白く大きな鳥が、高殿飛び出してきたようだと思った。
白い夜着が闇に浮かぶ。内側から光っているかのようで、幸村は目を細めた。
「政宗殿――っ!!」
名を叫び、背に負っていた刀を投げた。刀を受け取ったのが見えた。
抱えていた女を立たせ、小十郎に預けている。
あれはひょっとすると政宗の正室だろうか。遠目にも美しい人だと分かる。
「駆けてくだされ!!」
声が、はたして届いたのかどうか。政宗は刀を抜いて鞘を腰に差していた。いつも通り、突き刺すような構えを取る。
竹中が何か喚いている。殺せ、という言葉が風に乗って聞こえてきた。
矢が飛んだ。刀が舞う。矢は勢いを失ってへろへろと地面に落ちた。
政宗は高殿を一度見上げ、それから駆けた。敵が追うが斬り捨てられる方が速い。
「よお。久しぶりだな」
血に濡れた刀を下げ、政宗は笑った。凄絶な、けれどどこか子供じみた笑み。
こんな笑い方をする政宗を、幸村は知っている。
げっと幸村は呻いた。右目が動いていない。こんな真似は生きている者にはできない。
「ままままま政宗殿っ!?」
「yeah。さて、状況を説明してもらおうか」
刀で肩を軽く叩き、政宗は幸村を見上げた。身長は大して変わらない。
心まで覗こうとする政宗のこの仕草は、恐ろしさすら感じた。
「先に伊達軍を解放いたしました。砲台には、伊達の残党がおります。数はおよそ二百」
「二百か……減ったな。それで、そっちは何人連れてきた?」
「某を含めて二人。しかし、一騎当千の兵にござる」
「上等。――それで、これからどうする」
「逃げます」
政宗は高らかに笑った。戦場にそぐわない明るい声だが、政宗には似合っている。
愛姫を背負った小十郎がようやく到着した。
「いーねいーね、最高だ」
刀を振る。心底楽しそうな表情。凄絶な、刃を思わせる立ち姿。圧倒的な存在感。
これが、伊達藤次郎政宗。
「小十郎」
「は」
「愛を頼む。怪我でもさせてみろ、首が飛ぶと思え」
「承知いたしました」
「真田。俺が血路を開く。お前は殿を務めろ」
白い衣装は、闇の中で目立つ。だからこそ政宗は正面に立つことを選択した。
「――承知」
白い装束が駆けた。刀を振るい、体を血に染めていく。
「Let's patry!! yeah-ha!」
雷光が散る。幸村は一度高殿を見た。半兵衛と秀吉の姿はない。怒声が遠い。
死にはしないだろう。だが、痛手は受けたはず。当分は動けまい。
二槍を握り直し、稲葉山を駆けた。
夜の戦場は初めてではない。月や星の僅かな光を頼りに進むのは、昼以上に神経を使う。
政宗は恐らく初めてのことだろう。しかし死者の眼は夜目が利くのか、正しい道を躊躇うことなく下っていく。
途中で現れた敵兵は次々と斬り倒されていく。時折雷光が炸裂した。
光が舞っている。
小さく淡い光。
蛍だ。
季節が僅かに巻き戻ったかのような錯覚に襲われた。
蛍たちは確実に正しい道を示し、敵が潜んでいる辺りになると多く見られた。
幸村は槍を振るい、炎を操りながら天を仰いだ。
どこかが炎に包まれたのだろう。天をも焦がす勢いで火柱が上がった。
「あれは……」
政宗が立ち止まる。炎を睨む。
「砲台か。それとも城か」
一体どちらが。
それはやたらと元気のいい声で判断がついた。普通の軍団は、「いやっほー」などと言わない。
誰もが安堵の息を吐いた。
「城、だな」
「伊達の兵は、まこと立派です」
「お前ら、いい軍団を育てたな」
坂を下る。蛍がいくつか光り、先の道を照らしていた。
