◆
――君が一番ほしかったもの すべてがそこにありますように
◆
まるであの時の再現のようだと、仲間の亡骸を胸に抱いた悲鳴嶼は思う。
半身を断たれ息絶えた二人の少年。
赤い妖樹を生やし、紅蓮の刃を突き刺して、凶月を地に引き摺り落とした仲間達。
文字通り命を燃やし尽くした後に訪れるのは、死という逃れらない絶対の末路。
宙を見上げたまま二度と瞬きしない双眸を閉じてやった。
生き残った兄への一途な想いをしかと聞いた。
死にゆく者へ生者がしてやれる事は少ない。
死を覆せるような奇跡を起こせるなら、自分達は鬼殺隊になってはいない。
半身を断たれ息絶えた二人の少年。
赤い妖樹を生やし、紅蓮の刃を突き刺して、凶月を地に引き摺り落とした仲間達。
文字通り命を燃やし尽くした後に訪れるのは、死という逃れらない絶対の末路。
宙を見上げたまま二度と瞬きしない双眸を閉じてやった。
生き残った兄への一途な想いをしかと聞いた。
死にゆく者へ生者がしてやれる事は少ない。
死を覆せるような奇跡を起こせるなら、自分達は鬼殺隊になってはいない。
泣き叫び、項垂れ、根を張る大樹と化したように身動ぎしないのは楽だ。
何もしない方へ逃げたい気持ちを、どうして否定できようか。
しかしそれが許されない事もまた心底理解していた。
戦いは終わっていない。
全ての元凶である悪鬼は未だ生きている、死を逃れている。
であるなら立たねばならない、鬼を打ち滅ぼす為に自らの心もまた鬼にして進まねばならない。
弟を失った男へ「立て」と言ったあの時の自分を、後悔してはいない。
何もしない方へ逃げたい気持ちを、どうして否定できようか。
しかしそれが許されない事もまた心底理解していた。
戦いは終わっていない。
全ての元凶である悪鬼は未だ生きている、死を逃れている。
であるなら立たねばならない、鬼を打ち滅ぼす為に自らの心もまた鬼にして進まねばならない。
弟を失った男へ「立て」と言ったあの時の自分を、後悔してはいない。
そして現在、不死川に言い放った言葉を己自身に言い聞かせる。
そうだ、まだ何も終わっていない。
戦いは続いているのだ。
胡蝶しのぶの死とは戦いの終わりを意味しない、ならば生きている悲鳴嶼が歩みを止めるなど言語道断。
他者の肉体とはいえ再び現世に舞い戻る奇跡を我が身で味わった。
それなら三度目も有り得るのではと死から目を逸らすには、現実の過酷さを知り過ぎている。
だからもう、仲間の死を受け入れ再び戦いに身を投じるしかない。
そうだ、まだ何も終わっていない。
戦いは続いているのだ。
胡蝶しのぶの死とは戦いの終わりを意味しない、ならば生きている悲鳴嶼が歩みを止めるなど言語道断。
他者の肉体とはいえ再び現世に舞い戻る奇跡を我が身で味わった。
それなら三度目も有り得るのではと死から目を逸らすには、現実の過酷さを知り過ぎている。
だからもう、仲間の死を受け入れ再び戦いに身を投じるしかない。
彼女が家族と会える事を願って。
もう二度と引き離されない事を祈って目を閉じる。
いつかの記憶の中のように小さな娘が悲鳴嶼さん、悲鳴嶼さんと呼ぶ声はもう聞こえて来なかった。
もう二度と引き離されない事を祈って目を閉じる。
いつかの記憶の中のように小さな娘が悲鳴嶼さん、悲鳴嶼さんと呼ぶ声はもう聞こえて来なかった。
「……」
目を開き立ち上がる。
喪失感という名の鎖を振り払い、動き出さなければ。
まず最優先で行うべきは自分達がいる場所から脱出すること。
定時放送からそれなりに時間が経過しており、呑気に留まり続ければあっという間に禁止エリアが機能してしまう。
気を失っている神楽を回収し、早急にここを離れる必要がある。
もう一人、先程から気まずそうにあっちこっちへ視線を泳がせる奇怪な生物も無視できない。
喪失感という名の鎖を振り払い、動き出さなければ。
まず最優先で行うべきは自分達がいる場所から脱出すること。
定時放送からそれなりに時間が経過しており、呑気に留まり続ければあっという間に禁止エリアが機能してしまう。
気を失っている神楽を回収し、早急にここを離れる必要がある。
もう一人、先程から気まずそうにあっちこっちへ視線を泳がせる奇怪な生物も無視できない。
「少し良いだろうか?」
「へっ!?は、はい!何でしょうか…?」
「もうじき我々がいる場所は、放送で指定された危険区域になる。一旦ここを離れて、それから話を聞かせてもらいたいのだが」
「えっと…その…わ、分かりました……」
「へっ!?は、はい!何でしょうか…?」
「もうじき我々がいる場所は、放送で指定された危険区域になる。一旦ここを離れて、それから話を聞かせてもらいたいのだが」
「えっと…その…わ、分かりました……」
敵意は感じずとも、有無を言わせぬ力の籠った眼光に射竦められ承諾した。
本音を言うとこれ以上厄介な事態に関わるのは御免だと彼、姉畑は思っている。
ただそれを口にするには悲鳴嶼からの圧が強過ぎた。
しのぶと直前まで行動を共にしていただろう参加者を、何も聞かず見逃すつもりは無い。
下手に断って余計ないざこざに発展させるよりならと頷き、禁止エリア外へ出ようとする。
その横では悲鳴嶼が気絶した神楽と共にライズホッパーへ跨りエンジンを吹かす。
走行中に彼女が振り落とされないようにと、海楼石の鎖を巻き付けておく。
しのぶのデイパック、それに彼女の遺体も自分のデイパックに仕舞う。
まるで物のように扱うのは気が引けるが、禁止エリアに放置するのも抵抗がある。
