「どうした?」
幸村は用意していた包みを、床を滑らすように押しやった。
「それがし、色々と考えてござってな。包みを開けずに、少し持っていて下され」
政宗は曖昧に頷いて、包みを受け取る。手の中で、軽く重さ堅さを確かめているようだ。
すう、と息を吸い込む。体の奥からこみあげてくる物がある。
「政宗殿!」
視線が幸村に向く。不思議そうに。
「あんた………あんた、ほんまにべっぴんさんでござっ……」
「テメっ、ごますり棒かぁっ!」
包みが幸村の額に当たって跳ね落ちた。
「なんと!一瞬でバレたでござるっ」
「ったりまえだ!~~~っ、Goddam!」
何か言いたいことを腹の内に飲み込んだ風だった。
「怒らせてしまったようにござるな」
すっと頭を下げると、その格好で土下座は止せと止められた。
その格好も何も、ただの……いや、いつもよりも良い仕立ての、寝巻と言うだけだった。
変わることがあったとすれば、医者の言葉により晒しという晒しが取り上げられてしまったくらいだ。
別に晒し布を好んで巻いていたわけではないが、無くなってみれば心許ない。
「……何だってそんなモン持ち込んでるんだ」
燭に照らされた顔は怒りと言うより、呆れに似たものを浮かべていた。
幸村はううん、と眉間にしわを刻んだ。
「大人しくして、良い気分にさせたらいーんじゃない、と言われた事がござってな……」
道具に頼ることへの抵抗はあったが、とにかく何か褒めてみる、
というのはどうにも向いていない。
佐助のような、次々に言葉が出てくる機転などに恵まれてはいない。
「良い気分ってのにだいぶ隔たりがあるんじゃねーのか?オイ」
良い気分にさせる道具のはず、と幸村は転げたごますり棒入りの包みを横目で見た。
つられたように政宗も見る。
「試してみるかァ?……オレをアンタの養子にしてくれよ」
目が獣のように光っている。のばされた手が、幸村の手を捕らえて引き寄せる。
半ば硬直した体が傾いて、政宗の残りの腕も伸ばされて、幸村は政宗に抱きしめられた。
小さいころ甘えん坊だね、と言われ続けた幸村は、今でも抱きしめられるのは嫌いではない。
政宗は布団が狭いとぼやくが、狭苦しくも暖かな場所で身を寄せ合う方が、誰もいない、寂しい場所よりずっと安心出来る。
しかし、怒っている相手に抱きすくめられるのは居心地が悪かった。
どう出るべきか弱り果てる幸村の手を、政宗は自分の口元に引き寄せる。
「アンタの爪のあか、オレにくれよ」
低い声で言い、政宗は幸村の指を口に含み、爪との境目を舐りあげた。
指を含む政宗の顔が笑っている。首の後ろの辺りの毛がそそけだった。
「い゛っ……ままままさむ、まさむねどのっ!」
「呂律が回ってないぜ?まあこれでevenだろ。許してやるから、そんなもん棄てろよ」
がくがくと頷くと、手のひらに一度唇を寄せてから腕が解放された。
思いっきり引っ込めてもう一度頷く。
「おいおい、もう降参かぁ?ちぃっと早かねえか」
「こここ、降参とはっ」
笑う左目に映る自分の顔が、情けないほど引きつっている。
「本当に何にもしらねえんだな。アンタの教育はどうなってたんだ」
「佐助は最強の忍びでござる!悪く言うならば政宗殿であろうとも許さぬ!」
腕を隠し抗議すると、政宗はきょとんと目を見開いた。
「……佐助?忍びに……ねえ……まあいい、悪かったな。
ここに来てもうすぐひと月になろうってのに、幸村、アンタちっとも変わらないな」
なら誰が教育したって同じなんだろ、と呟いた。
「何のことでござろう?」
「聞いてるぜ。ここの女中にもててんだろ?」
おもしろがっている顔だった。
「うちの家臣は女中に至るまで気合いはいっててね。負けるなよ?」
「気合いの勝負であれば、この幸村後れを取ることなど無し!」
「Ok、ならオレにも勝ってみせろよ?」
