同字異語 (どうじいご)
英homograph
英homograph
『言語学大辞典術語』
1つの表語文字,または表音文字の結合である1つの綴りは,通常,1つの語を表す.言いかえれば,文字または綴りと,それの表す語とは,一対一の対応を示すのが通例である.ところが,時にはそうでない非対応が起こることがある。その非対応には,2つの場合がある.一つは同字異語で,もう一つは異字同語(heterograph)である.漢字の例をあげれば,説の字はセツ(説く)という語を表すが,ある時期,エツ(喜ぶ)という語をも表した.すなわち,同じ字で異なる語を表す同字異語の例である.もっとも,この説の字をエツに充てるのは,セツを表すのと区別するため,のちには義符を言から心に変えて悦という字をつくって,同字異語の不便を解決した.
1つの表語文字,または表音文字の結合である1つの綴りは,通常,1つの語を表す.言いかえれば,文字または綴りと,それの表す語とは,一対一の対応を示すのが通例である.ところが,時にはそうでない非対応が起こることがある。その非対応には,2つの場合がある.一つは同字異語で,もう一つは異字同語(heterograph)である.漢字の例をあげれば,説の字はセツ(説く)という語を表すが,ある時期,エツ(喜ぶ)という語をも表した.すなわち,同じ字で異なる語を表す同字異語の例である.もっとも,この説の字をエツに充てるのは,セツを表すのと区別するため,のちには義符を言から心に変えて悦という字をつくって,同字異語の不便を解決した.
「六書」のいわゆる仮借の場合も,そして,おそらく転注の場合も,結果は同字異語になる.いずれも,既成の文字をその文字が本来表した語とは別の語を表すのに用いるからである.たとえば,求の字は,もと「皮衣」を意味する語を表す文字であったが,それをモトメルの意の語を表すために借りた.これは,同音による仮借の例である.また,古い時代には,老の字で意味上関連のあるコウ(亡くなった父)を表すのに転用した.これは,転注の例である.どちらも,結果は,同じ語が異なる語を表していた.しかし,同字異語の状態は,情報の通達には不便である.そこで,何らかの方法,漢字の場合は,限定符の添加でその不便を解消する.求の字は,義符衣を添加して菱の字をつくり,「皮衣」の方を表わすようになり,老(コウ)の方は,声符丂を老の略体耂に加えて考の字を作り出して,それぞれ区別を明らかにした.ちなみに,考を「カンガエル」と訓じる場合は,この字をコウ「カンガエル」に仮借したものである.
なお,欧米の場合でも,たとえば,英語のbearは,「熊」を意味する語も,「運ぶ」を意味する語も表わす.これは,同音異語(homonym)でもあり,同字異語でもある.
異字同語は,いわゆる異体の場合がそうである.たとえば,辭の代わりに辞を使うが,辞は辞の異体である.同じ語をさすのであるが,字体が違っている.辞は,辭の略体から生じたもので,いわゆる俗字である.これに対し,礼は禮の略字のようにみえるが,礼は禮の「古文」(篆書より古い字体)の形である.また,攷は考(カンガエル)の異体であるが,これは別の径路でつくられた異体である.ともに声符丂を共有するが,義符が攴と耂(老の略体)で違っている.異字同語の例は,欧米の場合にもある.たとえば,英語のdraftは,またdraughtとも書く.