ファタ・モルガナの民族(府:Fathia)とは、一般にファタ・モルガナ帝国およびその他のファ帝文化圏の体系に属する人々を指す。"Fathia"という言葉は単にファタ・モルガナ系の民族を指す言葉でありディン教の文脈における「ディン教価値観、ファシア文化に従い生きる教徒」としての「ファシア人」という語とは微妙に意味合いが異なる。
人種としてのファシア人は世界に凡そ4億人ほど存在し、その内1億7000万がファタ・モルガナ帝国、1億が北ワーレリア連邦に集中している。
元来ファシア人はその宗教的結束により他の文化圏に比べて遥かに早くから民族的アイデンティティを確立してきた。その結束は近代以降、世界帝国による共同意識へと変遷し、1700年代初頭まで維持されてきた。世界帝国の崩壊後には最も主要なファシア圏であるファ帝と北ワーレリアの決定的対立により世界規模での結束は消失したものの、多くのファシア人系国家はいまだに国際的な枠組みによって連合されていると言える。
緑髪緑眼がファシア人の外見的特徴となる。毛髪の緑色は構造色によるものであり、念入りな手入れによって美しい色合いを持つ。ファシア文化では髪の美しさがしばしば美の象徴とされ、髪の色合いが悪いものは自堕落な者と見なされる。平均身長は成人男性で174cm程度、成人女性では170cm程度である。
ファシア人は自民族と他民族の境界線を非常に明確にする精神構造を持つ。そしてその先進的な文明力が故に他民族を見下す傲慢さと、自らの高いプライドに見合う努力を重ね優れた功績を生み出す能力を併せ持っている。身内意識は非常に強いが、外向きには多くの場合差別的で、他のほとんどの民族、人種を下に見ている。
IQを始めとした知能指標の平均水準は世界的に見ても高く、様々な分野においてファシア人は功績を残している。しかし多くの場合差別的なファシア人の国際進出には多くの障壁があり、反対に海外の人材がファシア社会に進出するのにも同様に障壁があるのが現実である。
戒律により男女平等が原則とされているが、それ以前のファシア人文化の根底においては、古来より女性優位社会が築かれてきた。家の継承は女系継承であり、長女は基本的に家業を継ぐこととなる。村社会的な共同体文化により子育てなどは分業され、女性の職業進出水準は男性と同程度に高い。
なお、ファシア社会における男性の立場は一般的な男尊女卑社会における女性のように低くはなく、基本的に家庭内での発言力の面で女性に及ばないもののある程度の自由と責任は存在する状態である。
ある文化圏の会話に特定の支配的な要素を見出すフォーマットに準ずるならば、ファシア人のコミュニケーションとは「行間」であると言える。
同じミームを共有する者同士で初めて成立する意識に依拠する所が多く、極めて婉曲的でハイコンテクストな表現を多用するので外国人が聞くと基本的に何を言っているか分からない(文意を汲み取れない)。相手の理解力を信頼する証として遠回しな皮肉っぽい言い回しを態々行うのが文化であり、これに反して直接的な表現を使うことは「幼児的な会話表現」として侮辱と見做される。皮肉は、相手を微妙に毀損するのと同時にその価値を認める、あるいは価値を証明する機会を与える奇妙なリスペクトの証であり、それらの比率すらも彼らの会話に存在する「行間」に組み込まれているのだ。
初対面のファシア人は自己の顕示と相手のレベルの推量を兼ねた皮肉をまず繰り出す。それに対してウィットに富んだ返しが出来れば貴方は彼/彼女に認められ、場合によってはリスペクトすら受ける。反対に下手な返しをしてしまうと、その時点で貴方の評価は決まってしまうだろう。
そして、この暗黙の力関係は形式上の階級と共存する。寧ろ後者が前者に影響することはほとんど皆無であり、逆は通常的に発生する。このようなプロセスを経て形成される、ファシア社会において有能とされる集団は総じて「面白いことを言える」人々となる。