幸村は用意していた包みを、床を滑らすように押しやった。
「それがし、色々と考えてござってな。包みを開けずに、少し持っていて下され」
政宗は曖昧に頷いて、包みを受け取る。手の中で、軽く重さ堅さを確かめているようだ。
すう、と息を吸い込む。体の奥からこみあげてくる物がある。
「政宗殿!」
視線が幸村に向く。不思議そうに。
「あんた………あんた、ほんまにべっぴんさんでござっ……」
「テメっ、ごますり棒かぁっ!」
包みが幸村の額に当たって跳ね落ちた。
「なんと!一瞬でバレたでござるっ」
「ったりまえだ!~~~っ、Goddam!」
何か言いたいことを腹の内に飲み込んだ風だった。
「怒らせてしまったようにござるな」
すっと頭を下げると、その格好で土下座は止せと止められた。
その格好も何も、ただの……いや、いつもよりも良い仕立ての、寝巻と言うだけだった。
変わることがあったとすれば、医者の言葉により晒しという晒しが取り上げられてしまったくらいだ。
別に晒し布を好んで巻いていたわけではないが、無くなってみれば心許ない。
「……何だってそんなモン持ち込んでるんだ」
燭に照らされた顔は怒りと言うより、呆れに似たものを浮かべていた。
幸村はううん、と眉間にしわを刻んだ。
「大人しくして、良い気分にさせたらいーんじゃない、と言われた事がござってな……」
道具に頼ることへの抵抗はあったが、とにかく何か褒めてみる、
というのはどうにも向いていない。
佐助のような、次々に言葉が出てくる機転などに恵まれてはいない。
「良い気分ってのにだいぶ隔たりがあるんじゃねーのか?オイ」
良い気分にさせる道具のはず、と幸村は転げたごますり棒入りの包みを横目で見た。
つられたように政宗も見る。
「試してみるかァ?……オレをアンタの養子にしてくれよ」
目が獣のように光っている。のばされた手が、幸村の手を捕らえて引き寄せる。
半ば硬直した体が傾いて、政宗の残りの腕も伸ばされて、幸村は政宗に抱きしめられた。
小さいころ甘えん坊だね、と言われ続けた幸村は、今でも抱きしめられるのは嫌いではない。
政宗は布団が狭いとぼやくが、狭苦しくも暖かな場所で身を寄せ合う方が、誰もいない、寂しい場所よりずっと安心出来る。
しかし、怒っている相手に抱きすくめられるのは居心地が悪かった。
どう出るべきか弱り果てる幸村の手を、政宗は自分の口元に引き寄せる。
「アンタの爪のあか、オレにくれよ」
低い声で言い、政宗は幸村の指を口に含み、爪との境目を舐りあげた。
指を含む政宗の顔が笑っている。首の後ろの辺りの毛がそそけだった。
「い゛っ……ままままさむ、まさむねどのっ!」
「呂律が回ってないぜ?まあこれでevenだろ。許してやるから、そんなもん棄てろよ」
がくがくと頷くと、手のひらに一度唇を寄せてから腕が解放された。
思いっきり引っ込めてもう一度頷く。
「おいおい、もう降参かぁ?ちぃっと早かねえか」
「こここ、降参とはっ」
笑う左目に映る自分の顔が、情けないほど引きつっている。
「本当に何にもしらねえんだな。アンタの教育はどうなってたんだ」
「佐助は最強の忍びでござる!悪く言うならば政宗殿であろうとも許さぬ!」
腕を隠し抗議すると、政宗はきょとんと目を見開いた。
「……佐助?忍びに……ねえ……まあいい、悪かったな。
ここに来てもうすぐひと月になろうってのに、幸村、アンタちっとも変わらないな」
なら誰が教育したって同じなんだろ、と呟いた。
「何のことでござろう?」
「聞いてるぜ。ここの女中にもててんだろ?」
おもしろがっている顔だった。
「うちの家臣は女中に至るまで気合いはいっててね。負けるなよ?」
「気合いの勝負であれば、この幸村後れを取ることなど無し!」
「Ok、ならオレにも勝ってみせろよ?」




