目が覚めると、辺りはすっかり月明かりに蒼く染め抜かれていた。
「小十郎」
いつものクセで、声をかける。
暫く考えてからああそうだここにあいついねぇんだ、と思い出し、がばりと跳ね起きた。
「やっべ、寝ちまった!」
叫んでから、くしゃみを一つ。
がたがたと震えながら体をさする。
震えが収まるのを待ってから、床に落ちたものを拾った。
(来たのか)
幸村の上着を抱きしめる。
残っているのは自分の温もりなのに、それが幸村のもののような気がした。
見事な行き違いをしたらしい。
月に一度、それもほんの僅かの時間しか会えない。
それを自分はふいにしたのだ。
「I'm stupid(俺は馬鹿だ)……」
大きなため息を一つ。
そしてごろんと転がって幸村の上着に顔を埋めた。
このままふて寝をしてやろうか。
どうせ、今日はもう戻れない。しかしぐっすり眠ったあとなので眠れるはずがない。
「水……」
独り言をつぶやき、体を起こして頭をかいた。幸村の上着を肩から羽織り、立ち上がって家を出る。
この村の井戸はまだ枯れていない。
「っ――!!」
いるとは思わなかった。向こうにも、立場も身分もある。
だから鬼でも現れたのかと思わず身を竦めてしまった。
幸村は井戸に腰を下ろしていた。
政宗に背を向け、体を手で擦りながら震えている。
満ちた月の光を一身に受けた姿は、よくできた像のようだ。
けれど像と違い、彼は温もりを持っている。
足音を立てぬようそっと近づくと、幸村はタイミングよくくしゃみを一つする。
一体どんな顔をしているのだろう。何を考えているのだろう。
こんなに近いのに。
何も、分からない。
「お前が風邪を引いたら、意味ねぇだろうが」
甘い言葉などかけられない。
照れ隠しに政宗はばさっと乱暴に上着を幸村の頭から落とした。
上着を手で抑えながら、幸村が決まりの悪そうな顔を向けてきた。
政宗はべえっと舌を出して井戸に縄のついた桶を落とし、水を汲み上げて喉を潤す。
隣に腰を落とした。幸村の体が心なしか強張った。
「なんで起こしてくれなかったんだよ」
「政宗殿が、あまりにもよくお眠りであったので、起こすのが忍びなく。その……お気を悪くされたか?」
「当たり前だ。ったく、今晩はこんなとこで夜を明かすのかよ」
揶揄しながら、腕を幸村の腕を取った。氷を抱いているような気分だ。
「冷てぇ。なんで火を焚いてねぇんだよ。――ったく、気が利かねぇ男だ」
違う。
こんな言葉をかけたいのじゃなくて。
「……あの、その、政宗殿、胸が」
「……なんで、いるんだよ」
「政宗殿がおられるから。熊に襲われてはいけませぬゆえ」
「本当に、それだけか?」
腕を背に回す。びくっと幸村の体が跳ねた。
「それだけで、体を冷やして、待っててくれたっていうのか?」
「はい」
胸に顔を寄せた。心の臓が鳴っている。汗と埃と太陽の混じった匂い。
「ぶわっくしょい!」
しわぶきが飛ぶ。政宗は目を閉じた。
「しょうがねぇなあ。温めてやるよ」
にやにやと笑いながら幸村を見上げた。
月の光を背中から受けているため、表情は伺えない。
それでも赤くなっていることが分かるのは、きっと、心の臓が早く鐘を打っているからだ。
「小十郎」
いつものクセで、声をかける。
暫く考えてからああそうだここにあいついねぇんだ、と思い出し、がばりと跳ね起きた。
「やっべ、寝ちまった!」
叫んでから、くしゃみを一つ。
がたがたと震えながら体をさする。
震えが収まるのを待ってから、床に落ちたものを拾った。
(来たのか)
幸村の上着を抱きしめる。
残っているのは自分の温もりなのに、それが幸村のもののような気がした。
見事な行き違いをしたらしい。
月に一度、それもほんの僅かの時間しか会えない。
それを自分はふいにしたのだ。
「I'm stupid(俺は馬鹿だ)……」
大きなため息を一つ。
そしてごろんと転がって幸村の上着に顔を埋めた。
このままふて寝をしてやろうか。
どうせ、今日はもう戻れない。しかしぐっすり眠ったあとなので眠れるはずがない。
「水……」
独り言をつぶやき、体を起こして頭をかいた。幸村の上着を肩から羽織り、立ち上がって家を出る。
この村の井戸はまだ枯れていない。
「っ――!!」
いるとは思わなかった。向こうにも、立場も身分もある。
だから鬼でも現れたのかと思わず身を竦めてしまった。
幸村は井戸に腰を下ろしていた。
政宗に背を向け、体を手で擦りながら震えている。
満ちた月の光を一身に受けた姿は、よくできた像のようだ。
けれど像と違い、彼は温もりを持っている。
足音を立てぬようそっと近づくと、幸村はタイミングよくくしゃみを一つする。
一体どんな顔をしているのだろう。何を考えているのだろう。
こんなに近いのに。
何も、分からない。
「お前が風邪を引いたら、意味ねぇだろうが」
甘い言葉などかけられない。
照れ隠しに政宗はばさっと乱暴に上着を幸村の頭から落とした。
上着を手で抑えながら、幸村が決まりの悪そうな顔を向けてきた。
政宗はべえっと舌を出して井戸に縄のついた桶を落とし、水を汲み上げて喉を潤す。
隣に腰を落とした。幸村の体が心なしか強張った。
「なんで起こしてくれなかったんだよ」
「政宗殿が、あまりにもよくお眠りであったので、起こすのが忍びなく。その……お気を悪くされたか?」
「当たり前だ。ったく、今晩はこんなとこで夜を明かすのかよ」
揶揄しながら、腕を幸村の腕を取った。氷を抱いているような気分だ。
「冷てぇ。なんで火を焚いてねぇんだよ。――ったく、気が利かねぇ男だ」
違う。
こんな言葉をかけたいのじゃなくて。
「……あの、その、政宗殿、胸が」
「……なんで、いるんだよ」
「政宗殿がおられるから。熊に襲われてはいけませぬゆえ」
「本当に、それだけか?」
腕を背に回す。びくっと幸村の体が跳ねた。
「それだけで、体を冷やして、待っててくれたっていうのか?」
「はい」
胸に顔を寄せた。心の臓が鳴っている。汗と埃と太陽の混じった匂い。
「ぶわっくしょい!」
しわぶきが飛ぶ。政宗は目を閉じた。
「しょうがねぇなあ。温めてやるよ」
にやにやと笑いながら幸村を見上げた。
月の光を背中から受けているため、表情は伺えない。
それでも赤くなっていることが分かるのは、きっと、心の臓が早く鐘を打っているからだ。