本音を言うとこれ以上厄介な事態に関わるのは御免だと彼、姉畑は思っている。
ただそれを口にするには悲鳴嶼からの圧が強過ぎた。
しのぶと直前まで行動を共にしていただろう参加者を、何も聞かず見逃すつもりは無い。
下手に断って余計ないざこざに発展させるよりならと頷き、禁止エリア外へ出ようとする。
その横では悲鳴嶼が気絶した神楽と共にライズホッパーへ跨りエンジンを吹かす。
走行中に彼女が振り落とされないようにと、海楼石の鎖を巻き付けておく。
しのぶのデイパック、それに彼女の遺体も自分のデイパックに仕舞う。
まるで物のように扱うのは気が引けるが、禁止エリアに放置するのも抵抗がある。
走り出した姉畑と並走しライズホッパーのアクセルを踏む。
自分と同じスピードで移動が可能、これは情報交換の約束を無視して逃げるのは難しいか。
無理に逃走へ踏み切り余計な敵を増やすのは得策ではない。
姉畑の自分本位な内心を知らず、悲鳴嶼は前だけを見て運転に集中する。
頬を伝った涙の痕は、切り裂くような強い風で乾いていった。
自分と同じスピードで移動が可能、これは情報交換の約束を無視して逃げるのは難しいか。
無理に逃走へ踏み切り余計な敵を増やすのは得策ではない。
姉畑の自分本位な内心を知らず、悲鳴嶼は前だけを見て運転に集中する。
頬を伝った涙の痕は、切り裂くような強い風で乾いていった。
○
禁止エリアを抜けた位置。
地図で言えばE-2へと移動した悲鳴嶼達は、大木の下で情報交換を行う事にした。
ハワードが放送で伝えたように雨が降っており、ここならある程度は葉が雨粒を防いでくれる。
付近に雨風を凌げる施設が見当たらない為、取り敢えずはとこの場所を選んだ。
仮に手頃な施設を発見できても、SMILEを食べ、百獣海賊団で言う所のギフターズとなった今の姉畑が入れる場所は限られるが。
それはともかく、まどろっこしいのは抜きで話を始める。
鎖を解いた神楽は木の根元に座らせたまま、目を覚ましはしない。
地図で言えばE-2へと移動した悲鳴嶼達は、大木の下で情報交換を行う事にした。
ハワードが放送で伝えたように雨が降っており、ここならある程度は葉が雨粒を防いでくれる。
付近に雨風を凌げる施設が見当たらない為、取り敢えずはとこの場所を選んだ。
仮に手頃な施設を発見できても、SMILEを食べ、百獣海賊団で言う所のギフターズとなった今の姉畑が入れる場所は限られるが。
それはともかく、まどろっこしいのは抜きで話を始める。
鎖を解いた神楽は木の根元に座らせたまま、目を覚ましはしない。
「早速で申し訳ないが、どんな経緯で胡蝶と共にいたのかを聞かせてもらっても良いか?」
「胡蝶……というのはあのお嬢さんの事ですか?」
「ああ、名前も聞いていなかったのか?」
「え、ええ。……そうですね、どこから説明するべきか…」
「胡蝶……というのはあのお嬢さんの事ですか?」
「ああ、名前も聞いていなかったのか?」
「え、ええ。……そうですね、どこから説明するべきか…」
顎を擦り考え込む素振りを見せた後、頭の中で纏まったのか説明し出す。
自分の名前は姉畑支遁と言い、元々は男で動物学者をしている。殺し合いには乗っていない。
街を訪れた際、DIOという殺し合いに乗った男と遭遇、殺されそうになった。
支給品の力で今の象の怪物のような姿となり、どうにか隙を突いて逃げる事に成功。
その途中、DIOの部下らしき少女と戦闘中のしのぶとデビハムを見付け、更にはDIOと彼の仲間である甜花に追いつかれてしまう。
絶体絶命の危機を迎えたがデビハムから半ば脅す形で逃げるよう言われて、気絶したしのぶを運び逃走。
ついさっきの悲鳴嶼が殺され掛かった光景を見たしのぶは自分が止める暇もなく駆け出し、今に至る。
街を訪れた際、DIOという殺し合いに乗った男と遭遇、殺されそうになった。
支給品の力で今の象の怪物のような姿となり、どうにか隙を突いて逃げる事に成功。
その途中、DIOの部下らしき少女と戦闘中のしのぶとデビハムを見付け、更にはDIOと彼の仲間である甜花に追いつかれてしまう。
絶体絶命の危機を迎えたがデビハムから半ば脅す形で逃げるよう言われて、気絶したしのぶを運び逃走。
ついさっきの悲鳴嶼が殺され掛かった光景を見たしのぶは自分が止める暇もなく駆け出し、今に至る。
以上を話し終えたが、当然姉畑にとって都合の悪い情報は全て隠している。
ピカチュウの体となった善逸と交わろうと彼を付け狙い、杉元達とのいざこざに発展したこと。
DIOの部下であった貨物船(の分身)を陵辱し、彼を誘拐したことなど。
あくまでDIOに襲われた被害者として、自分は無害であるとアピールしたのだ。
ピカチュウの体となった善逸と交わろうと彼を付け狙い、杉元達とのいざこざに発展したこと。
DIOの部下であった貨物船(の分身)を陵辱し、彼を誘拐したことなど。
あくまでDIOに襲われた被害者として、自分は無害であるとアピールしたのだ。
「デビハムが…?それは本当なのか?」
「は、はい。ほとんど脅される形でしたが…」
「は、はい。ほとんど脅される形でしたが…」
予想外の情報に悲鳴嶼は困惑を隠せない。
デビハムは殺し合いに乗っており、しかも戦兎達を危険人物だと偽りの情報を流す卑劣な行為に走った少年。
しかし姉畑の言った内容が事実ならば、彼としのぶがDIOの元から逃げれたのはデビハムのお陰ではないか。
てっきりDIOにゴマすりでもしたのではと考えていたが、真実はまるで違う。
