汗ばんだ肌を、枕元の手拭いで拭いてやった。
清めるうちに、体が手拭いの冷たさに反応を返し、やがて幸村の目が政宗を見た。
「さむ……殿?」
「ああ」
髪を撫でると、幸村は心地よさげに目を閉じた。
そのまま先に寝入られるのも嫌で、政宗は手を止めた。
幸村はもう一度目を開け、ふ、と手のひらを伸ばした。
政宗の胸、痣の辺りへ。
「不思議でござるな」
「そうかぁ?」
あれだけの勢いで殴られ、痣が出来ない人間がいるものか。
だが、見れば幸村の鳩尾に目立つ痣はなかった。
確かに連打で殴られ、そうそう力は籠もっていなかったかもしれないが。
何となく屈辱を感じる。
「……不思議でござるよ」
耳にくすぐったい声音。
「なあ、もう少しここに慣れたら、こっちの仕事にも顔出せよ」
昼間に仕事をしている辺りを指で指し示す。
「何の仕事でござろうか」
嫌がる風も驚く風もなく、役目を受ける武将の顔つきで幸村が尋ねる。
仕事はいくらでもあり、幸村の戦以外の能力はまだ解らない。
「何でも良いさ、城を守ってたアンタの意見が聞きたいだけだ。
ただし、もう少し言葉を覚えてからだけどな」
とたんに顔つきが強ばって、それでも一武将の誇りでか、しっかりと頷いた。
「ここで暮らしてりゃ嫌でも覚えるさ、気負うことはねえよ」
「左様にござるか。ならば精進いたす!」
「ああ。期待してるぜ、――幸」
幸村の目がきょとんと見張られる。
それから暫く視線を泳がせた後、しっかりと言った。
「出来れば某、幸村と呼んでいただきたい。この名は思い入れある、大切な名。
政宗殿には……幸村と呼んで欲しいのでござる」
「Ok、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。なら、幸村。
…さっきのな。惚れたってのは間違いじゃないが、訂正させてもらう」
幸村の眇められた視線を頬で受け止め、愛しさに負けてその体を引き寄せた。
体温の高い、力を内包した体。
耳元に唇を寄せて囁く。
他の誰にも聞き取れないように。
「――アンタの為なら、死ねる。覚えておきな、一度しか言わない」
幸村の体は一度びくりと強ばり、その目が見開かれ、
次いで呆れたような顔になった。
「な――何を言っているのでござるか……伊達の城主にござろう?某は政宗殿に終生仕えよと言われ、ここに参ったのでござる。そもそも、某の宿敵ならば死など、」
早口に繰り出される言葉を強引に断ち切った。
「Ah、小言はいい、小言は。もう聞き飽きてる。家臣のために死にはしねえよ、家臣はオレの為に死ぬ。伊達のためにも死なねえ。伊達はオレがもり立てるためにあるからな」
だが、と怪訝そうな、怒ったような幸村に向かって笑う。
「幸村、アンタの為ならこの命はくれてやる」
領土のためでも、欲のためでも、自分に全てを捧げる家臣のためでもなく。
幸村は何とも言えない顔で政宗を凝視していた。
「あ……呆れた御仁にござる……」
「理解出来ないか?Ha、まあそれでいい。
代わりにアンタは命を継ぎな。それで十分だ」
呆れた眼差しを笑みでくるむ。
「子にござるか」
「ああ。幸村の子が見たい。そいつが物心つくまでに天下を統一して、平和な世にしてやる。それならこの命一つ、安いモンだろ?」
呆れたままの幸村の頬に口づけ、もう一度言った。
「アンタの為なら、安いモンだ……なあ、幸村」
胸元に当てられた幸村の手が、ぶるぶると震える。
撫でてやると幸村は堪えきれなくなったように叫んだ。
「なにゆえ!政宗殿はいちいち人の心を乱される!某は二日考え、やっとのことで政宗殿に真向かう気になれたのでござる!
