコックが操る
墓碑銘。
狙った獲物を欺き、仕掛けた“罠”に嵌めて必ず討ち果たす――狩人の美学を追求し続ける彼に備わった異能は、まさに“見えざる罠”。
獲物の臓腑をかき混ぜる、冷たい死人の見えない腕が忍び寄る。
銃弾等に埋め込んだ自らの血液を起点として“陣地”を形成、そこに入り込んだ対象の生物の熱量を奪い取る能力である。
この能力を行使する上で
- ある程度の閉鎖的な空間を選ばねばならず、また血液を複数の地点に塗布するというプロセスを事前に、それも複数回踏まねばならない
- “陣地”の起点に刻む己の血液――その水分が火災などによって急激に失われると、“陣地”の効果も薄れてしまう
などといった無視できない欠点が存在するものの、一度発動すればその弱体化の効力は凄まじいものがある。
一般人ならば容易く餓死状態に陥り、鍛錬を積んだ武士や血族であっても殆どの体力を瞬時に奪われるほどである。
またヒコックの血は“陣地”を形成する起点となるだけではなく、それに触れた物体の情報を彼に伝達するという機能も併せ持つ。
これを利用し、作中では事前に横浜の街の周辺に血の索敵網を張り巡らせ、逃亡を図る隼人と柩たちの位置を瞬時に捕捉、的確に奇襲を成功させている。
別作品での
とある陰気な侍が有していた能力のように、ただ闇雲に行使すればいい能力ではなく、
事前の仕込みや戦闘する空間の情報把握も周到に為さねばならない癖の強い異能だが……
使い手である
ヒコックは、技量の巧みさを以てこの手札を隠し、屍腕に獲物が足を引かれるその瞬間を
待ち続けるのみである。
最終更新:2024年04月06日 23:54