AGN Torus
AGN torus modelの個人的なまとめページ。
歴史
AGNの赤外線観測の歴史は1960年代にまで遡ることができる。Low & Kleinmann 1968では、初めて近傍AGNの赤外線のSEDを書き、IR bumpの存在を示唆している。そもそものmotivationは強い電波源のQSOの観測からスタートしており、可視のスペクトルはAGNのdisk由来なのか、それとも電波から延びるsynchrotron由来なのかに決着をつけるための観測であった。だが実際に観測をしてみると、可視光とも電波とも(外挿した) SEDではマッチしないIR bumpが発見されたのである。これをAGNで温めらたdust由来なのではないか、と提言したのがRees 1969である。AGNで暖められたダスト研究のスタートはここから始まるのである。
AGNの2つのスペクトル: 1型と2型 (観測的な歴史)
BLRとNLRの理解の歴史
SeyfertやQSOにかかわらず、AGNの可視スペクトルには、速度の異なる二種類の輝線が昔から観測されていた。それらの輝線の起源となる領域は、のちにBroad Line Region (BLR) とNarrow Line Region (NLR) と呼ばれるようになった。これらの領域の起源はまだ不明だが、2つの領域の速度構造にgapがありそうであること、から2つの領域は物理的に別の場所に存在すること、また、BLRとNLRで受かる輝線が異なることもあることからガスの密度や温度が異なること、が示唆されている。理論的にはNetzer & Laor (1993) において、どうやらBLRの外縁は、ダストの昇華半径まで伸びていて、その外側 (つまり、ダストとガスが混じった領域) ではBLR輝線が効率的に作られないことが提示されていたが、同様な状況を説明する決定的な観測は長い間行われてこなかった。最近の観測 (Landt et al. 2014) では、BLRでは受かり、NLRでは受からないPa9, 10の輝線を使うことで、BLRの輝線プロファイルはガウシアンのように滑らかではなく、中心がplateauなプロファイルになることを示され、plateauになる境界の速度を求めることで、そこからBLRの外縁半径を求める試みが始まっている。Landt et al. (2014) では、これらの外縁半径とNIR reverberation mapping (e.g., Suganuma et al. 2006) and/or NIR interferometry (e.g., Kishimoto et al. 2007, 2011) で求められたトーラスの内縁半径を比較したところ、これらの半径が1sigmaエラーの範囲で一致したことが報告されている。
BLRとNLRの密度や物理的なスケール
密度
各領域で受かる輝線のcritical densityを比較していくことで、水素nにゆるく制限がついている。
n<1e9.5 cm-3 <--- CIIIが受かることから
n>1e5 cm-3 <---[OIII] が受からないことから
BLRの外縁半径の上限は、AGNトーラスの内縁半径で決まると思われるので、それを信じると、
r_out (BLR) ~ L^0.5 (erg/s)
で決まる。なので、各BLR輝線がでている領域は、これらより内側であろう、という上限値がつく。また、歴史的にはaccretion diskの光度変動とBLRの光度変動の時間差を測ることでBLRのだいたいのサイズを測ることができる (reverberation mapping; Blandford & Mckee 1982; Peterson 1993)。しかも、このサイズはAGNの光度に強く依存しており、L^0.5 erg/sで表現される (e.g., Bentz et al. 2013)。他の独立なBLRサイズの観測手法としては、マイクロレンジングを用いる方法もある (Sluse et al. 2006; Guerras et al. 2013)。
半径
様々な観測手法がある。BLRのimaging観測が難しいいっぽうで、NLRは空間的に非常にひろがっている (up to 1kpc) こともあるため、imagingが可能な場合も多い。NLRのサイズはcase Bを仮定することで、
R_NLR ~ 19(L41(Hb)/en3^3)1/3 pc
とかける (Peterson 1997)。また、NLR sizeはだいたい10^3-4 pc程度とされている (Liu et al. 2013; Hainline et al. 2013)。
一方で、NLRの光度変動を長年にわたってモニターし、その光度変動から、NGC 5548のNLR sizeは<10pc程度である、とする研究もある (Peterson et al. 2013)。
Obscuring materialの存在の示唆
AGNの統一モデル
Rees (1984)のしごと
Antonucci et al. (1985)のしごと。
Antonucci et al. (1993)のレビュー。
Torusという用語はいつ生まれたの?
