私、あんた(あなた)のこと嫌いだわ



「はは、はははは……」


青砥美汐は……同属から突きつけられた「自分達の真実」を前に、虚ろで、乾いた嗤いを浮かべていた。
化粧(へいし)を捨てた女が、本音と共にブチ撒けた破壊の嵐により、砕かれていく傀儡の破片はしかし……少女の躰を変質させる部品と成る。

────本来、美汐という人間の器では、単独での影装到達は到底無理である。
にもかかわらず、今覚醒を可能としているのは、先に受けたオルフィレウスからの薫陶。
そしてそれ以上に、エリザベータの影装(かげ)を暴力と共に突き付けられ、その力の根源が何であるかを……美汐は理解した事で影装への道を開いた。


仮面が剥がれる。化粧が落ちる。
顔面の皮を削ぎ落しながら、染み込んだ欠片まで肉ごと拭い落とし素顔を晒す。

溢れ出すのは悲嘆と涙に濡れた過去。捨て去ったはずの思い出が、次から次へと美汐の想いを引きずり出す。

世の偏りに付き纏う無情が認められず、受け入れられず、ただ泣き叫ぶだけ。
ああ、父様。ああ、母様と。
だから巨大な悪意を駆逐せんと、選択したはずの反逆は────

「影装・殲姫装鎧(アーマード・コッペリア)


選んだ時点で己は既に、憎んでいた者と同じになっていたと。
目を逸らしていた真実を、今こそ青砥美汐は哀切と共に歌い上げた。

瞬間、彼女は疾走する颶風(かぜ)と化し───鎌鼬(かまいたち)が如く高速の斬風を発生させる。
四肢から放たれる鋼刃の軌跡が、残骸雨弾を打ち砕き……鉄姫は包囲陣を無傷で突破していた。

そして――――


「待たせたわね……これが、捨てきれない私の素顔よ」


素顔を見せたエリザベータに、鋼と化した五体(情けない本音)を晒して……美汐はふてぶてしくも、悲しく笑うのだった。


自身が何よりも納得できない姿と成り果てた彼女らは共に、力なく言葉を紡ぐ。



「お互い、どこまでも無残な姿ね」

本当の自分を見せられずに怯え、破壊の涙を降らせるエリザベータ。


「ハ、同じ括りにするんじゃねえよ。
 だが……ああ、まったく。結局、戦うためにはこうして厚化粧しないといけないわけか。
 情けないはずなのに、腹立たしくてたまらないのに。どうして心のどこかで安堵なんかしてるんだか。
 父様、母様………本当に、嫌なことばかり思い出す」

過去の痛みを捨てきれず、変わり果てた姿で暴れ狂う美汐。



強い姿を装いながら、そんな自分自身を好きになれない女たち。
どちらにしても手がかかる。これでは呆れてしまうほどいい女には程遠い。

それゆえに、二人は恥じる。
こんな姿と能力が、今まで目を逸らしてきた己の一部だという事に。


「つまり─────

「そうね─────


「ここであんたを斃しきり、乗り越えることが出来たなら」

「自分を変える小さな勇気を、この手に出来る気がするの」


やがて……渦巻く負の、否定の感情が導き出した結論は────二人、運命的に同じもの。
心を強くしたい、その契機として目障りな合わせ鏡を砕こう……それこそが今の彼女達を突き動かす唯一の動機だった。


同属嫌悪、ここに極まれり。
彼女達二人の頭にはもはや他の一切の事柄は入り込んではいなかった。
だってそうだろう、理屈じゃないのだこういうのは。女同士の戦いは、如何なるときも理屈を感情が淘汰する。

自分は必ず変わってみせる、強くなってしまったこと(・・・・・・・・・・・)を畏れるような目の前の女みたいで居たくないから。


「てめぇを潰して」


構えながら、この闘いの中で初めて二人は互いに向かって小さく微笑んだ。


「あなたを超えて」


美しくほころぶようなその微笑みは……しかし、獰猛な虎が犬歯を鳴らしたような威圧であった。



『────私はここで、生まれ変わるッ!』



………かくして、敵意、殺意を剥き出しにし、旋風稲妻は激突する。


「穿ち引き裂きぶっ散れやァ。目障りなんだよ、糞女ァアア───ッ!!」


狂戦士と化した美汐は圧倒的な速さを以て、敵手を切り刻まんと斬撃の嵐を繰り出す。


「散って果てるはあなたの方よ。そんな悲鳴で、粋がるなァア───ッ!」


“兵士”としての仮面をかなぐり捨てたエリザベータも雷火と鉄雨を放射し、
敵手を圧殺せんと空間を埋め尽くすほどの暴威を叩き込む。



二人の持つ力は、どちらも相手の力の上昇に呼応し、それに対する屈辱を燃料として高まり続ける。


「その首、斬り飛ばす────ッ!」


周囲を巻き込んで、何もかもを打ち砕かんとする加速する勢い。


「返礼よ────受け取りなさい」


しかし、その激しさに反して、どちらも致命傷には至らず、同程度の傷を重ねるだけ。
その不可思議な事態に、あれほど猛っていた戦意は萎んでいき、同時にどこか醒めたような感覚を覚え始める。


自分達はいったい、何をやっているのだろうか……と。


「く、くく……ははははは」
「ふ、くっ……うふふふふ」


おまえが嫌いだ、あなたが嫌いだ────だからそれで? 私は変わるの?
敵を力で屈服させて、自分の気持ちが軽くなると?
まだ考えているのなら、そちらの方が厚顔無恥な行動なのではないかしら……

初めから自分達は目の前の似た者同士をダシにして逃避していた事(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)をどちらも悟って、苦笑を漏らす。


そんな自分達の姿の可笑しさに気づいた上で、それでも────
二人はお互いの鏡に向かって、今一度正直な思いをぶつけるのだ……



『私、あんた(あなた)のこと嫌いだわ』



そうして二人の女は疲れ切ったという雰囲気を隠すことなく、がむしゃらに力をぶつけ崩れ落ちる────



「目が覚めて、帰れたら……そうね。墓参りを終えた後、化粧箱をぶっ壊すわ」
「真似しないでよ。気が合うみたいで嫌じゃない」



…………結局は、女の意地をぶつけ合った徒労に過ぎなかったけれど。
ほんの少しだけ、歩みを進められたという感覚が彼女らの胸には宿っていた。
目を覚ました時には、今度こそ、もう一度、人生という時計をしっかり動かそうと誓いながら────
美汐とエリザベータはそのまま、気を失っていくのであった………



  • そういえば、コッチの作品群の中で(同作品内)相性悪い女性の登場人物とかいたかしら -- 名無しさん (2019-05-15 23:36:30)
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