あれから幾度も名代を務めてきた。
未だ試行錯誤を重ねるも、板に付いて来たのではないかと自負している。
今日は佐助と共に総出で客の相手だ。
いつも不機嫌に女郎達を取り締まっている遣り手も番頭も、今日ばかりはこれ以上ない程の上機嫌。
何故なら今宵の佐助の客は、羽振りが良くて有名な、顕如殿であるからだ。
今日もまた、あちらにもこちらにも景気良く銭を振りまいている。
楽しく酒の席も進んでいると思われたその時だった。
「佐助さん、ちょっと…」
佐助が他の客に呼ばれて出て行く。
「帰ってきたら小遣いをやるから、早く戻ってくるんじゃぞ!」
顕如殿が慌てて声を掛けると、佐助は軽く振り返り、目配せだけで返事をした。
禿達も花魁に伴われて出て行く。
苦手な客と二人きりになってしまった、と心内で眉根を寄せた。
まず金に物を言わせて万事を思い通りにさせようとする心根が許せない。
このような色欲に溺れた者が坊主とは、全く世も末だ。
実際坊主が遊里遊びなどしていて良いものか。
せめて他の僧侶の様に、医者を装いでもすれば、少しは謙虚に見えるものを。
「見たかあの寂しそうな顔!」
顕如殿は佐助の素振りをお気に召した様で、上機嫌に酒を傾けながらワハハと膝を叩いた。
だがあれはそういう"振り"だ。それも分からで遊興とは、矜持にも程遠い。
内心を押し隠しながら、酌をしようと銚子を傾ける。
「なんじゃ幸村、もっと愛想良くせんか!」
酒の臭いが纏わり付いた息を吐きながら、顕如殿がこちらを向いた。
愛想良く…どころか、ますます眉根が寄る。
と、顕如殿は「ははぁ」としたり顔で顎の下をさすった。
「お主、儂が佐助にばかり気を取られているがゆえに、妬いておるな!?」
「なっ、何を…!」
何を言い出すのかと思えば。呆れて物が言えぬとはこの事で。
だが俺の反応に満足したのか顕如殿は、にやにやと嫌らしげな笑みを浮かべて近付いてきた。
「照れずとも良いぞ!儂もな、お主のような若い娘が好みでのぅ…」
言って俺の手に顕如殿の太くごつごつした手が添えられる。
触れられた途端背筋に悪寒が走った。思わず片手の銚子を落としそうになる。
「特に初物は…それはそれは、美味でのぅ…」
にたり、とその目が一層不気味な光を放った。
首筋がぞわぞわと粟立ち、咄嗟に手を引っ込める。
「お止め下さい」
凛と、言い放ったつもりの声は掠れて震え、それ以上のあしらう言葉が出てこない。
嫌な予感が全身を襲う。まさか、と思ったその時、逃れた手首をがっと掴まれた。
「乳も出てきて…もう立派なオンナじゃのぅ、幸村。水揚げはまだかの?」
嬲るような視線が俺の胸に纏わり付く。
それだけで触れられたかのような不快を覚え、俺は掴まれた手首の逃れられぬまま身を捻った。
と、もう片方の手でそれも許されぬように、肩を掴まれる。
視線を顕如殿の方へ戻せば、そこにはだらしなく鼻の下も伸びた、だがぎらつく雄の顔。
「何も手荒いことをするつもりはない。儂がお主を検分してやろう」
着物の裾に手が伸ばされる。
「………っ!」
恐怖。その黒い感情一色に支配された。
政宗殿に押し倒された時は、あれ程冷静でいられたのに、どうして今はこうも取り乱すのか。
あぁ、政宗殿が本気ではないのを知っていたからだ、と今になって思う。
本当ならばこんな事はしたくない、とあの隻眼が語っていたからだ。
だがこの男は、己の欲望も剥き出しに、息も荒げに俺を蹂躙しようと掛かっている。
駄目だ、駄目だ、駄目だ。
こんな事も上手くあしらえずして、お職になどなれるものか。
そう自分を奮い立たせようとするも、頭の中はますます白くなるばかり。
「やめろ」の一言すら、喉から搾り出す事もできない。
―――嫌だ。
めくられる着物の裾から自分の肌がちらと見えたのとほぼ同時だった。