Antonucci et al. (1985)ではthick disk。 そのようなobscuring materialを、初めて"torus"という言葉にしたのはKrolik & Begelman (1986)。
AGN torusの構造
Antonucci & Miller (1985)による、2型AGNの可視偏光スペクトル観測から1型のスペクトルが発見された報告により、AGNにはおそらくBLRやtorusは普遍的に存在しており、1型と2型で観測されるスペクトルの違いは、どうやら視線方向の違いによって起きているのであろう、という「AGN統一モデル」が信じられ始めてきた。そして、「では、AGNトーラスの大きさや構造はどのようなものなのか」そして、「どのようにしてAGNトーラスができたのか」という、AGNトーラスの理解に焦点が移りはじめた。Penston & Perez (1984) は、可視の広輝線プロファイルが時間的に変動していること、また、それに伴ってN_Hも変化しているようであることを示し、どうやらtorusはclumpyな構造をもっているようだ、という示唆を与えた。
AGN torusのモデル (ダストの構造の違いという視点から)
smooth torus model
1型と2型のスペクトルの違いを簡潔に説明できるものとして生まれたトーラスであるが、90年代前後にはそのモデルが作られ始めた。Krolik & Begelmann (1988) は、トーラスはおそらく多数のクランプのようなものからできているであろう、ということを示唆している。しかし、それと同時に、当時のコンピュータの計算能力では、そのようなモデル化は困難であるとして、よりシンプルなモデルを彼らは作りあげた。それが、円柱形の一様なダスト分布を用意して輻射輸送を解いた、スムーズ(smooth)トーラスモデルである。最も有名なモデルの一つがPier & Krolik (1992, 1993)であり、9.7um silicate featureが、1型 (face-on) では輝線、2型 (edge-on) では吸収線になることを示唆している。この特徴は実際にHao et al. (2005) 等によるspitzerの観測から確かめられている。ただこのモデルで赤外線の観測スペクトルを説明する場合、だいたい>100pc 程度の厚さのトーラスを仮定しないといけない。また、トーラスのような幾何的に厚い構造が保たれるには、静水圧で支える場合、だいたい10^6 Kほどの温度が必要となる。このような条件下では、ダストは当然溶けてしまうのだ。一方で近・中間赤外線の高空間分解能撮像観測を超近傍のAGN天体に適用することで、トーラスは中間赤外線領域では主に<10pcスケールであることが示唆され始めている(観測例としては、NGC 1068 (Jaffe et al. 2004), Cen A (Meisenheimer et al. 2007), そしてCircinus (Tristram et al. 2007)などが有名である)。このようなsmooth dustモデルと観測の矛盾が2000年代前後から指摘され始めてきた。トーラスの大きさ以外にも矛盾点が次々と報告されており、まとめると、
- edge-onとface-onでのトーラスの中間赤外線の観測SEDがモデルとあわない()
clumpy torus model
Krolik & Begelman (1988) ですでに提案・議論されていたclumpy torus modelであるが、実際には2000年ごろまで、smooth torus modelを用いた計算が主流となっていた。その間に計算機の能力も向上し、複数のクランプを配置した、複雑なセッティングの輻射輸送も現実的な時間で計算することが可能となてきた。そのpioneerとなったのが、Nenkova et al. (2002) である。彼女らは、クランプをガウス分布に配置し、輻射輸送を解き、赤外線のSEDの再現を行い、上記に記されていたいくつかの問題は、clump torus modelを考えると解決できることを提案した。実際、この頃にはトーラスは考えられていたよりも非常に小さい(< 10pc)スケールのものである、という報告がいくつも行われ (例えば、Jaffe et al. 2004; Packham et al. 2005) 始めており、このような物理スケールを再現する、という意味でもclump torus modelを使うことが流行になり始めた。
Clumpy torus modelのパラメータ
それぞれの物理的な意味
それぞれのパラメータの各バンドに対する感度
他のAGNトーラスモデル (物理的な起源という視点から)
outflow model
AGNトーラスの起源を、降着円盤を由来とするoutflowで説明してしまおうというモデル。
torus modelの再考
変なAGN
changing-look AGN
X線光度がintrinsicに変動する種族
吸収量 (N_H) が時間変化して、X線光度が変動する種族
Markowitz et al. (2014) では、ROSAT+他のX線衛星の過去数十年のX線モニター情報を集めて、spec fitting or hardness ratioからN_Hを求め、N_Hの変動が優位に見られる天体をいくつか報告している。
可視光のタイプが変化する種族
type-2 -> type-1になったり、type-1からtype-1.x or type-2になる種族が過去には報告されている。
- Mrk 590 (Denney et al. 2014)
- NGC2617 (Shappee et al. 2014)
- NGC 7603 (Tohline & Osterbrock 1976)
- Mrk 1018 (Cohen et al. 1986)
- NGC 1097 (Storchi-Bergmann et al. 1993)
- NGC 7582 (Aretxaga et al. 1999)
- SDSS J015957.64+003310.5 (Lamassa et al. 2015)
SDSS surveyから見つかった変動天体。各データリリース (DR) バージョンを調べ、過去にAGNに分類されていたけれども、途中からAGNとして分類されなくなった天体を調べることで見つかった天体。2000年にはbroad Ha/bが見えており、2010ではHbはbroad componentが見えなくなり、Haもほとんど見えないが、asymmetric broad Ha componentが確認されているので、2010年時ではtype1.9になっている。つまり、targetが存在するz=0.3では7yr程度でtype-1 -> type-1.9に変化したことになる。
その後もchanging-look QSOのsurveyがSDSS archiveデータを用いて見つかり始め、Ruan et al. 2015では他にも2例ほどQSO-> galaxy likeなchanging-look QSOの報告を行っている。にもかかわらず、まだこの方法ではgalaxy like -> QSO likeな変動をもつ天体は見つかっていない。また、BLRのfittingを見てみると、lineのピークがが時期によって明らかにずれていたりして、解析を本当に信じて良いのか疑問が少し残る。
最終更新:2015年09月27日 14:48