いつきを着飾らせるのが、政宗の最近の趣味だった。
「ただの人質」ではなく、農民のリーダーに据えるのが目的なので、教育を与えることは
間違っていない。農具の開発や田畑の開発のためなのだから、誰も文句は言わない。
しかし着飾らせるのは、完全に趣味である。女中と同じような格好でも何ら問題はないのだが、
小袖に打ち掛け、髪飾りを用意したり引っ張り出したりしていつきを飾る。
「髪が白いですから、明るい色がよく映えますわ。政宗様、こちらのお召し物は如何でしょう?」
「そうだな……この胡蝶柄の打ち掛けと合わせてみるか。――いつき、紅はつけるか?」
「お、おら、そんな綺麗なべべさ、いいだ。勿体ねぇべ」
「あら、しまっておく方が勿体のうございまする。ささ、こちらの桜の色は如何ですか?」
女中は政宗を着飾らせたいという欲求を全部いつきにぶつけている。政宗もまた
「自分には似合わない」と決めつけ、自分の中にある色んな欲求を全部いつきにぶつけている。
そんな女中たちと政宗が団結して「女が着飾って何が悪い」と言い張れば、誰も文句を言えない。
城主が女であるせいか、米沢城は女の方が圧倒的に強かった。
散々着飾らされ、紅まで塗られ、髪も言葉では表現できない形に結った挙句に
「このままが一番cuteyだな」ということで下ろされた。髪の先に綺麗な紐をつけられ、
嬉しいのか申し訳ないのか分からない。
毎朝そんな調子だから体調を崩しているのだが、そのことに誰も気づかない。
「政宗様、まだこちらにおられましたか」
障子の向こうに小十郎の影が映る。政宗は入れ、と短く命じ手に持っていた
鮮やかな青の着物を畳の上に置いた。
す、と無駄のない所作で小十郎が障子を開ける。いつきを見て目を細め、それから頭を下げた。
「政宗様、評定の時刻にございます」
「あ、もうそんな時間か」
政宗は立ち上がって退室し、小十郎も立ち上がる。後を追う小十郎に向けた「遅い」と
罵るのが聞こえた。女中たちはそれを聞き、袖で口元を隠し、くすくすと笑い合った。
着物を畳んで小物をしまい、膝をつき合わせた。女中たちとの「内緒話」は、
いつきの数少ない楽しみだった。
「本当に、政宗様は小十郎様贔屓でらっしゃいますこと」
「ほんに。いつもいつも罵られておいでですが、あれもまぁ、よく弁が立つというか」
「いつき様、ご存知ですか? 政宗様は小十郎様のお傍でしか眠られないのですよ」
「飴湯も、わたくしたちが入れたものはけしてお飲みになられませんし」
「寝所に入れるのは、小十郎様と女中頭のお二方のみですし」
「お体に触れていいのも、小十郎様だけですのよ」
いつきはぱちくりと丸い目を瞬かせた。ちょんと膝を合わせ、体を乗り出す。
「……ねえちゃん、にいちゃんのこと、好きなんだべ」
「けれどそれはけしてお認めになられない」
「お恥ずかしいのでございましょう」
「本当、気位がお高いというか」
「あら、それがよろしいのよ。気位の高い方が、心をお許しになられた方の前でだけ
女の顔をされるのでしょう?」
きゃあ、と女中たちは弾けたように体を反らし、恥ずかしそうに頬を染める。
それから顔を寄せ合い、またお喋りに興じる。
彼女たちにとって、政宗は主であり不器用な妹のようでもある。妹の恋路は応援するのが
姉というもの。
「本当に……お幸せで、何よりですわ」
女中の一人が漏らすうっとりとした独白に、女中もいつきも頷いた。
「ただの人質」ではなく、農民のリーダーに据えるのが目的なので、教育を与えることは
間違っていない。農具の開発や田畑の開発のためなのだから、誰も文句は言わない。
しかし着飾らせるのは、完全に趣味である。女中と同じような格好でも何ら問題はないのだが、
小袖に打ち掛け、髪飾りを用意したり引っ張り出したりしていつきを飾る。
「髪が白いですから、明るい色がよく映えますわ。政宗様、こちらのお召し物は如何でしょう?」
「そうだな……この胡蝶柄の打ち掛けと合わせてみるか。――いつき、紅はつけるか?」
「お、おら、そんな綺麗なべべさ、いいだ。勿体ねぇべ」
「あら、しまっておく方が勿体のうございまする。ささ、こちらの桜の色は如何ですか?」
女中は政宗を着飾らせたいという欲求を全部いつきにぶつけている。政宗もまた
「自分には似合わない」と決めつけ、自分の中にある色んな欲求を全部いつきにぶつけている。
そんな女中たちと政宗が団結して「女が着飾って何が悪い」と言い張れば、誰も文句を言えない。
城主が女であるせいか、米沢城は女の方が圧倒的に強かった。