デビハムは殺し合いに乗っており、しかも戦兎達を危険人物だと偽りの情報を流す卑劣な行為に走った少年。
しかし姉畑の言った内容が事実ならば、彼としのぶがDIOの元から逃げれたのはデビハムのお陰ではないか。
てっきりDIOにゴマすりでもしたのではと考えていたが、真実はまるで違う。
「そうか……」
デビハムが何を思ってそのような行動に出たのか。
本人がもうこの世にいない以上、知る術は存在しない。
戦兎達を襲い嘘の悪評を自分達に言い触らしたのを許すつもりは無いが、同時にデビハムがいなければしのぶは姉畑共々DIOに殺されていた。
最期を看取る事すら叶わなかったかもしれない。
本人がもうこの世にいない以上、知る術は存在しない。
戦兎達を襲い嘘の悪評を自分達に言い触らしたのを許すつもりは無いが、同時にデビハムがいなければしのぶは姉畑共々DIOに殺されていた。
最期を看取る事すら叶わなかったかもしれない。
複雑な胸中となりながら、姉畑から齎された情報を元に思考を重ねる。
目下最大の脅威であるDIOと部下達は未だ西の街にいる可能性が高い。
しのぶの救出を最優先で病院を出発したが、当のしのぶは悲鳴嶼の目の前で息絶えた。
それを戦兎達は知らず、今も街へ向かっている最中。
もしかすると既に街へ到着し、DIO達との戦闘に発展しているかもしれない。
話を聞いただけだがDIOは相当な強敵らしい。
戦闘が始まっているのなら、自分も戦兎達の元へ加勢に赴きたい気持ちはある。
まだDIOと遭遇していなければその前に合流し、一度ナナ達の所へ戻って戦力を整え、それから改めてDIOとの決戦に臨むべきと伝えるべきかもしれない。
いずれにしろ自分も直ぐに街へ向かい、戦兎達と合流したいのだが気を失った神楽をそのまま連れ歩く訳にもいかない。
どうするべきか悩む悲鳴嶼へ、おずおずといった様子で姉畑が問いかけた。
目下最大の脅威であるDIOと部下達は未だ西の街にいる可能性が高い。
しのぶの救出を最優先で病院を出発したが、当のしのぶは悲鳴嶼の目の前で息絶えた。
それを戦兎達は知らず、今も街へ向かっている最中。
もしかすると既に街へ到着し、DIO達との戦闘に発展しているかもしれない。
話を聞いただけだがDIOは相当な強敵らしい。
戦闘が始まっているのなら、自分も戦兎達の元へ加勢に赴きたい気持ちはある。
まだDIOと遭遇していなければその前に合流し、一度ナナ達の所へ戻って戦力を整え、それから改めてDIOとの決戦に臨むべきと伝えるべきかもしれない。
いずれにしろ自分も直ぐに街へ向かい、戦兎達と合流したいのだが気を失った神楽をそのまま連れ歩く訳にもいかない。
どうするべきか悩む悲鳴嶼へ、おずおずといった様子で姉畑が問いかけた。
「あの~…どうかしたんですか?私の話に何かおかしな点でも…?」
「いや、そういう訳ではない。情報の提供には感謝している」
「そ、そうですか。それは何よりです」
「いや、そういう訳ではない。情報の提供には感謝している」
「そ、そうですか。それは何よりです」
怪しまれたのかと思い冷汗が流れたが、そうではないようで内心安堵する。
「少し待ってくれ。こちらからも伝えておかねばならない事がある」
一方的に情報を提供しておきながら、こちらは何も言わないのは誠実では無い。
そう思ってか悲鳴嶼もまた自身の持つ情報を開示する。
病院で待機している三人と、街へ向かった三人。
未だどこで何をしているか分からない鬼殺隊の長と、忌むべき宿敵の鬼
耀哉と無惨はともかく、戦兎やナナ達は念の為にと肉体の容姿の軽い説明もしておいた。
そう思ってか悲鳴嶼もまた自身の持つ情報を開示する。
病院で待機している三人と、街へ向かった三人。
未だどこで何をしているか分からない鬼殺隊の長と、忌むべき宿敵の鬼
耀哉と無惨はともかく、戦兎やナナ達は念の為にと肉体の容姿の軽い説明もしておいた。
「……そう、ですか。教えてくださりありがとうございます。ところであなたはこれからどうするのですか?」
「神楽を連れて一度病院まで戻ろうと思う。そちらが良ければ一緒に行こう」
「神楽を連れて一度病院まで戻ろうと思う。そちらが良ければ一緒に行こう」
殺し合いに否定的な参加者を放置する気は無い。
まして聞くところによると彼は元々只の動物学者、争いとは無縁の一般人ではないか。
戦闘に慣れておらず、象の怪物になったのも殺されそうになったが故の止むを得ない判断。
肉体こそ別人だろうと、望まない形で人を止めさせられたのには流石に憐憫の情を向けるというもの。
しかも鼻の先端が男性器と女性器が剥き出しになった、生理的な嫌悪感を抱かせる造形なら尚更だ。
鬼という存在を知っているからこそ、余計に姉畑を不憫に思う。
まして聞くところによると彼は元々只の動物学者、争いとは無縁の一般人ではないか。
戦闘に慣れておらず、象の怪物になったのも殺されそうになったが故の止むを得ない判断。
肉体こそ別人だろうと、望まない形で人を止めさせられたのには流石に憐憫の情を向けるというもの。
しかも鼻の先端が男性器と女性器が剥き出しになった、生理的な嫌悪感を抱かせる造形なら尚更だ。
鬼という存在を知っているからこそ、余計に姉畑を不憫に思う。
「いえ、私は街に向かおうと思います」
「なに?」
「なに?」
保護を提案する悲鳴嶼へ向け、姉畑が口にしたのは自ら危険地帯に戻る内容。
何を言っているのかと視線で問い返せば、そう来るのは分かっていたとばかりに理由を述べる。
