猫はいつでも自由でいいのさ……罪はない



「リアライズシステムは解析済・未解析部分を問わず、その最上位権限を藤堂綾鷹に内部から(・・・・)常時管理される事になった……」

「その有機的な支配力は外部からのあらゆるハッキングをも受け付けない。
電子的だけでなく、半ば物理的にもシステムを司っている……こんなのお手上げだわ……」


――藤堂綾鷹という一個人を電子化し、TYPE-0の力でEAを守護する存在としてリアライズさせるという大逆転の策は成功した
内通者だった佐伯は完全にゲームから追放され、
そしてCIAのエージェントであるチェシャも、藤堂の復活劇から数分足らずの間に様々な抵抗手段を試し……もはや打つ手なしという解に至っていた。
真の意味でシステムの“管理者”となった今の綾鷹の姿を前に、チェシャはしみじみと呟く……

「人間の電子化……ある意味、生命を科学文明が征服した完成形よね」

その言葉に対し、綾鷹は苦笑交じりに告げる。

《実はね……この試みは失敗してもいいと密かに思っていたんだ》
自分が自分として生きてきた人生の全ても0と1で構成可能……なんて身も蓋もない話だろうか、と。

僅かな寂寥感を言葉の裡に覗かせつつも……彼は現状を笑い飛ばしてみせる。

《やられっ放しってのは悔しいじゃないか。こんな痛快な逆転劇を一生一度でも演じられるなら、浅薄な僕の人生など何も惜しくはない……》

《幾らでもシステム解析の肥やしにくれてみせるよ―――》

彼が夢見ていた、まるで“ゲーム”のような逆転劇を為せたと、
とぼけた調子で答える若社長の姿に、零示は思わず苦笑していた。
自らの人生を少しでも面白くしたい――そう強く希求して日々を過ごしてきた己にとって、それは痛いほどに共感できる想いだったから。

そして敗者となったチェシャ猫は、電子の魔人に裁定を委ねる―――

「全面降伏よ、綾鷹クン……落とし前を付ける為に、こうして自ら出てきたのよ。煮るなり焼くなり、好きにしてくれる?」

褐色の首元をさらけ出すように、チェシャは艶めかしく喉元を逸らしてみせる。
そんな彼女の姿を前に、綾鷹は……現実での肉体を喪う直前と同じように、ただ穏やかな笑みを見せて。


《君の好きなところに帰りたまえよ、チェシャ猫くん。殺すつもりも、首輪を付けるつもりもどちらもないからね》

(おんな)はいつでも自由でいいのさ……罪はない》


好きにすればいいと、告げていた
覚悟を決めてこの場に現れたチェシャにとって、それは意外な答えだった。
それ以上、何も語る事はなく。一匹の猫はそのまま表舞台から当て処なく、静かに姿を消すのだった―――




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最終更新:2021年12月22日 22:57