散々着飾らされ、紅まで塗られ、髪も言葉では表現できない形に結った挙句に
「このままが一番cuteyだな」ということで下ろされた。髪の先に綺麗な紐をつけられ、
嬉しいのか申し訳ないのか分からない。
毎朝そんな調子だから体調を崩しているのだが、そのことに誰も気づかない。
「政宗様、まだこちらにおられましたか」
障子の向こうに小十郎の影が映る。政宗は入れ、と短く命じ手に持っていた
鮮やかな青の着物を畳の上に置いた。
す、と無駄のない所作で小十郎が障子を開ける。いつきを見て目を細め、それから頭を下げた。
「政宗様、評定の時刻にございます」
「あ、もうそんな時間か」
政宗は立ち上がって退室し、小十郎も立ち上がる。後を追う小十郎に向けた「遅い」と
罵るのが聞こえた。女中たちはそれを聞き、袖で口元を隠し、くすくすと笑い合った。
着物を畳んで小物をしまい、膝をつき合わせた。女中たちとの「内緒話」は、
いつきの数少ない楽しみだった。
「本当に、政宗様は小十郎様贔屓でらっしゃいますこと」
「ほんに。いつもいつも罵られておいでですが、あれもまぁ、よく弁が立つというか」
「いつき様、ご存知ですか? 政宗様は小十郎様のお傍でしか眠られないのですよ」
「飴湯も、わたくしたちが入れたものはけしてお飲みになられませんし」
「寝所に入れるのは、小十郎様と女中頭のお二方のみですし」
「お体に触れていいのも、小十郎様だけですのよ」
いつきはぱちくりと丸い目を瞬かせた。ちょんと膝を合わせ、体を乗り出す。
「……ねえちゃん、にいちゃんのこと、好きなんだべ」
「けれどそれはけしてお認めになられない」
「お恥ずかしいのでございましょう」
「本当、気位がお高いというか」
「あら、それがよろしいのよ。気位の高い方が、心をお許しになられた方の前でだけ
女の顔をされるのでしょう?」
きゃあ、と女中たちは弾けたように体を反らし、恥ずかしそうに頬を染める。
それから顔を寄せ合い、またお喋りに興じる。
彼女たちにとって、政宗は主であり不器用な妹のようでもある。妹の恋路は応援するのが
姉というもの。
「本当に……お幸せで、何よりですわ」
女中の一人が漏らすうっとりとした独白に、女中もいつきも頷いた。
政宗が盛大なくしゃみをしたので小十郎が苦笑しながら懐紙を渡すと、
政宗はむすりとした顔で拒んだ。
「お風邪でも召されましたか?」
「Ahー、かもな。あとで生姜湯入れてくれ」
「畏まりました。ささ、評定を行いましょうぞ」
「yeah。今日はどいつが無理難題言ってくるんだろうなぁ」
楽しそうに政宗がつぶやく。白扇を顎にやり、ふと小十郎を振り返った。
「ああ、小十郎が無理を言うか。お前は評定の場では容赦がないな」
「伊達の、ひいては政宗様のためです。苦言に耳くらいお貸し頂きたい」
「――分かってるよ。お前は俺の一の家臣だ」
政宗は小唄を歌いながら評定の場へと向かう。小十郎は肩を落としてため息をつき、
ふと雪に埋まる庭を見た。
政宗が七つの時だった。一番高い木に登って騒ぎになったことがあった。姫君の無茶な振る舞いに、
誰もが唖然とした。梯子を渡せば隣の木に飛び移るという離れ業を披露し、結局木を切り倒して強引に解決した。
あれは、どうしてそんなことをしたのだったか。
「……ああ、そうだ」
思い出して微笑む。政宗の後を追って評定の場に足を踏み入れる。
あんたの奴隷のままでいい14
政宗はむすりとした顔で拒んだ。
「お風邪でも召されましたか?」
「Ahー、かもな。あとで生姜湯入れてくれ」
「畏まりました。ささ、評定を行いましょうぞ」
「yeah。今日はどいつが無理難題言ってくるんだろうなぁ」
楽しそうに政宗がつぶやく。白扇を顎にやり、ふと小十郎を振り返った。
「ああ、小十郎が無理を言うか。お前は評定の場では容赦がないな」
「伊達の、ひいては政宗様のためです。苦言に耳くらいお貸し頂きたい」
「――分かってるよ。お前は俺の一の家臣だ」
政宗は小唄を歌いながら評定の場へと向かう。小十郎は肩を落としてため息をつき、
ふと雪に埋まる庭を見た。
政宗が七つの時だった。一番高い木に登って騒ぎになったことがあった。姫君の無茶な振る舞いに、
誰もが唖然とした。梯子を渡せば隣の木に飛び移るという離れ業を披露し、結局木を切り倒して強引に解決した。
あれは、どうしてそんなことをしたのだったか。
「……ああ、そうだ」
思い出して微笑む。政宗の後を追って評定の場に足を踏み入れる。
あんたの奴隷のままでいい14




