「男ぁ生えるだろ?」
「そりゃね」
筋肉とヒゲと海……うん。男っつか漢だね。
このひょろっとした俺を見てくれよ。忍びは無駄な筋肉付けないんだよ。
「ますます俺だーなんて言えるかよ」
「そうかぁ?すすっと動く頭良くて身が締まった川魚みてえで格好良いぜぇ?」
格好良いのかそれは。魚……
ていうかさ、
「おねーさんさあ、何かあったの?」
薄青とも薄紫ともつかない目が大きく見ひらかれた。ついでばしばし肩を叩かれる。
「うっわやべーすげーなあ、鋭いぜ!本気で惚れたらどーするよ!」
や、あのほんとに好きだって声音と表情に出てるんですが。隠してないじゃん。
俺そんな明け透けに好きでしょーがない目で見られたことないよ。
けどその顔がいきなり変わった。
さっきよりもずっと真面目な、強い意志を伺わせる顔。
「なあ、ここにそんなに長くいないんだろ?」
「そりゃね。適当に売り上げたら次に行くさ」
それが行商人。俺の仮の姿。
「……話、聞いてくれるか。行きずりの女の身の上話だ、聞き流してかまわねぇさ」
「はぁーいはいっと。じゃあ酒でも入れよか」
徳利の傍らに置かれた湯飲みにだっぷり注いで、女の前に置き、自分でも一口飲んだ。
強い焼酎だ。旦那好きそう。
ま、どうせ酔いやしないが、格好付けた方がいいし。
この女、馬鹿じゃないらしい。世間話でもこの地で情報仕入れるのに、ちょっとは役に立ちそうだ。
おねえさんもかるーく湯飲み空けてはっは、と笑った。
「よーくある話だぜ。なんか縁談が纏まりそうなんだ。
結構遠くてな。しかも相手はガキ山ほど作って家たやさねーようにしようってなヤツで、
だから女なんざガキ作る道具で、どーでもいいらしい。
けど、うちは借金まみれの火の車で、ヤツは金持ちなんだってよ」
うん。そりゃあ遊びたくもなるわ。
おねーさんのお金がかかった服装、でもぴかぴかの新品じゃない、古ぼけてもない。
なんか大切にとって置かれた感じの、上質の絹地。
「あー、あるある。すっごいありふれた胸くそ悪い話だね」
彫りの深い異国の顔立ち、異国の服、この国の布地。
あわい霧みたいに煙る睫毛。奔放に長い白金の髪、しぼりたての乳みたいな肌、でも強い顔立ち。
髪みたいな、うまく纏まらない奔放さが似合うひと。
「もー何だっていいから逃げちまおうかな、って思ってな。どっか遠くにゃいー男だって山ほど居るだろ」
いるいる。山ほど居る。
「いるねー、俺とか」
「ああ、兄さんとか」
ん?とお姉さんの顔見た。海風みたいにからから笑ってた。
そのままお菓子つまんで焼酎流し込む。
ますます旦那思い出した。ちっとも似てないけど。
「だが逃げるのは性にあわねえ。こっちが喰ってやる」
………。
「前向きなおねーさんだねー」
「だがあいつ、みみっちい策こね回しやがってばっかでよお。
きっと顔もナリもみみっちい、脂ぎった気ン持ちわりー男に決まってら。
そんなツラ、わざわざ拝みたくねえってんだ」
「どっちだよ」
ちびちび焼酎舐める。舌先に尖った味。焼き菓子よりスルメが欲しい。
「はっは!さっぱり決まらねぇ。船の上で星を見失っちまったみてえだな」
姫親が行く!5
「そりゃね」
筋肉とヒゲと海……うん。男っつか漢だね。
このひょろっとした俺を見てくれよ。忍びは無駄な筋肉付けないんだよ。
「ますます俺だーなんて言えるかよ」
「そうかぁ?すすっと動く頭良くて身が締まった川魚みてえで格好良いぜぇ?」
格好良いのかそれは。魚……
ていうかさ、
「おねーさんさあ、何かあったの?」
薄青とも薄紫ともつかない目が大きく見ひらかれた。ついでばしばし肩を叩かれる。
「うっわやべーすげーなあ、鋭いぜ!本気で惚れたらどーするよ!」
や、あのほんとに好きだって声音と表情に出てるんですが。隠してないじゃん。
俺そんな明け透けに好きでしょーがない目で見られたことないよ。
けどその顔がいきなり変わった。
さっきよりもずっと真面目な、強い意志を伺わせる顔。
「なあ、ここにそんなに長くいないんだろ?」
「そりゃね。適当に売り上げたら次に行くさ」
それが行商人。俺の仮の姿。
「……話、聞いてくれるか。行きずりの女の身の上話だ、聞き流してかまわねぇさ」
「はぁーいはいっと。じゃあ酒でも入れよか」
徳利の傍らに置かれた湯飲みにだっぷり注いで、女の前に置き、自分でも一口飲んだ。
強い焼酎だ。旦那好きそう。
ま、どうせ酔いやしないが、格好付けた方がいいし。
この女、馬鹿じゃないらしい。世間話でもこの地で情報仕入れるのに、ちょっとは役に立ちそうだ。
おねえさんもかるーく湯飲み空けてはっは、と笑った。
「よーくある話だぜ。なんか縁談が纏まりそうなんだ。
結構遠くてな。しかも相手はガキ山ほど作って家たやさねーようにしようってなヤツで、
だから女なんざガキ作る道具で、どーでもいいらしい。
けど、うちは借金まみれの火の車で、ヤツは金持ちなんだってよ」
うん。そりゃあ遊びたくもなるわ。
おねーさんのお金がかかった服装、でもぴかぴかの新品じゃない、古ぼけてもない。
なんか大切にとって置かれた感じの、上質の絹地。
「あー、あるある。すっごいありふれた胸くそ悪い話だね」
彫りの深い異国の顔立ち、異国の服、この国の布地。
あわい霧みたいに煙る睫毛。奔放に長い白金の髪、しぼりたての乳みたいな肌、でも強い顔立ち。
髪みたいな、うまく纏まらない奔放さが似合うひと。
「もー何だっていいから逃げちまおうかな、って思ってな。どっか遠くにゃいー男だって山ほど居るだろ」
いるいる。山ほど居る。
「いるねー、俺とか」
「ああ、兄さんとか」
ん?とお姉さんの顔見た。海風みたいにからから笑ってた。
そのままお菓子つまんで焼酎流し込む。
ますます旦那思い出した。ちっとも似てないけど。
「だが逃げるのは性にあわねえ。こっちが喰ってやる」
………。
「前向きなおねーさんだねー」
「だがあいつ、みみっちい策こね回しやがってばっかでよお。
きっと顔もナリもみみっちい、脂ぎった気ン持ちわりー男に決まってら。
そんなツラ、わざわざ拝みたくねえってんだ」
「どっちだよ」
ちびちび焼酎舐める。舌先に尖った味。焼き菓子よりスルメが欲しい。
「はっは!さっぱり決まらねぇ。船の上で星を見失っちまったみてえだな」
姫親が行く!5