なお、ファシア的な会話を分析するにあたって留意しなければならないのが、場の空気を読む為の手段として「察する」という行為がなされると言うよりかは純粋に高度なレトリックとコンテクストを含んだ会話を相手と交わし、その質に価値を見ているに過ぎないという点である。会話表現の安直さが不興を買うことに繋がっても皮肉の言い合いがヒートアップに繋がることはほとんど有り得ない。この特異性がファシア系文化を最も強力に外部と隔絶する要素の一つとなっている。
ほぼ全てのファシア人はファシル語を母語とする。国際社会の形成される時期に覇権国家の地位にあったのがファタ・モルガナ帝国であった経緯からファシル語は国際共通語となっており、母語話者の多くは人種的にはファシア系でない者である。第一外国語として学修する者も含めればファシアの言語としてのファシル語という価値観は凡そ旧時代のものとなっていると言えるが、ファシア人達はあくまでも自分たちのアイデンティティの一要素として母語であるファシル語を見出している。
ファタ・モルガナ国内だけでも多くの方言が存在し、主にアクセントの側面においてこれらの持つ方言差はしばしば相互通用を阻害する水準で大きい。ワーレリアなど他地域にも独自のアクセントが大量に存在し、その正確な数は把握されていない。これが原因でファ帝の議会は議員のほぼ100%がファシア人で構成されているにも拘わらず通訳が存在する。
「測る文化」であるファシア人の日常会話においてはほとんどの場合において非ネイティブ話者には聞き取り不可能なレベルのリンキングが発生している。
しばしば「ファシア人は料理が下手」というステレオタイプが取り沙汰されるが、これは単純に偏見と断ずることはできない。客観的に見て明らかに見た目、味の面で劣った料理がファシア文化には多いと言わざるを得ないのだ。これは特定の時期の出来事によるものだとかではなく、特に明確な理由なく昔からこんな具合なので遺伝子レベルで味覚が他の人種と乖離しているか壊滅的にセンスが欠けているかしか考えられないと言われている。
1750年現在、ファシア系と包括される人種の人々は世界中に暮らしている。周囲と隔絶された民族がこれ程までに広汎な生活圏を形成したことは他に類を見ない。基本的にファシア人はファシア人がほとんどいない場所には断固として住みたがらず、基本的に一定の人口に固まって暮らしている為住んでいる国の数自体はそう多くはない。
ファシア国家起源の地であるファタムジア島にはディン教文化式の昔ながらの生活を営む者も多い。しかしながら古典的な共同体然とした生活様式は近代化の強烈な波によって希少なものとなっており、都市部の気風としては後述のワーレリア大陸の風土に近しいものがある。上流階級を中心に昔ながらの紳士らしさに(男女問わず)価値を認め大切にする人が多い。近代然とした自由さと伝統的な共同体社会が繊細なバランスで保たれている。紳士によるノブレス・オブリージュの気風である。
広いワーレリアと遜色ない程に地方毎の我が強く、共通の礎の上にありながらも個性的に乖離した各地の文化と互いに通じない方言差が特徴。
ワーレリア大陸においてはファシア人は資本家階級としてそのほとんどが北岸の北ワーレリア連邦に暮らしている。ファシア人しか存在しないファタムジア島を飛び出して広大なフロンティアであるワーレリアに移り住んできた彼らは、後続の移民達と共に民族的な垣根を超えて国造りに励み、自ら勝ち取った実績を以て権利を得た経験から、自由な風土を大切にする。
ファタ・モルガナ本国のファシア人にとっての自由がディン教の教義によるものであり、究極的には与えられたものであるのに対してワーレリア女皇領民の自由は紛れもなく自ら得たものである。故に彼らの自由な気風は本国の人々にも影響を与えており、伝統と自由が共存する現代ファタ・モルガナ社会の基礎ともなっている。
近世以前の本国の階級によらない、新興の資本家階級が発展を主導してきた歴史から資産家によるノブレス・オブリージュの気風となっている。