……頼む、みんな。もう、兄さんを解放してあげて―――お願い、っ



ジュン√終盤、時計機構、ギアーズ、ロビンフッド、そして心装永久機関の存在理由を明らかにし、
凌駕やマレーネに対して正体を明かした支配者オルフィレウス
彼は輝装を起動し、自身と接続した衛星砲の絶大な破壊力、信じがたい程の射程範囲を見せつけた上で、
今回投入分のギアーズを含めた、最大戦力を以てしての反抗勢力掃討を予告する。

地球上から逃げ場を失い、企てや細工の類も全て見透かされ、
生き延びたければ、オルフィレウスの筋書の通り戦うという行動しか無くなった凌駕達。
そんな状況を理解しながら彼は笑う。

超えてみろよ、達してくれ。
君達ならば出来るはずだ信じているとも。
さあ、さあ、さあ覚醒してくれ。

二人、いや三人の最重要観察対象へ
前進前進前進のみ、それ以外は認めぬという圧倒的な念をぶつけてきたのであった……。


……凌駕とジュンと共に拠点に帰還したマレーネは、その場に居なかった者達に対し、
オルフィレウスによって語られた刻鋼人機にまつわる戦いの裏側、
そして、これから自分達は彼によって誂えられた極限の戦場で戦うしかないという重い事実を伝える。
誰もが、戦うしかない、逃げられない、“そうするしかないから戦う”という一本道のレール、
自分の戦う理由を口に出せない、そんな重苦しい閉塞感の漂う戦いに言葉を無くしていた……。

沈黙の中、“司令官”としてマレーネは戦うという意志を示す。
支配者・オルフィレウスの台頭を許せないという義務感、
未だ果たせていないネイムレスの破壊という使命感、
何より、ここにいる皆を刻鋼人機の蟲毒という苛酷極まる実験に知らぬこととはいえ、自分が巻き込んでいたことへの責任感……
それら“しなければならぬ”という義務と憤怒とを必死に掻き集めて。
その上で、罪も罰も、苦しみも、自分一人が背負おう。
だから今一度だけ、自分と共に戦って欲しいと凌駕達に頼み込んだ……。

けれど、そのマレーネの言葉にジュンがはっきりと異を唱える。
支配者が求めるような最善の道だの、正解だの、可能性だのそういったものではなく、
今、あたし自身が思っている“心からの本音”を言わせてほしいと。

逃げ場所もなく、敵も強大。恐怖も未だ拭いされてはいないけれど……。
自分自身の心が強く、強く、叫んでいる。
皆と一緒にこれからも、“生きる”という道を走り続けたい。
そのために、これから待ち受けるものに立ち向かい、そして誰ひとり欠けることなく生き抜きたい。

迷い惑ったけれど、カレンと、そしてマレーネのおかげで思い出せた原初の願い。
自分一人が前へ進むんじゃなく――
精一杯走っている姿に、少しでも誰かが夢や希望を抱いてくれたら。
だからこそ、自分は走ることに憧れていたんだと。


そうして真っ直ぐに未来への誓いを伝えるジュンの姿に、いつしかマレーネ以外の皆が小さく笑みを浮かべていた。

しかし――と、不安に揺れる眼差しで訴えようとするマレーネに今度は、
礼が伝える、これは自分達の荷物だろう?
そして、皆に語って聞かせる、今この瞬間、自分が抱いている決意、覚悟を。
ここに居る皆が、緋文字礼は大好きだから。
ゆえに、誇れる仲間達と肩を叩いて笑い合えるような、そんな自分になりたい。
行く手にどんな敵や過去が立ちはだかろうとも、僕はその誓いが在る限り戦える。


どこまでも真っ直ぐな礼の言葉に続き、
表面上はいつものぶっきらぼうな調子を装いながらも、笑みを隠しきれていない美汐が想いの丈を吐きだす。
遥か上空から見下ろし、全体を調整する神様気取りの支配者? ああそれで?
私が戦う理由は、今でも、そういう大きな力を振りかざす思い上がった陰険面にツケを払わせてやるため。
だからマレーネ、アンタの気遣いは要らない……私が戦う理由は私のものなんだからと。


心の赴くままの本音を仲間がさらけ出す中、沈黙を保っていた切も、思いを打ち明けはじめる。
日和見で済ませられるところは過ぎてしまったみたいだし、
一人だけ置いてけぼりになるのは、勘弁したい。
偶には、誠実に、正面から向き合ってみましょうか――ずっと誤魔化しつづけた自分自身の悪癖に……ね。


そして、最後に凌駕がマレーネと向き合う。

巻き込まれて一度死に、刻鋼人機として蘇って、苛酷な戦いに身を投じ――
その渦中で仲間との別れを経て、今に至っては支配者の実験台、なんていう怒涛の人生。

この瞬間、笑っていられる事は客観的にみればおかしいことなのだろうけど………
それでも、自分の元に重なったのは損失(マイナス)だけじゃなかった。
思いを交わした仲間との出会いや大切な『女性(ひと)』と想いを交わしたこと、彼らと共に前を向けることへの喜び。
自分の秤は、そんな掛け替えのない輝きに支えられ、とっくに中点(ゼロ)に戻っていたのだと。
その上で、自分の願いは一つ、これからも皆と共に生きたい、と。



――そうして本音を伝え終えた凌駕は、

「だから、マレーネ。君も本音を教えてくれ」

「こうするべきだとか、ああしなければとか、そういうのじゃない。
 君自身がどうしたいか、どうしてほしいかを……今一度俺達に教えてくれ」

穏やかにマレーネへと問いかけ、ジュンもまた木漏れ日のような笑みを浮かべ、優しく答えを待つ


「言ったでしょ? あたしはマレーネの力に成りたい。理由なんて何にもなくても、それだけで十分だから」


――どうか、その重い宿命(よろい)を脱いでほしい――


そう願う二人の言葉に、マレーネの表情が少しずつ崩れてゆく……。
唇がわななき、目尻に真珠のような涙が浮かぶ。

嗚咽を堪えられなかった少女のように……いや、本当に単なる一人の女の子として。
涙をこぼしながら―――


「……頼む、みんな。兄さんを、もう解放してあげて」


「今もずっと、幻の地獄に囚われて、私を守り続けているあの人を……」


どうか、どうか安らかに……眠らせて、くれ――お願い、っ


明かされた心からの少女の願いに、全員が頷く。


「ああ、勿論」

「必ず叶える。……だよね、みんな」


その言葉に、ある者は真っ直ぐに、ある者はしょうがないと装いながら。
それでもマレーネの涙を受け止めた彼らの心は、確かに一つとなっていたのである。
明日の朝日を目指すため、未来を見据えて、凌駕達の心は雄々しく奮い立っていた―――。



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