白い夜着が闇に浮かぶ。内側から光っているかのようで、幸村は目を細めた。
「政宗殿――っ!!」
名を叫び、背に負っていた刀を投げた。刀を受け取ったのが見えた。
抱えていた女を立たせ、小十郎に預けている。
あれはひょっとすると政宗の正室だろうか。遠目にも美しい人だと分かる。
「駆けてくだされ!!」
声が、はたして届いたのかどうか。政宗は刀を抜いて鞘を腰に差していた。いつも通り、突き刺すような構えを取る。
竹中が何か喚いている。殺せ、という言葉が風に乗って聞こえてきた。
矢が飛んだ。刀が舞う。矢は勢いを失ってへろへろと地面に落ちた。
政宗は高殿を一度見上げ、それから駆けた。敵が追うが斬り捨てられる方が速い。
「よお。久しぶりだな」
血に濡れた刀を下げ、政宗は笑った。凄絶な、けれどどこか子供じみた笑み。
こんな笑い方をする政宗を、幸村は知っている。
げっと幸村は呻いた。右目が動いていない。こんな真似は生きている者にはできない。
「ままままま政宗殿っ!?」
「yeah。さて、状況を説明してもらおうか」
刀で肩を軽く叩き、政宗は幸村を見上げた。身長は大して変わらない。
心まで覗こうとする政宗のこの仕草は、恐ろしさすら感じた。
「先に伊達軍を解放いたしました。砲台には、伊達の残党がおります。数はおよそ二百」
「二百か……減ったな。それで、そっちは何人連れてきた?」
「某を含めて二人。しかし、一騎当千の兵にござる」
「上等。――それで、これからどうする」
「逃げます」
政宗は高らかに笑った。戦場にそぐわない明るい声だが、政宗には似合っている。
愛姫を背負った小十郎がようやく到着した。
「いーねいーね、最高だ」
刀を振る。心底楽しそうな表情。凄絶な、刃を思わせる立ち姿。圧倒的な存在感。
これが、伊達藤次郎政宗。
「小十郎」
「は」
「愛を頼む。怪我でもさせてみろ、首が飛ぶと思え」
「承知いたしました」
「真田。俺が血路を開く。お前は殿を務めろ」
白い衣装は、闇の中で目立つ。だからこそ政宗は正面に立つことを選択した。
「――承知」
白い装束が駆けた。刀を振るい、体を血に染めていく。
「Let's patry!! yeah-ha!」
雷光が散る。幸村は一度高殿を見た。半兵衛と秀吉の姿はない。怒声が遠い。
死にはしないだろう。だが、痛手は受けたはず。当分は動けまい。
二槍を握り直し、稲葉山を駆けた。
夜の戦場は初めてではない。月や星の僅かな光を頼りに進むのは、昼以上に神経を使う。
政宗は恐らく初めてのことだろう。しかし死者の眼は夜目が利くのか、正しい道を躊躇うことなく下っていく。
途中で現れた敵兵は次々と斬り倒されていく。時折雷光が炸裂した。
光が舞っている。
小さく淡い光。
蛍だ。
季節が僅かに巻き戻ったかのような錯覚に襲われた。
蛍たちは確実に正しい道を示し、敵が潜んでいる辺りになると多く見られた。
幸村は槍を振るい、炎を操りながら天を仰いだ。
どこかが炎に包まれたのだろう。天をも焦がす勢いで火柱が上がった。
「あれは……」
政宗が立ち止まる。炎を睨む。
「砲台か。それとも城か」
一体どちらが。
それはやたらと元気のいい声で判断がついた。普通の軍団は、「いやっほー」などと言わない。
誰もが安堵の息を吐いた。
「城、だな」
「伊達の兵は、まこと立派です」
「お前ら、いい軍団を育てたな」
坂を下る。蛍がいくつか光り、先の道を照らしていた。




