ヲコト点(をことてん)
『言語学大辞典術語』
「乎己止点,遠古登点」とも書く.訓読文献(訓点本・点本)のテキストで,助詞や助動詞,活用語尾,その他を表わすために,漢字の四周や中央など,特定の位置に加えられた点や符号.〈図〉は博士家点の一つ,「紀伝」点(築島,1986,p.119).漢字を方形に抽象化して点の位圃が示されている.仏典の訓読文献は,さまざまの異なる体系に基づいて加点されているが,博士家点で,基本となる右上の図の,その右上隅にある「ヲ」とその下の「コト」とを連呼して,「ヲコト点」という名称が生じた.
「乎己止点,遠古登点」とも書く.訓読文献(訓点本・点本)のテキストで,助詞や助動詞,活用語尾,その他を表わすために,漢字の四周や中央など,特定の位置に加えられた点や符号.〈図〉は博士家点の一つ,「紀伝」点(築島,1986,p.119).漢字を方形に抽象化して点の位圃が示されている.仏典の訓読文献は,さまざまの異なる体系に基づいて加点されているが,博士家点で,基本となる右上の図の,その右上隅にある「ヲ」とその下の「コト」とを連呼して,「ヲコト点」という名称が生じた.
訓読文献は9世紀初頭に遡るが,ヲコト点の体系は最初の段階から複雑である.それは,漢文訓読が上代に十分に発達しており,ただ,その時期まで,訓読の結果がテキストに書き込まれなかったにすぎないからである.初期の訓読文献は仏典に集中している.片仮名*の発達に伴ってテキストへの書き込みが可能になったことが訓読文献の生まれた動因の一つであろう.ヲコト点と片仮名とは原理的に互換可能であり,片仮名が十分に発達していなかった時期には,ヲコト点への依存度が高かった.また,紛らわしくならない限り,ヲコト点による方が加点も解読も簡単である.初期のヲコト点は社会性をもたず,その体系は宗派や流派によって多様であるが,それらはすべて一貫した系譜の中に位置づけられる(中田,1954).11世紀後半にはヲコト点の体系が点図としてまとめられるようになり,中世以降,各種のヲコト点を集成した点図集が作られて,それぞれの点図に名称が付されている.現在,個々の訓読文献のヲコト点は帰納によって解読されているが,点図集所載の体系と小異をもつ場合が多い.