随分前にその話を聞いた僕は、自分でもゆっくりを畑仕事で役立ててみたくなった。
僕の住んでいる村では害獣としてゆっくりは認識されている。それは、昔から野菜を狙うゆっくりが後を絶たなかったからだ。
今はそれなりに対策もされているとはいえ、今でもやっぱり畑の野菜を狙うゆっくりはいる。
どれだけ仲間が潰されようと、野生のゆっくりにとって人間が育てた野菜というのはご馳走なのだ。奪いに来るのは仕方ないのかもしれない。
それに、ゆっくりにとって野菜は地面から勝手に生えてくるという認識らしい。
意地悪な人間達がそれを独占し、自分達に食べさせないのだと。本気でそう思っているのだ。
野菜は地面から勝手に生えるのではなく、人間が種から育てていると説明してもゆっくりは理解してくれない。
だけど、畑の中に同族がいれば少しは話し合う事ができるんじゃないだろうかと僕は考えた。
適当な野生のゆっくりからまだ小さい赤子を家へ持ち帰り、何をしたら悪いか、畑とは何か、畑で何をすればいいのかを教え込んだ。
赤ん坊の頃から教育したお陰で、僕が育て上げたれいむとまりさはきちんと人間の言う事を聞くゆっくりになった。
そして、今日は初めて畑で働いてもらう事にした。
ある用事で僕は一日村を離れなければいけなくなり、昨日村にゆっくりが現れたので暫くは野性のゆっくりも来ないと思ったからだ。
流石に、野生と会わす時は僕が居なければ不味い。
話が通じないでいきなり襲われて殺されたなんて事になったら、僕の苦労が水の泡なんだから。
「ここが畑だよ。君達に仕事をしてもらうところだ」
僕は抱えていたまだ子供のれいむとまりさを畑に降ろしてやる。
初めて見た外の世界に興奮していた二匹は、すぐに畑の中で飛び跳ねていく。
今まで狭い家の中で暮らしてきた二匹にとって、やはり広い景色の中自由に動き回りたいのだろう。
でもその前に二匹には仕事をしてもらわねばいけない。
「れいむ、まりさ、ちょっとこっちに来て」
「ゆっ!?」
「すぐいくよ!!」
僕の呼び掛けに気づき、二匹はピョンピョン跳ねて俺の方へ寄ってくる。
呼べばちゃんと反応してくれるのだから、そこそこ知能は高いのだろう。
赤ん坊の頃から面倒を見たお陰だ。
この二匹ならきちんと畑仕事をやってもらえると思うが…
「一応聞くけど、ここで何をすればいいのかは分かっているかい?」
ここで何をするのか分かっていないのかもしれないと思い、僕は二匹に聞いてみた。
もし目的を忘れて自由に跳ね回るだけならまだいいが、最悪の場合せっかく育てた野菜を食べてしまうかもしれない。
けれど、二匹は僕が思っていたよりもしっかりしてるゆっくりだった。
「だいじょうぶだよ!! ざっそうさんやむしさんをたべればいいんだよね!!」
「まりさはおみずをおやさいさんにあげるよ!!」
こういう事がしっかり分かっているのだから、一応任せて大丈夫だろう。
「じゃあ、昨日話したように僕は今日は用事あるから、頼んだよ」
「うん、れいむおにいさんかわりにおしごとがんばるよ!!」
「もちろんまりさもがんばるよ!!」
「土産にお菓子買ってきてやるから、ちゃんと頑張るんだぞ」
「だいじょうぶだよ!!」
「おにいさんのためならなんだってやるよ!!」
「期待してるからね」
「まかせてね!!」
「まりさとれいむなららくしょうだよ!!」
自信満々に返事をする二匹と別れ、自分の用事を済ませるために歩き出す。
初めての仕事だから上手くできないかもしれないが、あの二匹なら多分大丈夫だろう。
そう信じる事しか僕にはできなかった。
「むしさんはここにきたらだめだよ!! おとなしくれいむにたべられてね!!」
「ゆ~しょ、ゆ~しょ…」
男に仕事を頼まれた二匹はきちんと畑の中で働いている。
生えている野菜を食べたりせず、赤ん坊の頃から教わってきた仕事をきちんとこなしていた。
そんな二匹に、一人の男が近づいてきた。
畑を囲む柵を乗り越え、ゆっくりに近づく人間。
それに気づいたれいむとまりさは挨拶をした。
「「おにいさんこんにちわ!! なにかごようですか!?」」
ゆっくりの挨拶である、『ゆっくりしていってね!!』ではなく普通の挨拶。
『ゆっくりしていってね!!』では不快になる人間もいるので、男から教わった人間の挨拶だ。
しかし人間から返されたのは、言葉による挨拶ではなく容赦の無い蹴りであった。
「ぶべっ!?」
人間の蹴りによって吹っ飛ばされたまりさ。
その蹴りは見事にまりさの顔の中心を捕らえ、眼も一緒に潰されてしまっている。
「ま、ま、まりざあああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
その姿を見てれいむは慌てて駆け寄ろうとした。
今まで一緒に暮らしてきた大切なパートナーが怪我を負ったのだ。心配しないわけが無い。
だが、それは許されない。まりさに蹴りをいれた男が、れいむの髪を掴んだからだ。
髪を掴まれたれいむはそのまま持ち上げられる。普段なら暢気に「おそらをとんでる~」とはしゃぐだろうが、今のれいむにそんな余裕は無い。
「おにいさん手をはなして!! れいむはまりさのところに行かなきゃいけないんだよ!!」
今れいむが大切なのは、ずっと一緒だったまりさの安否を気遣う事。
赤ん坊の頃から一緒にいたまりさは、れいむにとってかけがえのない存在になっていた。
だからこそ、今すぐ側へ行きたい。
傷ついたまりさに駆け寄り、助けてあげたい。
