「犬千代様……!」
まつを見下ろす巨体の男は、かつてとは違い、感情の読めない目だった。
「……今なら見逃してやろうぞ」
「いいえ、豊臣様」
「いいえ、豊臣様」
薙刀を握り直したまつは、屍の並ぶ地を見渡して、甥の前田慶次の姿を探した。
――明智んとことやりあうんだって? ……俺もついていこうかな。
――どうしたんだ、慶次。珍しいなあ。
――どうっていうわけじゃないんだけどさ……なんか、嫌な感じがするんだよな。
――まあ、慶次もようやく、前田家男子としての心構えができたのですね。まつは嬉しゅうございます。
――そんな大層なもんでもないんだけど……まあいいや、利の影武者務めるぐらいならできそうだし。
――どうしたんだ、慶次。珍しいなあ。
――どうっていうわけじゃないんだけどさ……なんか、嫌な感じがするんだよな。
――まあ、慶次もようやく、前田家男子としての心構えができたのですね。まつは嬉しゅうございます。
――そんな大層なもんでもないんだけど……まあいいや、利の影武者務めるぐらいならできそうだし。
……あのとき、あなたは自由に生きなさいと、そう言ってあげればよかったのか。
慶次にただ済まない。
どこかに落ち延びていてくれさえすればそれでいい。
かつての友の軍に手をかけられてさえいなければ、それだけで。
慶次にただ済まない。
どこかに落ち延びていてくれさえすればそれでいい。
かつての友の軍に手をかけられてさえいなければ、それだけで。
「豊臣様、ひとつだけ。まつめに詳しい事情はわかりませぬ。ですが今一度、慶次と話を……」
息も絶え絶えに訴える女を、男はただ見下ろしている。
かつて飯をふるまったことがあった。
あのときは、強面が柔らかい表情を浮かべていたのに。
かつて飯をふるまったことがあった。
あのときは、強面が柔らかい表情を浮かべていたのに。
「その心遣い痛み入るが……許せ、我にそのつもりはない」
慶次、慶次、ごめんなさい。どうか無事で――
「……心は、決まりましてござりまする。さあ、どうぞ、遠慮なくおいでませ」




