表音文字(ひょうおんもじ)
英phonogram, 仏phonogramme, 独Phonogramm
英phonogram, 仏phonogramme, 独Phonogramm
『言語学大辞典術語』
仮名やアルファベットのような,一つ一つの文字が原則として何の意味をも表わさず,ただ音を表わす文字を表音文字といい,漢字のような表意文字あるいは表語文字に対する.そして,表音文字には,音節文字(syllabic letters)と単音文字(alphabet)の2種類がある.前者は,音節を単位とするもので,日本の仮名はその典型的な例である.後者は,いわゆるアルファベット(alphabet)のように,1字が1音を表わす.当然のことながら,音節文字の方が,単音文字より単位の数が多い.
仮名やアルファベットのような,一つ一つの文字が原則として何の意味をも表わさず,ただ音を表わす文字を表音文字といい,漢字のような表意文字あるいは表語文字に対する.そして,表音文字には,音節文字(syllabic letters)と単音文字(alphabet)の2種類がある.前者は,音節を単位とするもので,日本の仮名はその典型的な例である.後者は,いわゆるアルファベット(alphabet)のように,1字が1音を表わす.当然のことながら,音節文字の方が,単音文字より単位の数が多い.
表音文字といっても,音を精密に表わすものではない.音声を精確に記述するための記号は別にある.それは,いわゆる音声記号(phonetic sign)である.しかし,音声記号は,文字ではない.文字は,あくまで語(word)を表わすためのもので,表音文字は,語の音形を思い起こさせるためのものである.その音形の暗示は,必ずしも音の精密な描写を必要としない.多くの表音文字は,アクセントや声調のような超分節音素(suprasegmental phoneme)は省略する.単音文字のアルファベットの各字は,原則として,母音とか子音といった分節音素(segmental phoneme)を表わす.表音文字の採用には,その言語の音の反省が前提となる.そこでは,今日ほど厳密ではないが,一種の音素分析がなされているに違いない.その結果,1字1音素の原則がおのずからでき上がる.音節文字の場合は,そこまではいかず,分析は音節の段階で止まってしまう.
また,表音文字の表音(phonography)は,分析した音素をいちいち連ねて,ある語の音形を構成させていくのであるが,構成する要素音をいちいち表わすよりは,その音形全体を表わす方が重要なのである.表音文字も文字である以上,表語が直接の関心事で,そのため,いくつかの要素音を表わす字の集合が問題になる.いいかえれば,スペリング(spelling)の仕方が大切なのである.たとえば,英語で,‛sun’と‛son'は表音的には同音を表わしているが,表語的にはまったく別の語を表わしている.英語で用いられるアルファベットは,要素的にはl字1音の原則を守っているけれども,スペリングとなると極めて不合理にみえるのがその特徴である.多くの場合,英語の音韻変化の結果,スペリングと実際の発音がくい違ってしまったのであるが,表語(logography)という観点からすれば,この不合理なスペリングも大いに役立っているのである.たとえば,nightとknightの識別のように.
音節文字である仮名の場合も,同様である.ここでは,仮名の結合による表語が問題とされる.すなわち,仮名遣である.
表語文字は,いうまでもなく語を単位とする.言い方を変えると,二重分節における第一次分節のレベルに留まっている文字である.これに対して,表音文字は,音形の分析的表示を目的としているので,これは第二次分節のレベルに降りてきている文字である.したがって,表音文字は要素字の結合がスペリングをなして第一次分節のレベルに昇っていく.すなわち,表語文字である漢字の一字一字と,表音文字である仮名やアルファベットの一字一字とは,分節のレベルが違うのである.