国字(こくじ)
英national Chinese characters
英national Chinese characters
『言語学大辞典術語』
漢字文化圏の中にあった国々は,漢字文化の圧倒的な影響の下に,漢字を正しく,あるいはそれぞれの民族語に適応して使用してきた.その結果,それぞれの民族語の語にもそれ特有の漢字を作り出すようになった.日本では,榊をサカキに宛て,杣をソマの字にした.もっとも傑作なのは峠(トウゲ)である.このような疑似漢字を国字とよぶ.杜は正式の漢字であるが,これをモリと読むときは国字である(神社の木).いずれも,六書でいえば,会意による造字である.多くの国字には字音がないが,働(ドウ)のような例もある.
漢字文化圏の中にあった国々は,漢字文化の圧倒的な影響の下に,漢字を正しく,あるいはそれぞれの民族語に適応して使用してきた.その結果,それぞれの民族語の語にもそれ特有の漢字を作り出すようになった.日本では,榊をサカキに宛て,杣をソマの字にした.もっとも傑作なのは峠(トウゲ)である.このような疑似漢字を国字とよぶ.杜は正式の漢字であるが,これをモリと読むときは国字である(神社の木).いずれも,六書でいえば,会意による造字である.多くの国字には字音がないが,働(ドウ)のような例もある.
朝鮮にも国字がある.現代語ではあまり使われないが,古い文書や記録に時々みられる.たとえば,■は中期語のspun「~のみ,~だけ」に当たる語を表わす.この字の上の部分の叱は,理由はよく分からないが,後世のsを示すのに用いられ,分はpunと読まれる字である.なお,■はtor「石」を表わすが,乙を-rに宛てている.同じく■norという音節を示す字もあった.なお,『日本書紀』に出てくる朝鮮の地名「比自■」の■はおもしろい朝鮮造字である.これは「集落,町」を意味した新羅語のpɯrを表わす造字で,偏の火は新羅語pɯr「火」を訓読してその音形をつくり示し,旁の本(pǝn)はpɯrの表音に用いたものである.訓と音の両方で二重に語形を表示したものであって,形声文字ではない.
ヴェトナムの「字喃」(→チュー・ノム)は,一種の国字である.たとえば,■は「3」を意味するヴェトナム語baを表わした.また,■はヴェトナム語mat「顔」を表わした.これらは上述の朝鮮の■に似た訓と音を兼ねた造字である.その他,■giengは「正月」を意味し,これは会意による造字である.
このような疑似漢字は,漢字と接触した民族語では自然に起こることである.古くは,非漢族とみられる楚の言語では「虎」を‘於兎'といったが,この兎を■とも書いた.今日においても,広西省南部の壮族の一部ではその歌謡を漢字化して書くことがあるらしい.たとえば,壮語の1人称代名詞kau┤を■,2人称代名詞mɯŋ■を■と書いている(李方桂『武鳴土語』中央研究院歴史語言研究所,単刊甲種之十九,台北,1956).この造字法は,ほぼヴェトナムの字喃と同じである.