清めるうちに、体が手拭いの冷たさに反応を返し、やがて幸村の目が政宗を見た。
「さむ……殿?」
「ああ」
髪を撫でると、幸村は心地よさげに目を閉じた。
そのまま先に寝入られるのも嫌で、政宗は手を止めた。
幸村はもう一度目を開け、ふ、と手のひらを伸ばした。
政宗の胸、痣の辺りへ。
「不思議でござるな」
「そうかぁ?」
あれだけの勢いで殴られ、痣が出来ない人間がいるものか。
だが、見れば幸村の鳩尾に目立つ痣はなかった。
確かに連打で殴られ、そうそう力は籠もっていなかったかもしれないが。
何となく屈辱を感じる。
「……不思議でござるよ」
耳にくすぐったい声音。
「なあ、もう少しここに慣れたら、こっちの仕事にも顔出せよ」
昼間に仕事をしている辺りを指で指し示す。
「何の仕事でござろうか」
嫌がる風も驚く風もなく、役目を受ける武将の顔つきで幸村が尋ねる。
仕事はいくらでもあり、幸村の戦以外の能力はまだ解らない。
「何でも良いさ、城を守ってたアンタの意見が聞きたいだけだ。
ただし、もう少し言葉を覚えてからだけどな」
とたんに顔つきが強ばって、それでも一武将の誇りでか、しっかりと頷いた。
「ここで暮らしてりゃ嫌でも覚えるさ、気負うことはねえよ」
「左様にござるか。ならば精進いたす!」
「ああ。期待してるぜ、――幸」
幸村の目がきょとんと見張られる。
それから暫く視線を泳がせた後、しっかりと言った。
「出来れば某、幸村と呼んでいただきたい。この名は思い入れある、大切な名。
政宗殿には……幸村と呼んで欲しいのでござる」
「Ok、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。なら、幸村。
…さっきのな。惚れたってのは間違いじゃないが、訂正させてもらう」
幸村の眇められた視線を頬で受け止め、愛しさに負けてその体を引き寄せた。
体温の高い、力を内包した体。
耳元に唇を寄せて囁く。
他の誰にも聞き取れないように。
「――アンタの為なら、死ねる。覚えておきな、一度しか言わない」
幸村の体は一度びくりと強ばり、その目が見開かれ、
次いで呆れたような顔になった。
「な――何を言っているのでござるか……伊達の城主にござろう?某は政宗殿に終生仕えよと言われ、ここに参ったのでござる。そもそも、某の宿敵ならば死など、」
早口に繰り出される言葉を強引に断ち切った。
「Ah、小言はいい、小言は。もう聞き飽きてる。家臣のために死にはしねえよ、家臣はオレの為に死ぬ。伊達のためにも死なねえ。伊達はオレがもり立てるためにあるからな」
だが、と怪訝そうな、怒ったような幸村に向かって笑う。
「幸村、アンタの為ならこの命はくれてやる」
領土のためでも、欲のためでも、自分に全てを捧げる家臣のためでもなく。
幸村は何とも言えない顔で政宗を凝視していた。
「あ……呆れた御仁にござる……」
「理解出来ないか?Ha、まあそれでいい。
代わりにアンタは命を継ぎな。それで十分だ」
呆れた眼差しを笑みでくるむ。
「子にござるか」
「ああ。幸村の子が見たい。そいつが物心つくまでに天下を統一して、平和な世にしてやる。それならこの命一つ、安いモンだろ?」
呆れたままの幸村の頬に口づけ、もう一度言った。
「アンタの為なら、安いモンだ……なあ、幸村」
胸元に当てられた幸村の手が、ぶるぶると震える。
撫でてやると幸村は堪えきれなくなったように叫んだ。
「なにゆえ!政宗殿はいちいち人の心を乱される!某は二日考え、やっとのことで政宗殿に真向かう気になれたのでござる!




