小十郎は政宗の顔に手をやった。政宗がひた隠す右のまなこ。疱瘡を患った折に光を失った。
眼球は残っているが、白濁していて黒い部分がない。僅かな光を感じることができるが、
両目を開けていると平衡感覚が狂い気持ち悪くなるらしい。そのため、眼帯をつけて
故意に光を奪っている。
この目をえぐれ、と命じられたことがある。見えぬ目などいらぬ。けれど自分でえぐろうにも
加減が分からぬ。だから小十郎、お前がやれと。
どうかそれだけはご勘弁を、と平伏した。
――他の事なら何でも聞きます。けれどお体を傷つけることだけはお許しください。
小十郎がなんでも言うことを聞きます。どのような願いも叶えます。ですからどうか、御身を大事に。
幼くして絶望を味わった姫君を助けるための約束だった。十年以上経つ今でも守り続けている。
政宗の正気を保つ、小さいことであるが故に大きな約束。
愚かな男よ、という揶揄を何度も聞いた。竜の右目など、過ぎた異名ではないか。
まことに政宗様が大事なら、苦言を呈し、家督を小次郎様に譲らせ立派な婿を探すのが
忠臣としての努めではないのか。己が手で主君を辱めるなど、武士の風上にも置けぬ。
抱けと命じられたから抱いたまで。ずっと傍にいると。何でも言うことを聞くと約束した。
そのことを他の家臣は知らない。そんな奴等に好き勝手言われても構わない。
どうせ彼らに、政宗の孤独など分からない。
政宗は少しずつ変わり始めた。気難しい性分やすぐ手が出る癖は少しも変わらないが、
交友関係が少しずつ広がっている。
例えば三河の徳川。甲斐武田の家臣真田。四国の長曾我部。三人から、それとなく縁談が
来ている。もっとも長曾我部は中国毛利と結んだので、今は二つか。
「側室でもいいから俺んとこ来いよ」などという長曾我部には、政宗の命令によって
腐った牛の舌を大量に送りつけておいた。しかし後日大量に腐ったカツオが送られてきた。
根性のあるヤツだ。今でも政宗を狙っているらしい。
(もう、十九になられた。心変わりされてもおかしくない)
白無垢に憧れてもいい年だ。
政宗ならきっと似合うだろう。相手は、真田なら見栄えがするだろうし、徳川なら
微笑ましくなるだろう。どちらも人となりはしっかりしている。喜んで送り出せる。
けれどそんな姿は見たくないと思うのは、幼い頃から見守り続けたが故の傲慢か。
あんたの奴隷のままでいい8
眼球は残っているが、白濁していて黒い部分がない。僅かな光を感じることができるが、
両目を開けていると平衡感覚が狂い気持ち悪くなるらしい。そのため、眼帯をつけて
故意に光を奪っている。
この目をえぐれ、と命じられたことがある。見えぬ目などいらぬ。けれど自分でえぐろうにも
加減が分からぬ。だから小十郎、お前がやれと。
どうかそれだけはご勘弁を、と平伏した。
――他の事なら何でも聞きます。けれどお体を傷つけることだけはお許しください。
小十郎がなんでも言うことを聞きます。どのような願いも叶えます。ですからどうか、御身を大事に。
幼くして絶望を味わった姫君を助けるための約束だった。十年以上経つ今でも守り続けている。
政宗の正気を保つ、小さいことであるが故に大きな約束。
愚かな男よ、という揶揄を何度も聞いた。竜の右目など、過ぎた異名ではないか。
まことに政宗様が大事なら、苦言を呈し、家督を小次郎様に譲らせ立派な婿を探すのが
忠臣としての努めではないのか。己が手で主君を辱めるなど、武士の風上にも置けぬ。
抱けと命じられたから抱いたまで。ずっと傍にいると。何でも言うことを聞くと約束した。
そのことを他の家臣は知らない。そんな奴等に好き勝手言われても構わない。
どうせ彼らに、政宗の孤独など分からない。
政宗は少しずつ変わり始めた。気難しい性分やすぐ手が出る癖は少しも変わらないが、
交友関係が少しずつ広がっている。
例えば三河の徳川。甲斐武田の家臣真田。四国の長曾我部。三人から、それとなく縁談が
来ている。もっとも長曾我部は中国毛利と結んだので、今は二つか。
「側室でもいいから俺んとこ来いよ」などという長曾我部には、政宗の命令によって
腐った牛の舌を大量に送りつけておいた。しかし後日大量に腐ったカツオが送られてきた。
根性のあるヤツだ。今でも政宗を狙っているらしい。
(もう、十九になられた。心変わりされてもおかしくない)
白無垢に憧れてもいい年だ。
政宗ならきっと似合うだろう。相手は、真田なら見栄えがするだろうし、徳川なら
微笑ましくなるだろう。どちらも人となりはしっかりしている。喜んで送り出せる。
けれどそんな姿は見たくないと思うのは、幼い頃から見守り続けたが故の傲慢か。
あんたの奴隷のままでいい8




