南京虫(原題:Клоп)は、ウラジーミル・マヤコフスキーが1928年秋に執筆した風刺劇で、作者自身により「幻想的コメディ(フェエリーチェスカヤ・コメディヤ)」とジャンル付けされる。作品は公開朗読や討議を経て、何度も加筆・修正が行われた。
マヤコフスキーによれば、戯曲の元となった素材は彼がさまざまな新聞・雑誌(とくに『コムソモーリスカヤ・プラウダ』)で働いていた際に集積した「膨大な小市民的事実」であり、これが主人公イワン・プリシプキンとオレグ・バヤンという二つのキャラクターの創造につながった。
戯曲は1929年、『モロダヤ・グヴァルディヤ』誌(第3号・第4号)で初出版された。
初演は1929年2月13日、メイエルホリド州立劇場にて行われ、同年11月にはレニングラードのボリショイ・ドラマ劇場支部でも上演された。
初演は1929年2月13日、メイエルホリド州立劇場にて行われ、同年11月にはレニングラードのボリショイ・ドラマ劇場支部でも上演された。
登場人物
イワン・プリシプキン(ピエール・スクリプキン) — 元労働者・元党員、現在は花婿
ゾーヤ・イワーノヴナ・ベリョースキナ — 労働者
オレグ・バヤン(ボチキン) — 成り上がりの元家主
エルゼヴィーラ・ダヴィドヴナ・ルネサンス — プリシプキンの婚約者、マニキュア師・理髪店のレジ係
ロザリヤ・パーヴロヴナ・ルネサンス — その母、理髪師
ダヴィド・オシポヴィチ・ルネサンス — その父、理髪師
そのほか、共同宿舎の労働者、シャフェル、消防士、教授、動物園長官、記者、市会議長、学生ら
ゾーヤ・イワーノヴナ・ベリョースキナ — 労働者
オレグ・バヤン(ボチキン) — 成り上がりの元家主
エルゼヴィーラ・ダヴィドヴナ・ルネサンス — プリシプキンの婚約者、マニキュア師・理髪店のレジ係
ロザリヤ・パーヴロヴナ・ルネサンス — その母、理髪師
ダヴィド・オシポヴィチ・ルネサンス — その父、理髪師
そのほか、共同宿舎の労働者、シャフェル、消防士、教授、動物園長官、記者、市会議長、学生ら
あらすじ
第一部:ネップ期
第一部:ネップ期
物語はネップ(新経済政策)期のソビエト社会から始まる。
イワン・プリシプキンは「階級からの華々しい離脱」を果たし、「上品な生活」に憧れて労働者階級を見下し始める。彼は流行のダンス(フォックストロットなど)を習い、長いもみあげを生やし、元恋人の労働者ゾーヤを捨てて、理髪店の娘エルゼヴィーラを選び、自らの名も「ピエール・スクリプキン」と改める。
イワン・プリシプキンは「階級からの華々しい離脱」を果たし、「上品な生活」に憧れて労働者階級を見下し始める。彼は流行のダンス(フォックストロットなど)を習い、長いもみあげを生やし、元恋人の労働者ゾーヤを捨てて、理髪店の娘エルゼヴィーラを選び、自らの名も「ピエール・スクリプキン」と改める。
結婚式の日、披露宴で乱闘が起き、その直後火災が発生。消火活動後、遺体が1つ足りない。行方不明となったのはプリシプキンだった。
第二部:1979年の未来社会
50年後の1979年、科学者たちが凍結状態のプリシプキンを発見し復活させる。そこは労苦も病もなく、飲酒・喫煙・罵り言葉さえ忘れ去られた「まばゆい共産主義の未来」である。
しかし彼の居場所は、この未来社会にはない。プリシプキンは「過去の悪徳の標本」として動物園の展示物とされ、復活した際に一緒に蘇った“コロプ(南京虫)”だけが唯一の同伴者となる。
分析
主題
『コロプ』は反小市民主義(反メシャンストヴォ)を主題とする作品で、現実的描写と幻想的未来像の対比により、プリシプキンの行動と未来社会の価値観の落差を強調している。
マヤコフスキーは他作品でも「人間の復活」への夢想を用いていたが、本作ではその夢を皮肉化し、過去人プリシプキンを未来へ持ち込むことで自らのロマン主義を反省的に転倒させていると指摘される。
クライマックスの、展示物として扱われるプリシプキンが絶叫するシーンは、小市民性への痛烈な批判として評価されている。
批判と評価
初演当時、作品は大きな論争を呼んだ。
一部の批評家は「労働者階級の生活描写が不十分」と非難。
未来像が皮肉を含むため「反ソ的」と指摘する者もいた。
文芸誌『モロダヤ・グヴァルディヤ』は逆に「小市民性を暴く強烈な風刺」として高く評価した。
文学的関連性
評論家たちは、作品内の多くの要素を当時の文学と比較している。
ブルガーコフ『犬の心臓』との共通性(科学実験の犠牲者という設定)。
ブルガーコフ『ロクシェエヴォ・ヤイツァ(赤い卵)』とのモチーフの響き合い。
マヤコフスキーと同時代の詩人たち(モルチャーノフ等)へのパロディ。
プリシプキンとブルガーコフのシャリコフの違いなども論じられた。
上演史
メイエルホリド劇場での初演に先立ち、マヤコフスキーは俳優たちに向けて朗読を行い、その表現力の強さが話題となった。
演出家ヴセヴォロド・メイエルホリドは、作品をプロパガンダ的ポスターの美学で舞台化し、キャラクターの特性を誇張したスタイルを採用した。
主演イーゴリ・イリインスキーの演技は高く評価され、作品は3年間のロングランとなった。第二部の未来描写については賛否があったものの、動物園の「展示シーン」は名場面として称賛された。
書籍化
1974年、レニングラードの画家 ゲオルギー・コヴェンチュク による豪華挿絵版『コロプ』が出版された。
ロシア・アヴァンギャルドを思わせるコラージュ的・ポスター的スタイルで大きな反響を呼び、「年間最優秀書籍賞」を受賞。
ロシア・アヴァンギャルドを思わせるコラージュ的・ポスター的スタイルで大きな反響を呼び、「年間最優秀書籍賞」を受賞。
2013年には手刷りシルクスクリーンによる「アーティストブック(限定70部)」版も制作された。
映画化
1975年、モスフィルムにより『マヤコフスキーは笑う』(監督:セルゲイ・ユトケヴィチ、アナトリー・カラノヴィチ)が制作された。
本作は『コロプ』およびマヤコフスキーの脚本『暖炉を忘れよ』を基にし、コラージュやアニメーション、記録映像を組み合わせた実験的作品となっている。
本作は『コロプ』およびマヤコフスキーの脚本『暖炉を忘れよ』を基にし、コラージュやアニメーション、記録映像を組み合わせた実験的作品となっている。