何を言っているのかと視線で問い返せば、そう来るのは分かっていたとばかりに理由を述べる。
「先程仰っていた桐生戦兎さん達でしたか、彼らは元々胡蝶さんを助ける為に街へ行ったんですよね?ですが胡蝶さんが亡くなった事を彼らは知らない。でしたら、私が急ぎ街へ向かい、桐生さん達がDIOと会う前にそれを伝えようと思うんです」
「それは……」
「それは……」
まさしく悲鳴嶼が考えていた、神楽を放っては置けないが為に諦めた事を姉畑が代わりに引き受けるのだと言う。
願っても無い提案だが、では頼むと頷けはしない。
相手が鬼殺隊の仲間ならまだしも、姉畑は守るべき一般人。
たとえ支給品の効果で人外の力を手にしていようと、危険が待ち受けていると知っていながら送り込む真似は出来ない。
願っても無い提案だが、では頼むと頷けはしない。
相手が鬼殺隊の仲間ならまだしも、姉畑は守るべき一般人。
たとえ支給品の効果で人外の力を手にしていようと、危険が待ち受けていると知っていながら送り込む真似は出来ない。
「心配は無用です。この体なら多少の無茶をしても平気ですし」
「しかし……」
「…それにもう、罪のない命が失われるのは懲り懲りなんですよ」
「しかし……」
「…それにもう、罪のない命が失われるのは懲り懲りなんですよ」
顔色を曇らせ、俯きがちに呟く。
口先だけではない、本当に死者が出たのを嘆いている様に見える。
思わず掛ける言葉を飲み込んだ悲鳴嶼へ、あえて朗らかに笑って言う。
口先だけではない、本当に死者が出たのを嘆いている様に見える。
思わず掛ける言葉を飲み込んだ悲鳴嶼へ、あえて朗らかに笑って言う。
「ま、まぁもし既に戦いが起きていたらその時は素直に逃げます!流石に死にたくはないので!」
「…そもそも街へ向かう事に賛同しかねるのだが」
「ご心配は有難く受け取らせて頂きます。ですが、私は本当に大丈夫ですので!」
「なっ、待て!」
「…そもそも街へ向かう事に賛同しかねるのだが」
「ご心配は有難く受け取らせて頂きます。ですが、私は本当に大丈夫ですので!」
「なっ、待て!」
言うや否や象の巨体で悲鳴嶼に背を向け、街の方角へと駆け出す。
静止の声をぶつけるが姉畑が止まる様子は無い。
ライズホッパーのエンジンを切り、降りていたのがここでは悪い方に動いたか。
再度エンジンを吹かすのを待ってはくれずに、姉畑の後ろ姿はあっという間に見えなくなった。
静止の声をぶつけるが姉畑が止まる様子は無い。
ライズホッパーのエンジンを切り、降りていたのがここでは悪い方に動いたか。
再度エンジンを吹かすのを待ってはくれずに、姉畑の後ろ姿はあっという間に見えなくなった。
○
運が良かった。
悲鳴嶼との情報交換は全てが姉畑にとって都合の良い展開に動き、喜びの笑みを抑えられない。
悲鳴嶼との情報交換は全てが姉畑にとって都合の良い展開に動き、喜びの笑みを抑えられない。
もし悲鳴嶼が病院で情報の共有にもっと時間を割いていたら、きっとこうはならなかった。
殺し合い以前から姉畑を知り、会場でも姉畑と遭遇し異常性を目の当たりにした男。
杉元から危険人物として姉畑の情報を得ていれば別の対応を取ったに違いない。
少なくとも素直に仲間達の情報を教えはせず、監視する為に姉畑を強引にでも自分へ同行させ、善逸がいる街へは向かわせなかった筈だ。
殺し合い以前から姉畑を知り、会場でも姉畑と遭遇し異常性を目の当たりにした男。
杉元から危険人物として姉畑の情報を得ていれば別の対応を取ったに違いない。
少なくとも素直に仲間達の情報を教えはせず、監視する為に姉畑を強引にでも自分へ同行させ、善逸がいる街へは向かわせなかった筈だ。
それらは現実に起こらなかった、もしもの話以外の何ものでもない。
しのぶが危険な状態に陥っていると知り、焦りを覚えた悲鳴嶼をどうして責められようか。
しのぶが危険な状態に陥っていると知り、焦りを覚えた悲鳴嶼をどうして責められようか。
更に運が悪い、というよりはタイミングが悪過ぎたと言うべきか。
申し訳なさを抱いている少女の説得に失敗し、その少女が自分と縁の深い少女を殺害。
元の世界での仲間を含む一団が、相当な強さの危険人物の元へ向かったまま。
取り巻く状況の変化は少なからず悲鳴嶼から冷静さを奪い去った。
過去の事情もあって疑り深い性格でありながら、姉畑の話が真実か否かを慎重に吟味しなかったのは、悲鳴嶼と言えども短時間で精神的な痛みから完全には脱せなかったからだろう。
申し訳なさを抱いている少女の説得に失敗し、その少女が自分と縁の深い少女を殺害。
元の世界での仲間を含む一団が、相当な強さの危険人物の元へ向かったまま。
取り巻く状況の変化は少なからず悲鳴嶼から冷静さを奪い去った。
過去の事情もあって疑り深い性格でありながら、姉畑の話が真実か否かを慎重に吟味しなかったのは、悲鳴嶼と言えども短時間で精神的な痛みから完全には脱せなかったからだろう。
悲鳴嶼には不運な、されど姉畑にとっては幸運に恵まれたと言っても良い展開。
思いもよらぬ絶好の機会に胸を躍らせながら、脇目も振らずに街へ向かう。
罪のない命が失われるのはもう懲り懲り、悲鳴嶼に言った言葉に嘘偽りは無い。
シロ、デビハム、貨物船。
愛くるしい動物達が、自分と愛し合う前に死んでしまったのを悲しんでいるのは本当の事なのだから。
思いもよらぬ絶好の機会に胸を躍らせながら、脇目も振らずに街へ向かう。
罪のない命が失われるのはもう懲り懲り、悲鳴嶼に言った言葉に嘘偽りは無い。
シロ、デビハム、貨物船。
