「殿様だって知った途端に態度急変か。現金なもんだな」
伏し目がちに、やれやれと肩を竦める。
「いや…そう言われるとその通りなのでござるが…」
今更ながら、礼を欠いた己が恥ずかしい。居心地悪く、こめかみを掻いた。
「このような身分卑しき女郎如きに、自らお名乗り下さる懐の広さに、某、感服いたしましてござる」
もはや言い訳などもおこがましいが、思ったままを素直に白状する。
「そーか?名を尋ねるなら自分からって言うだろ。それに元々怒らせたのは、俺の方だしな」
返ってきた答えは、これまた率直な言葉であった。
侍を笠に着ない実直な態度は、清々しいまでに好感が持てる。
「政宗殿は…見かけより良い方なのでござるな」
言って「しまった」と思ったが、吐いた言葉は取り消せぬ。
だが政宗殿は、嬉しそうに返答を返した。
「あぁ、そーだぜ。この独眼のせいで相手が勝手にビビるんだ。俺は本来delicateな人間なのによ」
でりけーと、と耳慣れぬ単語を繰り返せば"繊細"という意味だと教えてくれる。
「"勝手に"…とは思えませぬが」
確かに隻眼と言うだけで威圧を感じる者もいるやもしれぬ。幾分傾いた様相に、圧倒される者もいるやもしれぬ。
だがこの男、見た目だけでは、ない。
「政宗殿の独眼に、底知れぬ強い闘志を感じまする。心弱き者であれば、その闘気に触れただけで心が折られましょうぞ」
元来は優しい御仁なのかもしれぬ。だが、嵐の様な気迫を纏って、他を圧倒する雰囲気を持つ。
上に立つ人間と言うものは、かくもこうあるべきなのか。
そういえばお館様も、お優しい方でありながら、火を噴く火山のごとく熱い闘気をお持ちだ。
「お前も大概、一介の女郎風情には似合わねぇ闘気の持ち主みたいだけどな」
にやり、と政宗殿は楽しそうに言い放った。
闘気、と言う言葉をそのまま返されて、気恥ずかしくなった。
確かに一介の女郎が闘気云々などと、情緒のない会話をするものだろうか。
「大体、そのござる言葉はなんなんだ。どこの将だよてめーは」
これには返す言葉も失う。
「これは…癖のようなものにござれば」
「そーいう癖を隠す為に廓詞を使うんじゃねーのか?」
元々口の達者な方ではないが、このお方には到底敵いそうにない。
「それは…鷹波屋は里詞を使わせないとの忘八殿の方針で…」
それは本当の事であったが、このような口調が客に好まれないであろう事は知っていた。
必死に取繕うとするも、語尾がしどろもどろになってしまう。
「…別に俺は嫌じゃねーからいいけどよ」
政宗殿自らが助け船を出してくれた。
だがしかし、安堵できたのは束の間で、
「ただそーやって畏まられっぱなしじゃ部下と評定開いてるみてーだぜ!遊女なら遊女らしく、もう少ししなだれかかったりしてみやがれ!」
ぐいと腕を掴まれ引っ張られた。不意を突かれて姿勢は崩れ、とん、と政宗殿の胸に顔が当たる。
「は、破廉恥な!」
予想だにせぬ行動に、顔から火が出た。
弾かれたように身体を離し、当たった頬をさする。
そこは火傷を負ったかのごとく、熱くじんじんと痛んだ。
「…てめーは…こっちが譲歩してやりゃあその態度か!」
俺が逃れた為に出来た空間を、虚を突かれた顔をして見つめた後、呆れた風に、だが獲物を見つけた獣の様な目をしていた。
「…オーケイ…!もっと破廉恥な事してやろーじゃねぇか…!」
挑戦的な笑みを浮かべ、政宗殿はまたしても俺の腕を掴みにかかる。
「い、嫌でござる!小娘を相手にするくらいなら切見世へ行くと言ったではござらぬか!」
両手首を捕らえられたが、不意さえ突かれなければ、そうやすやすと倒される自分ではない。
両腕を開こうとする力に抗って、拳を握り力を込める。ぐぐぐ、と震える腕の隙間で、両者負けじと火花が散る。
「うるせぇ、てめぇは別なんだよ。覚悟しやがれ!」
拮抗していたかに見えた攻防も、力比べで男の腕力に敵う訳もなく、瞬間に力を込めた政宗殿に、両腕の守備は開かれた。
無防備な正面を晒す事になり、俺は戸惑いの表情を、政宗殿が勝利の笑みを浮かべる。
とそこで、
「失礼します」
