白い手がすりこぎを繰り、べちゃべちゃと湿った音を立てながら薬草が混ぜられる。
政宗の首筋には、小十郎がつけた跡が残っている。昨日の狂気を見せ付けられているようで、小十郎は頭を下げて口付けの跡から目をそらした。
体を動かすのも億劫そうなのに、手は休もうともしない。
憑かれたように目だけが輝いている。
「お前の子は、産みたくない」
疲労の色を隠そうともせず、政宗ははっきりと告げた。
広げられた紙には薬の処方が書かれている。どのような効用がある薬なのか見当はつくが、言葉にはしなかった。
自分のものにならず、また彼女の心を壊した事実をつきつけられている。
そう、自身が望んだというのに、充実感などなかった。
誰もが抜けられない不幸の穴に、己の手で政宗すら巻き込んで飛び込んだ。
政宗の首筋には、小十郎がつけた跡が残っている。昨日の狂気を見せ付けられているようで、小十郎は頭を下げて口付けの跡から目をそらした。
体を動かすのも億劫そうなのに、手は休もうともしない。
憑かれたように目だけが輝いている。
「お前の子は、産みたくない」
疲労の色を隠そうともせず、政宗ははっきりと告げた。
広げられた紙には薬の処方が書かれている。どのような効用がある薬なのか見当はつくが、言葉にはしなかった。
自分のものにならず、また彼女の心を壊した事実をつきつけられている。
そう、自身が望んだというのに、充実感などなかった。
誰もが抜けられない不幸の穴に、己の手で政宗すら巻き込んで飛び込んだ。
政宗はできあがった薬を鉢に移し、湯で煎じた。室内に立ち込めていた臭いがより一層強くなった。
顔をしかめたくなるような臭いだが、目を瞑って一気に飲み干す。
薬の臭いがする息を吐き出し、手の甲で唇を拭う。
視線を感じ、小十郎はより深く頭を下げた。
衣擦れの音を立てながら政宗は膝で小十郎の傍に寄った。冷えた手が小十郎の頭を捕らえ、上を向かせた。
暗い炎に支配された瞳に、背筋が慄く。
食われる、と思った。
強い目の光は、小十郎のすべてを捕らえる。
ぱん、と目の前で火花が散った。平手を打たれたのだと頬がじんじんと痛んでから気がついた。
口の中に血の味が広がる。痛む首筋を抑え、再び見上げる。
「一度で、満足しただろ? もうあんなchanceはねぇ」
「逃げると、仰るのですか? それとも俺を手打ちにすると」
「まさか」
政宗は笑う。そして顔を近づけ、粘ついた音を立てて唇を重ねてきた。
男女のそれというより、血判に似ていた。
唇が離れ、歪んだ笑みを浮かべた。目が輝いているが、それはまっすぐな輝きではない。人を惑わし貶める、毒のような輝きだった。
「お前の目の前で死んでやるよ」
目の前で、「政宗」が亡くなった光景を思い出した。自身の身を切られるより辛く、絶望に打ちのめされた。
もう二度とあんな思いはしたくない。
「それは……手打ちにされるより、辛うございますな」
「yes。誰よりも俺の傍にいて、誰よりも俺を守れ。俺はお前に見せつけてやるよ。お前のものにはならないってことをな」
ならば、誰のものになるというのだろう。
「俺は、誰のものにもならない。子も産まない。誰にも抱かれない」
「伊達の血を、絶やすと仰るのですか」
「それも乱世の定め、だろ」
「真田の……あの、甲斐の若虎の子を産もうとは思われないのですか」
政宗の目が揺らいだ。
迷っている。
彼女は、子を、それも男児を産まねばならない。
伊達家の直系は、もう「政宗」しか遺されていない。
「あいつは、ちゃんとした正室を娶るべきだ。伊達と武田。選ぶべきものは決まっているだろ?」
終わらせると、言うのか。
そこまで、彼女を追い詰めたのは自分だ。
男に組み敷かれるたび、彼女は小十郎が与えた恐怖と行為を思い出すだろう。
昨夜のことを思い出さないための自衛策だとでも言うのだろうか。
「もう二度と、あいつの前で女の顔はしない。今度会ったら、竜の爪で屠ってやるよ」
政宗は小十郎に背を向けた。
細く、肉の薄い背だ。だがこの背と肩には振り払うことのできない責任と重圧が圧し掛かっている。
それを押し付けたのは、小十郎を含んだ伊達にまつわるすべての人々。
顔は見えない。けれど、悲愴な顔をしているだろう。
顔をしかめたくなるような臭いだが、目を瞑って一気に飲み干す。
薬の臭いがする息を吐き出し、手の甲で唇を拭う。
視線を感じ、小十郎はより深く頭を下げた。
衣擦れの音を立てながら政宗は膝で小十郎の傍に寄った。冷えた手が小十郎の頭を捕らえ、上を向かせた。
暗い炎に支配された瞳に、背筋が慄く。
食われる、と思った。
強い目の光は、小十郎のすべてを捕らえる。
ぱん、と目の前で火花が散った。平手を打たれたのだと頬がじんじんと痛んでから気がついた。
口の中に血の味が広がる。痛む首筋を抑え、再び見上げる。
「一度で、満足しただろ? もうあんなchanceはねぇ」
「逃げると、仰るのですか? それとも俺を手打ちにすると」
「まさか」
政宗は笑う。そして顔を近づけ、粘ついた音を立てて唇を重ねてきた。
男女のそれというより、血判に似ていた。
唇が離れ、歪んだ笑みを浮かべた。目が輝いているが、それはまっすぐな輝きではない。人を惑わし貶める、毒のような輝きだった。
「お前の目の前で死んでやるよ」
目の前で、「政宗」が亡くなった光景を思い出した。自身の身を切られるより辛く、絶望に打ちのめされた。
もう二度とあんな思いはしたくない。
「それは……手打ちにされるより、辛うございますな」
「yes。誰よりも俺の傍にいて、誰よりも俺を守れ。俺はお前に見せつけてやるよ。お前のものにはならないってことをな」
ならば、誰のものになるというのだろう。
「俺は、誰のものにもならない。子も産まない。誰にも抱かれない」
「伊達の血を、絶やすと仰るのですか」
「それも乱世の定め、だろ」
「真田の……あの、甲斐の若虎の子を産もうとは思われないのですか」
政宗の目が揺らいだ。
迷っている。
彼女は、子を、それも男児を産まねばならない。
伊達家の直系は、もう「政宗」しか遺されていない。
「あいつは、ちゃんとした正室を娶るべきだ。伊達と武田。選ぶべきものは決まっているだろ?」
終わらせると、言うのか。
そこまで、彼女を追い詰めたのは自分だ。
男に組み敷かれるたび、彼女は小十郎が与えた恐怖と行為を思い出すだろう。
昨夜のことを思い出さないための自衛策だとでも言うのだろうか。
「もう二度と、あいつの前で女の顔はしない。今度会ったら、竜の爪で屠ってやるよ」
政宗は小十郎に背を向けた。
細く、肉の薄い背だ。だがこの背と肩には振り払うことのできない責任と重圧が圧し掛かっている。
それを押し付けたのは、小十郎を含んだ伊達にまつわるすべての人々。
顔は見えない。けれど、悲愴な顔をしているだろう。