愛くるしい動物達が、自分と愛し合う前に死んでしまったのを悲しんでいるのは本当の事なのだから。
だからもうこれ以上動物達が死ぬ前に、何が何でも愛を注いであげなければならない。
そんな時に善逸(ピカチュウ)の情報が手に入った。
きっとこれは自分の愛が通じたからに違いないと姉畑は本気で思い込む。
DIO達や、金塊を狙っている可能性の高い杉元がいる街へ行くのが恐くないと言えば嘘になる。
同時にこれはまたとないチャンスでもあるのだ。
ほぼ確実に杉元達はDIOと戦闘になり、そのどさくさに紛れて善逸(ピカチュウ)の確保を行う。
危険は承知だ、しくじれば今度こそ自分は殺される。
だが自ら死地へ飛び込まねば、こんな機会は二度と訪れないかもしれない。
そんな時に善逸(ピカチュウ)の情報が手に入った。
きっとこれは自分の愛が通じたからに違いないと姉畑は本気で思い込む。
DIO達や、金塊を狙っている可能性の高い杉元がいる街へ行くのが恐くないと言えば嘘になる。
同時にこれはまたとないチャンスでもあるのだ。
ほぼ確実に杉元達はDIOと戦闘になり、そのどさくさに紛れて善逸(ピカチュウ)の確保を行う。
危険は承知だ、しくじれば今度こそ自分は殺される。
だが自ら死地へ飛び込まねば、こんな機会は二度と訪れないかもしれない。
「待っててくださいねピカチュウ君!今度こそ、私の愛を受け取ってもらいますよ!」
今から愛し合う瞬間を思い浮かべ、鼻の先の男性器がそそり立つ。
女性器からもヌメヌメした液体が垂れ流され地面を汚す。
雨で体中が濡れるなど何のその、消す事の出来ない欲望の火を燃え上がらせた。
女性器からもヌメヌメした液体が垂れ流され地面を汚す。
雨で体中が濡れるなど何のその、消す事の出来ない欲望の火を燃え上がらせた。
◆◆◆
(何をしているんだ私は…!)
姉畑が危険地帯へ向かうのを止められず、己の迂闊さを叱咤しても後の祭り。
運良くDIOと遭遇せず、戦兎達と先に会う可能性を否定する訳ではない。
反対に運悪くDIOに見つかり逃げる暇もなく殺される可能性だって十分ある。
追いかけようにも今の神楽を連れて行くのは、余りにも不安が大きい。
どうすべきかと頭を悩ませるが、一向に良い考えは浮かばず無駄に時間を消費するばかり。
こうしている間にも、街では良からぬ事態が起きているかもしれないのに。
運良くDIOと遭遇せず、戦兎達と先に会う可能性を否定する訳ではない。
反対に運悪くDIOに見つかり逃げる暇もなく殺される可能性だって十分ある。
追いかけようにも今の神楽を連れて行くのは、余りにも不安が大きい。
どうすべきかと頭を悩ませるが、一向に良い考えは浮かばず無駄に時間を消費するばかり。
こうしている間にも、街では良からぬ事態が起きているかもしれないのに。
「ん…んん……」
頭を抱える悲鳴嶼の傍らで、か細い声が聞こえた。
ハッと振り向けば、オレンジ髪の女が身動ぎしている。
閉じていた両目がゆっくりと開かれ、振り向いた銀髪の男と目が合う。
ハッと振り向けば、オレンジ髪の女が身動ぎしている。
閉じていた両目がゆっくりと開かれ、振り向いた銀髪の男と目が合う。
「銀ちゃん……?」
もう二度と会えない筈なのに、目の前にいる男の名を呟く。
自分は夢でも見ているのだろうか。
それとも今までのが全部夢で、本当は誰も死んでなどいないのか。
都合の良い方へ自然と思考が傾きかけ、
自分は夢でも見ているのだろうか。
それとも今までのが全部夢で、本当は誰も死んでなどいないのか。
都合の良い方へ自然と思考が傾きかけ、
「……あ」
逃れられない現実へと引き戻される。
人間の体を、柔らかな少女の胸を貫いた感触。
ぶん殴って終わりではない、命を一つ消し去った。
吐き出された血の色は色鮮やかに記憶へ焼き付き離れない。
何より忘れられないのは、怒気を露わに刀を振るった侍の姿。
銀髪を赤く染めた彼の姿はまさに夜叉。
ぶん殴って終わりではない、命を一つ消し去った。
吐き出された血の色は色鮮やかに記憶へ焼き付き離れない。
何より忘れられないのは、怒気を露わに刀を振るった侍の姿。
銀髪を赤く染めた彼の姿はまさに夜叉。
共に過ごし、共に笑い、共に怒り、共に戦い、共に帰った。
坂田銀時の怒りが、白夜叉の顔が自分に向けられ、刃を叩きつけられた痛みが今になって疼き出す。
坂田銀時の怒りが、白夜叉の顔が自分に向けられ、刃を叩きつけられた痛みが今になって疼き出す。
「あああああああ……!!」
恐怖で体中が震え、涙が滝のように流れるのを止められない。
怒気を向けられたから恐いのではない、命の危機に瀕した事など何度もあった。
恐いのは自分で自分の居場所を壊してしまったこと。
大切な仲間から見放されること。
怒気を向けられたから恐いのではない、命の危機に瀕した事など何度もあった。
恐いのは自分で自分の居場所を壊してしまったこと。
大切な仲間から見放されること。
人を殺した、それも自分の命を投げ出してまで誰かを守れるような人間を。
精神的に不安定だったからとか、そんな言い訳をする気は無い。
この手で命を奪ってしまったのだ。
今まで多くの騒動に巻き込まれ、天人だったり宇宙海賊だったりテロリストだったりと、色んな連中と戦って来た。
だけど一度も殺した事はない。
精神的に不安定だったからとか、そんな言い訳をする気は無い。
この手で命を奪ってしまったのだ。
今まで多くの騒動に巻き込まれ、天人だったり宇宙海賊だったりテロリストだったりと、色んな連中と戦って来た。
