深夜の海風が、ひんやりと二人の汗を乾かしていく。
やがて、冷えた肩をさすり、そろそろ寝るか、と元親は布団を引っ張り寄せた。
傍らの体をまず覆い、自分も潜る前に、部屋の中をぐるりと見回す。
先刻の釣り天井に潰されて、あちこち床板が外れているのだが、よくよく見れば、
完全に大穴となっている場所も多かった。明るくなれば、さらにひどい部分が目に付きそうだ。
このぶっ壊れ具合じゃ、基礎からやり直さなきゃいけねえかもなあ、と
首をひねったところで、ふと小さな音が鼓膜に触れた。
やがて、冷えた肩をさすり、そろそろ寝るか、と元親は布団を引っ張り寄せた。
傍らの体をまず覆い、自分も潜る前に、部屋の中をぐるりと見回す。
先刻の釣り天井に潰されて、あちこち床板が外れているのだが、よくよく見れば、
完全に大穴となっている場所も多かった。明るくなれば、さらにひどい部分が目に付きそうだ。
このぶっ壊れ具合じゃ、基礎からやり直さなきゃいけねえかもなあ、と
首をひねったところで、ふと小さな音が鼓膜に触れた。
闇の底に響いたそれが、誰かの悲鳴だ、と気づいた瞬間、耳を劈くような轟音と
激しい揺れが、館を揺るがした。
激しい揺れが、館を揺るがした。
反射的に妻の上に覆いかぶさった元親の背中や肩に、ぱらぱらと埃が舞い落ちる。
油断なく闇の気配を探るうちにも、あちこちで悲鳴や罵声が上がるのが聞こえた。
揺れが収まるのを待ち、布団を跳ね上げ飛び起きる。
地震ではない。雷が落ちる天気でもない。ならばどこかの襲撃か。
こんないい月夜に夜襲たあ、どこのバカだと歯噛みしながら、とりあえず眼帯を
拾い上げ、手早く破れた小袖を巻きつける。
壁にかけた八流その他、愛用の槍に手を伸ばしかけたところで、元親はふと、
床に転がる妻の護身具に目を留めた。
白木の柄が、元親を誘うように、月明かりに鮮やかな輝きを放っている。
こいつも使えるか?
いやむしろ使ってみたいぞ?と逡巡している間に、小さなうめき声を上げて元就が目を開いた。
「……何事だ……」
「おう、どうやら夜襲だ。尼子あたりだろ。腰が立ちそうならお前も来いや」
「場所は」
「音からすると、東館のほうだな」
「東……」
もぞもぞと起き上がり、据わった目で闇を見つめていた元就が、ふと息をついた。
寒そうに布団を引き寄せ、またもぐりこむのに、なんだ来ねえのか、と声をかける。
「じゃあこれ、借りてくぜ?」
「案ずるな、おそらく夜襲ではないわ」
だいたい館の東側からの襲撃ならば、近づく前に海の藻屑よ、と眠そうながら
自慢げな声に、元親は思わず振り返って闇の彼方を見た。
確かに、敵襲にしては相手方の声が聞こえない。
だが、邸内の騒ぎはだんだんと大きくなっていくばかりだ。
数回首をひねり、目線を落とすと、元親は拾い上げた巨大ハリセンで、こんもり
丸い布団をつついてみた。
油断なく闇の気配を探るうちにも、あちこちで悲鳴や罵声が上がるのが聞こえた。
揺れが収まるのを待ち、布団を跳ね上げ飛び起きる。
地震ではない。雷が落ちる天気でもない。ならばどこかの襲撃か。
こんないい月夜に夜襲たあ、どこのバカだと歯噛みしながら、とりあえず眼帯を
拾い上げ、手早く破れた小袖を巻きつける。
壁にかけた八流その他、愛用の槍に手を伸ばしかけたところで、元親はふと、
床に転がる妻の護身具に目を留めた。
白木の柄が、元親を誘うように、月明かりに鮮やかな輝きを放っている。
こいつも使えるか?
いやむしろ使ってみたいぞ?と逡巡している間に、小さなうめき声を上げて元就が目を開いた。
「……何事だ……」
「おう、どうやら夜襲だ。尼子あたりだろ。腰が立ちそうならお前も来いや」
「場所は」
「音からすると、東館のほうだな」
「東……」
もぞもぞと起き上がり、据わった目で闇を見つめていた元就が、ふと息をついた。
寒そうに布団を引き寄せ、またもぐりこむのに、なんだ来ねえのか、と声をかける。
「じゃあこれ、借りてくぜ?」
「案ずるな、おそらく夜襲ではないわ」
だいたい館の東側からの襲撃ならば、近づく前に海の藻屑よ、と眠そうながら
自慢げな声に、元親は思わず振り返って闇の彼方を見た。
確かに、敵襲にしては相手方の声が聞こえない。
だが、邸内の騒ぎはだんだんと大きくなっていくばかりだ。
数回首をひねり、目線を落とすと、元親は拾い上げた巨大ハリセンで、こんもり
丸い布団をつついてみた。
「じゃあなんだ?」
「我だ」
「我だ」
布団の中からポツリと聞こえた声に、一瞬ぽかんと足元を見下ろす。
枕の上の短い髪を眺め、振り返って奥から聞こえる阿鼻叫喚の騒ぎへ目を向け、
また慌てて顔を戻す。
「こら!今度はなにしやがった!?」
「……東館の渡り殿に、落とし穴を仕掛けた」
ぎょっと目を見開く。東館の渡り殿といえば、海の真上に張り出した釣り廊下だ。
景色を楽しむには最適な場所だが、落ちればそのまま、海へまっさかさまとなる。
「なんであんなとこに!いや待て、落とし穴に爆音ってなんだ!?」
「大声を出すな」
ぶつぶつ呟きながら、小さな顔が布団から出てくる。一つ優雅にあくびをして、
元就は眠そうな目で、ぽかんと自分を見下ろす良人を見上げた。
枕の上の短い髪を眺め、振り返って奥から聞こえる阿鼻叫喚の騒ぎへ目を向け、
また慌てて顔を戻す。
「こら!今度はなにしやがった!?」
「……東館の渡り殿に、落とし穴を仕掛けた」
ぎょっと目を見開く。東館の渡り殿といえば、海の真上に張り出した釣り廊下だ。
景色を楽しむには最適な場所だが、落ちればそのまま、海へまっさかさまとなる。
「なんであんなとこに!いや待て、落とし穴に爆音ってなんだ!?」
「大声を出すな」
ぶつぶつ呟きながら、小さな顔が布団から出てくる。一つ優雅にあくびをして、
元就は眠そうな目で、ぽかんと自分を見下ろす良人を見上げた。
「朝の潮風が気持ちいいなどと言うて、貴様は毎朝一番に、あそこで用を足すだろう。
すなわち日輪に向かってだ。もってのほかと、再三、我が注意しても聞かぬゆえ、
これは体にいって聞かせるしかないと思うてな。昨夜のうちに仕掛けておいた」
西海夫婦馬鹿善哉27
すなわち日輪に向かってだ。もってのほかと、再三、我が注意しても聞かぬゆえ、
これは体にいって聞かせるしかないと思うてな。昨夜のうちに仕掛けておいた」
西海夫婦馬鹿善哉27




