俺はな、人間というものがたまらなく好きなのだよ

発言者:苦松刑部
対象者:荒忌善次郎


過去から現在に至るまでの苦松刑部という呪術師の行動指針――それを端的に表した発言にして、強大な呪術師の内に宿った狂気の一部を感じさせる一場面。

島における“協力者”の誘いに乗ったが、待ち受けていた二ツ栗家の呪術師武術家との間で死闘を演じるなか――
事態の急変を知らぬまま、彼らからの連絡を待ちながら、荒忌は一人アジトで撤収の準備を整えていた。
そこに忍び寄る不気味な影――作務衣を纏った長身のその男こそ、完のかつての同僚であり“協力者”、そして今彼らが殺し合いに巻き込まれる状況を生み出した張本人……苦松刑部であった。
拳銃を突き付けながら警戒心を解かない荒忌を前に、刑部は因果の糸で雁字搦めとなった人間達の抱える業への愛おしさを語り始める……
その語り口は異様な熱を帯び始めており、極道として少なからず修羅場をくぐってきたはずの荒忌の精神さえ狂気に飲み込まんとしていた。

本編より

「あんたがここにおるっちゅうことは……つまり、吐月はんを罠に掛けたっちゅうことなんか?」

「いいや、そんなつもりはない」

――どこか愉しげな響きで、刑部は答えた。

「俺はな、人間というものがたまらなく好きなのだよ」

そして荒忌の顔を銃口越しに覗きこみながら、そんなことを語り始める。

「人間は誰しも思うようには生きられない。それは今までに関わってきた……否まだ会ったことのない者すら含めて、あらゆる他人との因果の(えにし)が、思わぬ形で絡んでくるからだ」

「縛りやしがらみと言い換えてもいいだろう。俺は、そうしたままならなさで雁字搦めになった人間が生き足掻く様が、たまらなく好きでなあ。自分自身ですら例外でなくな」

「俺はこの島で、ちとのっぴきならない問題を抱えていてな……
現在その突破口(・・・)を見つけるために絶賛生き足掻き中と言ったところだ」

――荒忌は、呼吸が苦しくなるのを感じていた。
眼前の男が何を考え、何をしようとしているのか。それが一切見えてこないがゆえの恐怖と焦燥だった。


「だから、俺はこの申仏島という場を存分に掻き回させてもらうつもりだ。その中で、
完や啾蔵の因果がどう動くか。俺の因果とどう絡み、化学反応を起こすのか……」

「全てをぐちゃぐちゃにして、俺が抱えた問題の突破口(・・・)を見い出す。こいつは、
もう詰み切った将棋の盤面を引っくり返すに等しい難題だ…だからこそ面白いんだがなあ」



  • のっぴきならない問題……ほんとでござるかぁ?(吐月√での大暴れっぷりを見ながら -- 名無しさん (2024-08-06 00:44:47)
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最終更新:2024年11月23日 18:50