未だ試行錯誤を重ねるも、板に付いて来たのではないかと自負している。
今日は佐助と共に総出で客の相手だ。
いつも不機嫌に女郎達を取り締まっている遣り手も番頭も、今日ばかりはこれ以上ない程の上機嫌。
何故なら今宵の佐助の客は、羽振りが良くて有名な、顕如殿であるからだ。
今日もまた、あちらにもこちらにも景気良く銭を振りまいている。
楽しく酒の席も進んでいると思われたその時だった。
「佐助さん、ちょっと…」
佐助が他の客に呼ばれて出て行く。
「帰ってきたら小遣いをやるから、早く戻ってくるんじゃぞ!」
顕如殿が慌てて声を掛けると、佐助は軽く振り返り、目配せだけで返事をした。
禿達も花魁に伴われて出て行く。
苦手な客と二人きりになってしまった、と心内で眉根を寄せた。
まず金に物を言わせて万事を思い通りにさせようとする心根が許せない。
このような色欲に溺れた者が坊主とは、全く世も末だ。
実際坊主が遊里遊びなどしていて良いものか。
せめて他の僧侶の様に、医者を装いでもすれば、少しは謙虚に見えるものを。
「見たかあの寂しそうな顔!」
顕如殿は佐助の素振りをお気に召した様で、上機嫌に酒を傾けながらワハハと膝を叩いた。
だがあれはそういう"振り"だ。それも分からで遊興とは、矜持にも程遠い。
内心を押し隠しながら、酌をしようと銚子を傾ける。
「なんじゃ幸村、もっと愛想良くせんか!」
酒の臭いが纏わり付いた息を吐きながら、顕如殿がこちらを向いた。
愛想良く…どころか、ますます眉根が寄る。
と、顕如殿は「ははぁ」としたり顔で顎の下をさすった。
「お主、儂が佐助にばかり気を取られているがゆえに、妬いておるな!?」
「なっ、何を…!」
何を言い出すのかと思えば。呆れて物が言えぬとはこの事で。
だが俺の反応に満足したのか顕如殿は、にやにやと嫌らしげな笑みを浮かべて近付いてきた。
「照れずとも良いぞ!儂もな、お主のような若い娘が好みでのぅ…」
言って俺の手に顕如殿の太くごつごつした手が添えられる。
触れられた途端背筋に悪寒が走った。思わず片手の銚子を落としそうになる。
「特に初物は…それはそれは、美味でのぅ…」
にたり、とその目が一層不気味な光を放った。
首筋がぞわぞわと粟立ち、咄嗟に手を引っ込める。
「お止め下さい」
凛と、言い放ったつもりの声は掠れて震え、それ以上のあしらう言葉が出てこない。
嫌な予感が全身を襲う。まさか、と思ったその時、逃れた手首をがっと掴まれた。
「乳も出てきて…もう立派なオンナじゃのぅ、幸村。水揚げはまだかの?」
嬲るような視線が俺の胸に纏わり付く。
それだけで触れられたかのような不快を覚え、俺は掴まれた手首の逃れられぬまま身を捻った。
と、もう片方の手でそれも許されぬように、肩を掴まれる。
視線を顕如殿の方へ戻せば、そこにはだらしなく鼻の下も伸びた、だがぎらつく雄の顔。
「何も手荒いことをするつもりはない。儂がお主を検分してやろう」
着物の裾に手が伸ばされる。
「………っ!」
恐怖。その黒い感情一色に支配された。
政宗殿に押し倒された時は、あれ程冷静でいられたのに、どうして今はこうも取り乱すのか。
あぁ、政宗殿が本気ではないのを知っていたからだ、と今になって思う。
本当ならばこんな事はしたくない、とあの隻眼が語っていたからだ。
だがこの男は、己の欲望も剥き出しに、息も荒げに俺を蹂躙しようと掛かっている。
駄目だ、駄目だ、駄目だ。
こんな事も上手くあしらえずして、お職になどなれるものか。
そう自分を奮い立たせようとするも、頭の中はますます白くなるばかり。
「やめろ」の一言すら、喉から搾り出す事もできない。
―――嫌だ。
めくられる着物の裾から自分の肌がちらと見えたのとほぼ同時だった。