だけど一度も殺した事はない。
善人を殺した自分はもうかぶき町には、万事屋銀ちゃんには帰れない。
かぶき町の皆が自分を受け入れてくれるかも分からない。
そう考えると恐くて、悲しくて、心が壊れそうだった。
かぶき町の皆が自分を受け入れてくれるかも分からない。
そう考えると恐くて、悲しくて、心が壊れそうだった。
もう自分はここにはいられない。
精神が別人だろうと、銀時の前にいるのが苦しくて堪らない。
恐怖に突き動かされるまま立ち上がり、目の前の男が何かを口にするのも無視して逃げようとし――
精神が別人だろうと、銀時の前にいるのが苦しくて堪らない。
恐怖に突き動かされるまま立ち上がり、目の前の男が何かを口にするのも無視して逃げようとし――
「ぶへぇ!?」
思いっ切りコケた。
顔面から地面に激突し、女が出すべきではない声が飛び出る。
じんじん痛む額に手を当てようとし、そこでようやく自分がどういう状態なのかに気付いた。
じんじん痛む額に手を当てようとし、そこでようやく自分がどういう状態なのかに気付いた。
「…って何じゃこりゃぁ!?」
縛られている。
鎖でぐるぐる巻きにされ、両腕が自由に動かせない。
ライズホッパーから降りた後も悲鳴嶼は神楽の拘束を解かなかった。
目を覚ました彼女がまた錯乱し逃げ出せば、さっきの繰り返しだ。
だから万が一の事を考え身動きが取れないようにしていたが、神楽からしたら混乱しかしない。
鎖でぐるぐる巻きにされ、両腕が自由に動かせない。
ライズホッパーから降りた後も悲鳴嶼は神楽の拘束を解かなかった。
目を覚ました彼女がまた錯乱し逃げ出せば、さっきの繰り返しだ。
だから万が一の事を考え身動きが取れないようにしていたが、神楽からしたら混乱しかしない。
「ふざけんじゃねぇヨ!銀ちゃんの体でプレイなんざおっ始めてんじゃねーゾ!」
「す、すまない。ただ事情が……」
「大体銀ちゃんは縛るより縛られる方が好きアル!」
「……い、いやそれを私に言われても、返す言葉に困るのだが」
「す、すまない。ただ事情が……」
「大体銀ちゃんは縛るより縛られる方が好きアル!」
「……い、いやそれを私に言われても、返す言葉に困るのだが」
新八並にキレのあるツッコミは返せず、元来真面目な人間故にしどろもどろになってしまう。
平然と曝露された銀時の性癖は置いておき、起きたのなら神楽とも話をする必要がある。
どうにも締まらない空気となったが今から話すのは至って真面目な内容だ。
平然と曝露された銀時の性癖は置いておき、起きたのなら神楽とも話をする必要がある。
どうにも締まらない空気となったが今から話すのは至って真面目な内容だ。
「神楽」
「…っ。な、なに…アルか……?」
「…っ。な、なに…アルか……?」
怒鳴り声を上げたのではない。
ただ真剣な表情で一言彼女の名前を呼べば、向こうも察したのか騒がしいのが一転、しおらしい態度になる。
自分が何を言われるのかは安易に予想が付く。
ブレイズに変身した時に青い帽子の少女を殺した件。
取り返しのつかない事をしでかした自分を糾弾する気なのだろう。
分かっている、そうされて当然の罪を犯した事は自分が一番分かっているつもりだ。
それでもいざ言われるとなると、どうしようもなく恐い。
殺しておいて恐がる資格がある訳が無いとは思っても、恐くて堪らない。
ただ真剣な表情で一言彼女の名前を呼べば、向こうも察したのか騒がしいのが一転、しおらしい態度になる。
自分が何を言われるのかは安易に予想が付く。
ブレイズに変身した時に青い帽子の少女を殺した件。
取り返しのつかない事をしでかした自分を糾弾する気なのだろう。
分かっている、そうされて当然の罪を犯した事は自分が一番分かっているつもりだ。
それでもいざ言われるとなると、どうしようもなく恐い。
殺しておいて恐がる資格がある訳が無いとは思っても、恐くて堪らない。
青褪めて黙り込んだ神楽から視線は逸らさず、悲鳴嶼は静かに告げた。
「すまなかった」
「え……」
「え……」
深々と頭を下げ、口にしたのは謝罪の言葉。
相手が何をしているのか、何を言ってるのか神楽には理解が出来ない。
謝るべきは彼では無いのに。
相手が何をしているのか、何を言ってるのか神楽には理解が出来ない。
謝るべきは彼では無いのに。
「な、何言ってるアルかお前…?何でお前が謝るネ…悪いのは…」
悪いのは、自分の方ではないか。
新八達の死がショックだったとはいえ勝手に皆の元を離れ。
康一が託してくれたブレイズの力を、八つ当たりのような形で使ってしまい。
挙句の果てに罪のない少女を殺した。
誰がどう見たって謝らなければならないのは自分の方だ。
新八達の死がショックだったとはいえ勝手に皆の元を離れ。
康一が託してくれたブレイズの力を、八つ当たりのような形で使ってしまい。
挙句の果てに罪のない少女を殺した。
誰がどう見たって謝らなければならないのは自分の方だ。
なのに悲鳴嶼は首を横に振り、自分こそが悪いと言う神楽の言葉を否定する。
「親しい者が殺され、冷静でいられる筈が無い。当たり前の事だと言うのに私は分かっていなかった。お前がどれだけ傷付いたかをもっと深刻に受け止めるべきだった」
そうだ、大切な人間が殺されるのがどれ程辛いか。
残された者がどんな思いでいるかなど、鬼殺隊に所属する自分ならば誰よりも分かるだろうに。
神楽を追いかけていた時の自分は、本当に彼女の苦しみをきちんと受け止めてやる心構えが出来ていたか?