人間の蹴りを受けたまりさにれいむが駆け寄った所で、まりさの傷が治るわけが無い。
それでもれいむはまりさの側へ行こうとしていた。
自分が駆け寄りさえすれば、まりさは元気になると思っているのかもしれない。
その姿を見て、男は掴んでいたれいむをまりさの元へ投げた。
叩きつけるように、全力で。
「ぶぎゅぅ!!」
投げられたれいむはまりさにぶつかる。
短く悲鳴を上げたが、幸いにもれいむは怪我を負う事は無かった。
何故なら、まりさがクッションになってくれたから。
「ま、まりさ……?」
れいむのクッションになったまりさは息絶えた。
人間の力によって潰れた顔で、追い討ちのようにれいむを叩きつけられたまりさは耐えられずに死んだ。
「まりさ、おきてよ…… まりさがいなくちゃれいむはいやだよ…… ゆっくりできないよ……」
涙を流しながら、れいむはまりさに体を擦りつける。
まりさが死んでしまったことを認めたくないのか、全く動かないまりさに何度も何度も擦り続ける。
体を擦り合わせ続ければ、まりさ動き出すと思っているのかもしれない。
そんなことはある筈無い。それでもれいむは何度も何度もまりさに体を擦りつけ声を掛けた。
まりさを殺した人間が側に居るのも忘れて、狂ったかのように…
「そんな風に泣くんならさ、お前らも人間の住む所には来るなよ… 俺だって、泣き叫ぶ生き物なんか殺したくないんだからさ…」
そう言って、男はれいむを踏み潰した。
「説明するの忘れてた…」
畑の前で僕は頭を抱えて蹲っていた。
目の前にはゆっくり二匹の死骸がある。僕が教育したれいむとまりさだ。
この村にとって害獣として認識されているゆっくりが、畑の中に居ればどうなるかは目に見えている。
ただ駆除されるだけ。
親切心で僕の畑を守ってくれた友人を責める訳にはいかない。
野生のゆっくりに襲われる可能性を考えたのに、村の人間に殺される事を考えなかったのは僕のミスなのだから。
「また一からやり直しかぁ…」
溜息を吐きながら、僕は森の方へ行く。
適当な赤ん坊ゆっくりを捕まえるために。
終
ここから↓は後書きと
感想フォームへのお礼です
長いので、不快な気分になると思う方はこのまま戻るを押してください
こんな駄文を最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!!
読んでいて思われたかもしれませんが、この話は
ゆっくりいじめ系92 ゆっくり少女達の収穫祭-1&
ゆっくりいじめ系93 ゆっくり少女達の収穫祭-2
を読み、ゆっくり=害獣という認識のせいで、何もしてない役に立つゆっくりが殺される話を一度自分でも書きたいと思い書かせていただきました。
畑にいたというだけで、何もして無いのに問答無用で潰されるゆっくり… 切ないですね。
あと、この話を書くために、セイン氏のバッジ設定は使わないでおきました。
男が二匹を殺したのはあくまで害獣だと思ったからで、バッジ設定が有った場合飼われているゆっくりだと分かってしまい書けなくなるからです。
感想フォームに感想をくださった方、本当にありがとうございます!!
こういう作品こそ、ジャンルの延命にもつながりますしね。-- (名無しさん)2008-09-20 18:37:50
自分の仲間が大切なのは仕方が無いことです。
家族とか、友達とか、同僚とか、蔑ろにする事はできないと思います。
仲間を犠牲にした上でのゆちゅりーの行動の偉大さを、少しでも伝える事ができて嬉しいです。
読んで下さり本当にありがとうございました!!
ありがとう -- (名無しさん) 2008-09-22 10:41:41
こちらこそ本当に読んで下さりありがとうございます!!
畑荒らしを邪魔するだとか、頭がいいという設定をめーりんの行動で表してほしかった。 -- (名無しさん) 2008-10-15 22:54:45
本当にすいません。
自分で読み直してみても、職員の説明だけでめーりんの設定を付けるのはまずいと思います… 本当にすいませんでした!!
えーきはともかくこまちの性格を参考にさせて頂こうと思います -- (名無しさん) 2008-10-25 21:24:37
参考にしてもらえるとは本当に恐れ多いです…
でも、まだゆこまちは設定があまり決まっていませんから自分で考えるのも有りだと思います。
読んで下さりありがとうございました!!
きめぇ丸KAKKEEEEEEEEEE -- (名無しさん) 2008-11-04 18:04:16
この話を書いたのは、ちゃわんむしさんの
ゆっくりいじめ系379 鏡を知らないきめぇ丸を読んだのが切欠です。
細かい内容は話せませんが、外見が原因で不幸な目にあったきめぇ丸を自分でなんとかしてあげたいって思ったのです。
ならどうするか、単純に正義の味方を意識して書きました。
罪の無い子供が悪の手によって犠牲になろうとしたときに颯爽と現れて助けるヒーロー。
外見はあれなんですが、きめぇ丸は本当に勧善懲悪な話が似合うかっこ良くて、悲劇物の話が似合う可哀想なゆっくりだと思います。
ちゃわんむしさんへ、これを読まれてそんな理由で書いたのなら消してほしいと思ったのなら遠慮せずに仰ってください。覚悟はできています。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。お目汚し失礼!!
by大貫さん
最終更新:2008年11月08日 13:23