「幸村の婿についていろいろ模索したが、どうもこれといった相手が見つからん。
あまり身分が低くてもいかんし、幸村が戦に出るのを厭うようでも困る。わしの息子とも
考えたが、あいにく手ごろなのは全員妻帯済みじゃ」
あまり身分が低くてもいかんし、幸村が戦に出るのを厭うようでも困る。わしの息子とも
考えたが、あいにく手ごろなのは全員妻帯済みじゃ」
そこそこ身分があり、婿入りできる身の上で、今後のことを考えれば武田家中の人脈とも
つながれて、なおかつ実家をかさにきて真田家を振り回すようなこともない人物。
「そこで考えた。いないなら作ってしまえばよいのだ!」
「ご慧眼にござりまする!」
もう一回、さっきより強く背中をつねって旦那を悶絶させてから、俺は、それでなんで
俺なんですか、と問いかけた。
俺様忍者ですよ?立派な血筋も身分もありませんよ?下郎中の下郎ですよ?
身分どころか、姿も名も意思すらなく、必要とされない。
陰に潜んで影に生きる。俺はそういうものだ。
探る視線に、笑う目が真っ向から飛び込んできた。
つながれて、なおかつ実家をかさにきて真田家を振り回すようなこともない人物。
「そこで考えた。いないなら作ってしまえばよいのだ!」
「ご慧眼にござりまする!」
もう一回、さっきより強く背中をつねって旦那を悶絶させてから、俺は、それでなんで
俺なんですか、と問いかけた。
俺様忍者ですよ?立派な血筋も身分もありませんよ?下郎中の下郎ですよ?
身分どころか、姿も名も意思すらなく、必要とされない。
陰に潜んで影に生きる。俺はそういうものだ。
探る視線に、笑う目が真っ向から飛び込んできた。
「なんの、家中に詳しく武田にも真田にも忠心厚く、なにより幸村がこと、誰よりよく
知っておる。血筋や身分などよりも、大事なのはそのことよ。
走る勢いは猪ばりの虎の若子の、その勢いを殺さず御せる者など、この信玄、お前の他には
一人も知らぬわ!」
知っておる。血筋や身分などよりも、大事なのはそのことよ。
走る勢いは猪ばりの虎の若子の、その勢いを殺さず御せる者など、この信玄、お前の他には
一人も知らぬわ!」
「まさにご慧眼にござりまするお館様ァ!」
あんたまた人の話、聞いてないでしょ。
叱る気力もなくなって、がっくり片手を付く。俺の頭上で、背中をさすりながらはしゃぐ旦那に
一撃を落としたお館様が、それでは佐助、命を下す!と重々しく叫んだ。
「そのほう、これより山県家が養子山県某になりすまし、真田家の婿となれい!これは山県も
承知のことじゃ!以後は陰日向に幸村を支え、真田家、ひいては武田家の発展に尽力せい!」
「お館様!この幸村も家督を継げば、武田家がためなおいっそう働けましょうぞ!」
「よくぞ申した幸村!それでこそ真田の総領よ!」
「もったいのうございますお館様ァ!」
「幸村ぁ!」
「お館様ァ!」
「ちょっと、ちょっと待ってください!待ってって!」
拳を振り上げぎらぎらと瞳を輝かせ、夜中だろうとかまわず叫びあう師弟の間に思わず割り込む。
いや、邪魔しちゃいけないのはわかってるけど仕方ない。
だって変でしょ。いくらなんでも変だって。お館様も変だけど、特に旦那が変だ。あんた自分の
一生のことだってのに、そんな楽しそうに叫んでる場合じゃないでしょう。
今、俺とあんたがなにをしろって言われたのか、この人ちゃんと聞いてたんだろうか。
まさか本当は、全然判ってないとか言わないだろうな。
俺が割り込もうとお構いなしに、暑苦しい応酬を繰り返す二人から半歩下がり、だから俺の話も
聞いてくださいよ!と叫ぶ。
「だからねえ!ちょっと!これマジなんですか?ドッキリじゃないの!?」
ほとんど悲鳴の俺の声に、正面で叫びあっていた二人が同時に振り返った。
旦那の眉間に皺が寄る。お館様の眉がくわっと釣りあがった。
あんたまた人の話、聞いてないでしょ。
叱る気力もなくなって、がっくり片手を付く。俺の頭上で、背中をさすりながらはしゃぐ旦那に
一撃を落としたお館様が、それでは佐助、命を下す!と重々しく叫んだ。
「そのほう、これより山県家が養子山県某になりすまし、真田家の婿となれい!これは山県も
承知のことじゃ!以後は陰日向に幸村を支え、真田家、ひいては武田家の発展に尽力せい!」
「お館様!この幸村も家督を継げば、武田家がためなおいっそう働けましょうぞ!」
「よくぞ申した幸村!それでこそ真田の総領よ!」
「もったいのうございますお館様ァ!」
「幸村ぁ!」
「お館様ァ!」
「ちょっと、ちょっと待ってください!待ってって!」
拳を振り上げぎらぎらと瞳を輝かせ、夜中だろうとかまわず叫びあう師弟の間に思わず割り込む。
いや、邪魔しちゃいけないのはわかってるけど仕方ない。
だって変でしょ。いくらなんでも変だって。お館様も変だけど、特に旦那が変だ。あんた自分の
一生のことだってのに、そんな楽しそうに叫んでる場合じゃないでしょう。
今、俺とあんたがなにをしろって言われたのか、この人ちゃんと聞いてたんだろうか。
まさか本当は、全然判ってないとか言わないだろうな。
俺が割り込もうとお構いなしに、暑苦しい応酬を繰り返す二人から半歩下がり、だから俺の話も
聞いてくださいよ!と叫ぶ。
「だからねえ!ちょっと!これマジなんですか?ドッキリじゃないの!?」
ほとんど悲鳴の俺の声に、正面で叫びあっていた二人が同時に振り返った。
旦那の眉間に皺が寄る。お館様の眉がくわっと釣りあがった。
「佐助!独霧とはいかなる技だ!?」
「みくびるな!わしはいつでも本気じゃあ!」
「みくびるな!わしはいつでも本気じゃあ!」
だめだこの人たち。
力尽きて数歩下がると、壁板に背が付いた。寄りかかったまま顔を上げれば、薄明かりの中
飽きもせず、叫びあう師弟の姿が見えた。
天井や壁にゆらゆらと、蠢く二人の影を見るともなしに追う。
吹き込んだ風に、灯りの火が膨れ上がって揺れた。
力尽きて数歩下がると、壁板に背が付いた。寄りかかったまま顔を上げれば、薄明かりの中
飽きもせず、叫びあう師弟の姿が見えた。
天井や壁にゆらゆらと、蠢く二人の影を見るともなしに追う。
吹き込んだ風に、灯りの火が膨れ上がって揺れた。
じりじりと影が蠢く。壁に、天井に、床に、胸の奥に。
あのどうしようもない居たたまれなさがまた、這い上がってくる。苦しいような、痛いような。
怖いような。
訓練で得たはずの技も役に立たない。押しつぶすこともできず、それは胸に広がっていく。
この場から逃げ出したい思いだけは何とか押し殺し、俺はただそれをぼんやりと見つめ続けた。
あのどうしようもない居たたまれなさがまた、這い上がってくる。苦しいような、痛いような。
怖いような。
訓練で得たはずの技も役に立たない。押しつぶすこともできず、それは胸に広がっていく。
この場から逃げ出したい思いだけは何とか押し殺し、俺はただそれをぼんやりと見つめ続けた。