しのぶが危険な状況にある焦りから、やり方を間違えてしまったんじゃないのか?
もっと良い対応をしていれば、神楽がしのぶを手に掛けるのを防げたのでは?
考えれば考える程、自責の念ばかりが浮かび上がる。
残された者がどんな思いでいるかなど、鬼殺隊に所属する自分ならば誰よりも分かるだろうに。
神楽を追いかけていた時の自分は、本当に彼女の苦しみをきちんと受け止めてやる心構えが出来ていたか?
しのぶが危険な状況にある焦りから、やり方を間違えてしまったんじゃないのか?
もっと良い対応をしていれば、神楽がしのぶを手に掛けるのを防げたのでは?
考えれば考える程、自責の念ばかりが浮かび上がる。
だからこの場で責められるべきは自分であると、そう悲鳴嶼は言うのだ。
とはいえ神楽には到底納得できる内容ではない。
とはいえ神楽には到底納得できる内容ではない。
「違う…!違うアル…!わ、私が…」
「…私も、そしてしのぶもお前を責めるつもりは無い。怨んでもいない。気に病むなと言ってもすぐに切り替えるのは難しだろうが…。それでも、自分で自分を傷付ける真似は止せ。…そんなものは坂田銀時も望んでいない筈だ」
「……っ!」
「…私も、そしてしのぶもお前を責めるつもりは無い。怨んでもいない。気に病むなと言ってもすぐに切り替えるのは難しだろうが…。それでも、自分で自分を傷付ける真似は止せ。…そんなものは坂田銀時も望んでいない筈だ」
「……っ!」
誰よりも神楽を憎んで当然の男からそう言われては、銀時の名を出されてしまえば神楽も言葉が出ない。
口を噤み俯き、対する悲鳴嶼も本心からの想いを伝え沈黙する。
どちらも一言も発さないまま、雨の音だけがやけに大きく二人の鼓膜を叩く。
やがて先に沈黙を破ったのは悲鳴嶼だった。
口を噤み俯き、対する悲鳴嶼も本心からの想いを伝え沈黙する。
どちらも一言も発さないまま、雨の音だけがやけに大きく二人の鼓膜を叩く。
やがて先に沈黙を破ったのは悲鳴嶼だった。
「私は一度お前を連れて病院へ戻ろうと思っている。今のお前には落ち着く時間が必要だ」
「……お前はどうする気ネ?」
「病院へ送り届けたら街へ桐生達の加勢に向かう。話を聞く限り、敵は無惨にも匹敵する危険な男らしいからな。戦力は一人でも多い方が良い。」
「……お前はどうする気ネ?」
「病院へ送り届けたら街へ桐生達の加勢に向かう。話を聞く限り、敵は無惨にも匹敵する危険な男らしいからな。戦力は一人でも多い方が良い。」
加えて今しがた街に向かった姉畑の安否も不安である。
本当ならばこのまま街へ急行すべきだが、今の神楽を連れて行くのは彼女にとっても酷だろう。
よって一度病院へ行き、神楽を送り届けてから街へと向かう。
正直に言ってかなり時間を食ってしまうが、今はこれしかないと自分を納得させた。
本当ならばこのまま街へ急行すべきだが、今の神楽を連れて行くのは彼女にとっても酷だろう。
よって一度病院へ行き、神楽を送り届けてから街へと向かう。
正直に言ってかなり時間を食ってしまうが、今はこれしかないと自分を納得させた。
「ちょっと待つヨ」
が、悲鳴嶼の考えに意を挟む者が一人。
顔を上げた神楽は、覚悟を決めた顔付きで言い放つ。
顔を上げた神楽は、覚悟を決めた顔付きで言い放つ。
「私もこのまま街に行くアル」
「神楽、それは……」
「私も話だけしか聞いてねーけど、んなヤバい奴がいるならチンタラしてる場合じゃねーダロ。なら二人でさっさと街に行った方が良いネ」
「神楽、それは……」
「私も話だけしか聞いてねーけど、んなヤバい奴がいるならチンタラしてる場合じゃねーダロ。なら二人でさっさと街に行った方が良いネ」
ぐうの音も出ない正論だ。
今この瞬間にも戦兎達がDIOと戦っているかもしれないなら、時間的な余裕は全く無い。
バイクという移動手段があるとは言っても、一度病院まで戻ってからでは手遅れになる可能性も高い。
それに自分達が先程通った場所は禁止エリアに指定されてしまった。
必然的に移動は遠回りするしかなく、余計に時間を浪費する事になる。
今この瞬間にも戦兎達がDIOと戦っているかもしれないなら、時間的な余裕は全く無い。
バイクという移動手段があるとは言っても、一度病院まで戻ってからでは手遅れになる可能性も高い。
それに自分達が先程通った場所は禁止エリアに指定されてしまった。
必然的に移動は遠回りするしかなく、余計に時間を浪費する事になる。
このまま神楽と二人で街へ行くのが最善、それは悲鳴嶼とて理解している。
しかし本当にこのまま神楽を連れて行って良いものかを思うと、素直に頷けない。
自分への心配か不安か、どっちにしても渋い顔の悲鳴嶼を納得させるべく神楽は続ける。
しかし本当にこのまま神楽を連れて行って良いものかを思うと、素直に頷けない。
自分への心配か不安か、どっちにしても渋い顔の悲鳴嶼を納得させるべく神楽は続ける。