言葉と共にガラッと障子が開けられた。
伏し目がちに、やれやれと肩を竦める。
「いや…そう言われるとその通りなのでござるが…」
今更ながら、礼を欠いた己が恥ずかしい。居心地悪く、こめかみを掻いた。
「このような身分卑しき女郎如きに、自らお名乗り下さる懐の広さに、某、感服いたしましてござる」
もはや言い訳などもおこがましいが、思ったままを素直に白状する。
「そーか?名を尋ねるなら自分からって言うだろ。それに元々怒らせたのは、俺の方だしな」
返ってきた答えは、これまた率直な言葉であった。
侍を笠に着ない実直な態度は、清々しいまでに好感が持てる。
「政宗殿は…見かけより良い方なのでござるな」
言って「しまった」と思ったが、吐いた言葉は取り消せぬ。
だが政宗殿は、嬉しそうに返答を返した。
「あぁ、そーだぜ。この独眼のせいで相手が勝手にビビるんだ。俺は本来delicateな人間なのによ」
でりけーと、と耳慣れぬ単語を繰り返せば"繊細"という意味だと教えてくれる。
「"勝手に"…とは思えませぬが」
確かに隻眼と言うだけで威圧を感じる者もいるやもしれぬ。幾分傾いた様相に、圧倒される者もいるやもしれぬ。
だがこの男、見た目だけでは、ない。
「政宗殿の独眼に、底知れぬ強い闘志を感じまする。心弱き者であれば、その闘気に触れただけで心が折られましょうぞ」
元来は優しい御仁なのかもしれぬ。だが、嵐の様な気迫を纏って、他を圧倒する雰囲気を持つ。
上に立つ人間と言うものは、かくもこうあるべきなのか。
そういえばお館様も、お優しい方でありながら、火を噴く火山のごとく熱い闘気をお持ちだ。
「お前も大概、一介の女郎風情には似合わねぇ闘気の持ち主みたいだけどな」
にやり、と政宗殿は楽しそうに言い放った。
闘気、と言う言葉をそのまま返されて、気恥ずかしくなった。
確かに一介の女郎が闘気云々などと、情緒のない会話をするものだろうか。
「大体、そのござる言葉はなんなんだ。どこの将だよてめーは」
これには返す言葉も失う。
「これは…癖のようなものにござれば」
「そーいう癖を隠す為に廓詞を使うんじゃねーのか?」
元々口の達者な方ではないが、このお方には到底敵いそうにない。
「それは…鷹波屋は里詞を使わせないとの忘八殿の方針で…」
それは本当の事であったが、このような口調が客に好まれないであろう事は知っていた。
必死に取繕うとするも、語尾がしどろもどろになってしまう。
「…別に俺は嫌じゃねーからいいけどよ」
政宗殿自らが助け船を出してくれた。
だがしかし、安堵できたのは束の間で、
「ただそーやって畏まられっぱなしじゃ部下と評定開いてるみてーだぜ!遊女なら遊女らしく、もう少ししなだれかかったりしてみやがれ!」
ぐいと腕を掴まれ引っ張られた。不意を突かれて姿勢は崩れ、とん、と政宗殿の胸に顔が当たる。
「は、破廉恥な!」
予想だにせぬ行動に、顔から火が出た。
弾かれたように身体を離し、当たった頬をさする。
そこは火傷を負ったかのごとく、熱くじんじんと痛んだ。
「…てめーは…こっちが譲歩してやりゃあその態度か!」
俺が逃れた為に出来た空間を、虚を突かれた顔をして見つめた後、呆れた風に、だが獲物を見つけた獣の様な目をしていた。
「…オーケイ…!もっと破廉恥な事してやろーじゃねぇか…!」
挑戦的な笑みを浮かべ、政宗殿はまたしても俺の腕を掴みにかかる。
「い、嫌でござる!小娘を相手にするくらいなら切見世へ行くと言ったではござらぬか!」
両手首を捕らえられたが、不意さえ突かれなければ、そうやすやすと倒される自分ではない。
両腕を開こうとする力に抗って、拳を握り力を込める。ぐぐぐ、と震える腕の隙間で、両者負けじと火花が散る。
「うるせぇ、てめぇは別なんだよ。覚悟しやがれ!」
拮抗していたかに見えた攻防も、力比べで男の腕力に敵う訳もなく、瞬間に力を込めた政宗殿に、両腕の守備は開かれた。
無防備な正面を晒す事になり、俺は戸惑いの表情を、政宗殿が勝利の笑みを浮かべる。
とそこで、
「失礼します」
言葉と共にガラッと障子が開けられた。




