母音符号(ぼいんふごう)
英vowel sign, vocalization sign, 仏signe de voyelle, 独Vokalzeichen
英vowel sign, vocalization sign, 仏signe de voyelle, 独Vokalzeichen
『言語学大辞典術語』
原則として子音だけを表わす北西セム系の線文字で書かれたテキストに,母音を表わすために補助的に書き加えられる符号.紀元3,4世紀のシリア文字に始まり,へブライ文字やアラビア文字に広まっていった.最初はシリア語の,別個の単語が同じ綴りで書かれているのを区別するための弁別点だけであったが,各母音を表わすものへと発展した.へブライ語についてはいくつかの方式が考案されたが,8~10世紀に完成した最終的な母音符号――ティベリア式(Tiberian system)―は,もっとも精密で音声学的なものである(〈表〉を参照)のに対し,古典アラビア語のための母音符号は必要かつ十分な,音韻論的記号である.たとえば,弱ダゲシュ(→ダゲシュ)の有無によって表わされる破裂音と摩擦音の区別は,原則として音韻規則によって予知できるから,音韻的には,例外的な摩擦音化だけを表記すればよい.
原則として子音だけを表わす北西セム系の線文字で書かれたテキストに,母音を表わすために補助的に書き加えられる符号.紀元3,4世紀のシリア文字に始まり,へブライ文字やアラビア文字に広まっていった.最初はシリア語の,別個の単語が同じ綴りで書かれているのを区別するための弁別点だけであったが,各母音を表わすものへと発展した.へブライ語についてはいくつかの方式が考案されたが,8~10世紀に完成した最終的な母音符号――ティベリア式(Tiberian system)―は,もっとも精密で音声学的なものである(〈表〉を参照)のに対し,古典アラビア語のための母音符号は必要かつ十分な,音韻論的記号である.たとえば,弱ダゲシュ(→ダゲシュ)の有無によって表わされる破裂音と摩擦音の区別は,原則として音韻規則によって予知できるから,音韻的には,例外的な摩擦音化だけを表記すればよい.
『表』
なお,これらの各文字体系には,字母識別符号(diacritical point)ともよぶべきものがあり,それと母音符号とは別である.すなわち,字母識別符号は,へプライ文字のś/š,シリア文字のd/r,アラビア文字のb/t/ṯ/n/y,ğ/ḥ/ḫ,d/ḏ,r/z,s/ š,ṣ/ḍ,ṭ/ẓ,‛/ġ,f/qを,それぞれ互いに区別するために,各字母の上または下に付けられた1~3個(2個以上はアラビア文字のみ)の点で,アラビア語ではnuqṭaとよばれる.
[参考文献]「世界言語編』(上)「アラビア語」「アラム語」,(下-1)「へブライ語」の各項で参考文献としてあげられた文法書は,たいてい,それぞれの正書法における母音符号についても述べているので参照されたい.そのほか,言語学的な研究として,
Morag,Shelomo(1962),The Vocalization Systems of Arabic, Hebrew, and Aramaic (Mouton, The Hague)
がすぐれている.この本は,各文字による実例はあげていないが,わずかながら綴じ込みの表に出ている.
Morag,Shelomo(1962),The Vocalization Systems of Arabic, Hebrew, and Aramaic (Mouton, The Hague)
がすぐれている.この本は,各文字による実例はあげていないが,わずかながら綴じ込みの表に出ている.