『なにをなすべきか』(なにをなすべきか、原題:Что делать? / Chto delat'?、英:What Is to Be Done?)は、ロシアの革命的民主主義者・批評家ニコライ・ガヴリーロヴィチ・チェルヌイシェフスキー(Николай Гаврилович Чернышевский、1828–1889)が1862–1863年にペトロパヴロフスク要塞の独房で執筆し、1863年に雑誌『現代人』(Современник)で発表された長編小説である。ロシア文学史上最も影響力のある政治小説の一つで、芸術的完成度を度外視した「啓蒙小説」として位置づけられ、19世紀後半のロシア急進派青年たちに絶大な影響を与えた。
レーニンはこの作品を五回読み、生涯のバイブルとし、自身の同名パンフレット(1902年)のタイトルもここから借用した。ドストエフスキーの『地下室の手記』は、この小説への直接的反論として書かれた。
物語は1860年代のペテルブルクを舞台に、女性解放・合理主義・ユートピア的社会主義を体現する「新しい人々」の理想像を描く。副題は「新しい人々についての物語」。
主人公ヴェーラ・パーヴロヴナ(Vera Pavlovna)は、貪欲で俗物的な母親マリア・アレクセーヴナと、借金まみれの家庭に縛られた娘。母親は娘を金持ちの息子と政略結婚させようとするが、ヴェーラはそれを拒否。弟の家庭教師である医学生ドミトリー・ロプホーフ(Dmitry Lopukhov)と出会い、互いに敬愛と信頼を育む。ロプホーフはヴェーラを救うため、偽装結婚(形式だけの夫婦)を提案し、実行。ヴェーラは「地下室」(抑圧された家庭)から解放され、独立した生活を始める。二人は平等な関係を築き、別々の寝室を持ち、共有スペースで互いのプライバシーを尊重。ヴェーラは裁縫工房を立ち上げ、貧しい女性たちを雇用・教育し、協同組合形式で利益を平等に分配する事業を成功させる。これはチェルヌイシェフスキーの理想とする「生産協同組合」のモデルだ。やがてヴェーラはロプホーフの親友で医者のアレクサンドル・キルサノフ(Alexander Kirsanov)に恋をし、愛情が移る。ロプホーフは妻の幸福を優先し、偽装自殺(実際はアメリカへ渡航)を演じて身を引く。ヴェーラとキルサノフは結婚し、三角関係はハッピーエンドで解決。物語のもう一人の重要人物がラフメートフ(Rakhmetov)。「厳格主義者」「革命の僧侶」と呼ばれる超人的な革命家で、肉体的・精神的に自分を鍛え、ステーキを生で食べ、睡眠を削り、快楽を排し、知識と革命準備にすべてを捧げる。彼は「特別な人」として描かれ、後の革命家たちのモデルとなった(レーニンが肖像を財布に忍ばせた逸話がある)。小説の構造は奇抜で、冒頭に「愚者」(自殺したふりをする男)の謎のエピソードから始まり、作者が頻繁に読者に語りかけ、「慧眼な読者」への挑発や夢の章(ヴェーラの四つの夢:女性解放の歴史、未来のユートピア社会など)を挿入。文体は平明で説教的、芸術性を自ら否定し、「これは芸術ではなく真実だ」と宣言する。