「…正直、平気だって言ったら嘘になるネ。でももう馬鹿な事する気が無いのは本当アル」
「……」
「……」
自分を真正面から見つめ返す神楽からは、精神的な不安定さは感じない。
少なくとも先程のように錯乱はしないだろうとは、今の様子から分かる。
こうして自分が判断を下すのに時間を割いている間にも、街の方は状況が変わっているかもしれないのだ。
完全に納得したのではなくとも、いい加減はっきり決めるべきだろう。
少なくとも先程のように錯乱はしないだろうとは、今の様子から分かる。
こうして自分が判断を下すのに時間を割いている間にも、街の方は状況が変わっているかもしれないのだ。
完全に納得したのではなくとも、いい加減はっきり決めるべきだろう。
「…分かった。では今から街へ向かおう」
神楽から鎖を外し、ライズホッパーに跨る。
後部座席へ彼女が座りこちらの肩に手を置いたのを確認すると、エンジンを掛け発進した。
雨が降っている為視界は悪いが、今は一刻を争う状況だ。
肉体に染み付いた記憶を頼りにスピードを上げる。
後部座席へ彼女が座りこちらの肩に手を置いたのを確認すると、エンジンを掛け発進した。
雨が降っている為視界は悪いが、今は一刻を争う状況だ。
肉体に染み付いた記憶を頼りにスピードを上げる。
(ロビンちゃんもこんな気持ちだったアルか…)
悲鳴嶼の背中を見ながら、神楽が思うのは既にいない仲間の事。
まだ全員が生きて離れの島にいた時、ロビンは自分達の体がもうこの世にはいない可能性を話した。
ロビンが元の肉体で食べた悪魔の身がゲンガーに支給されたのは、彼女の体が殺されたから。
能力者が死ぬとその人物が食べた実は復活する、そうロビンは言っていた。
あの時のロビンは影のある表情となり、その後すぐに何かを決意したように思う。
恐らくだが、自分がもう帰れないとしても仲間の体は元の持ち主に戻そうと考えたのだろう。
まだ全員が生きて離れの島にいた時、ロビンは自分達の体がもうこの世にはいない可能性を話した。
ロビンが元の肉体で食べた悪魔の身がゲンガーに支給されたのは、彼女の体が殺されたから。
能力者が死ぬとその人物が食べた実は復活する、そうロビンは言っていた。
あの時のロビンは影のある表情となり、その後すぐに何かを決意したように思う。
恐らくだが、自分がもう帰れないとしても仲間の体は元の持ち主に戻そうと考えたのだろう。
神楽もまた、一つの決意を固めていた。
ロビンの仮説が本当なら、神楽の肉体も既に殺されている可能性が高い。
もう自分の体でかぶき町へは帰れないかもしれない。
それなら自分は、かぶき町に帰る為じゃなく別の事をやり切ってみせると新たな誓いを立てた。
今目の前にいる男、悲鳴嶼を生かす為である。
しのぶを殺されたのに恨んでないと彼は言ったが、神楽はそう簡単に自分を許せはしない。
だからせめてもの償いとして、悲鳴嶼を無事に帰してやりたい。
きっと悲鳴嶼はそのような償いはしなくて良いと言うだろうけど、神楽にとってはもう決めた事だ。
ロビンの仮説が本当なら、神楽の肉体も既に殺されている可能性が高い。
もう自分の体でかぶき町へは帰れないかもしれない。
それなら自分は、かぶき町に帰る為じゃなく別の事をやり切ってみせると新たな誓いを立てた。
今目の前にいる男、悲鳴嶼を生かす為である。
しのぶを殺されたのに恨んでないと彼は言ったが、神楽はそう簡単に自分を許せはしない。
だからせめてもの償いとして、悲鳴嶼を無事に帰してやりたい。
きっと悲鳴嶼はそのような償いはしなくて良いと言うだろうけど、神楽にとってはもう決めた事だ。
噛み合わない想いを乗せ、ライズホッパーは雨の中を突っ切って行った。
◆
自分は夢を見ている、甜花がそう気付くのに時間は掛からなかった。
何故なら今目の前にあるのは過去の出来事。
既に終わってしまった、されど大切で幸せな記憶。
幼い頃の記憶を夢で見るのはこれが二度目だ。
一度目は甘奈が体調を崩して休んでいる時。
アルバムを捲り思い出に浸るような気持ちで、甜花は夢の世界に身を委ねる。
何故なら今目の前にあるのは過去の出来事。
既に終わってしまった、されど大切で幸せな記憶。
幼い頃の記憶を夢で見るのはこれが二度目だ。
一度目は甘奈が体調を崩して休んでいる時。
アルバムを捲り思い出に浸るような気持ちで、甜花は夢の世界に身を委ねる。
アイドルになるよりもずっと昔。
甜花と甘奈がまだ小さな子供だった頃。
両親から二人へデビ太郎がプレゼントされた日のこと。
甜花と甘奈がまだ小さな子供だった頃。
両親から二人へデビ太郎がプレゼントされた日のこと。
その日から姉妹とデビ太郎はずっと一緒だった。
遊ぶ時も、ご飯の時も、甜花が大好きなお昼寝の時だって。
真ん中に置いて、二人で抱きしめながら気持ち良く眠った。
甜花だけでなく甘奈もデビ太郎が大好きだったから、いつも嬉しそうにしていたのを良く覚えている。
遊ぶ時も、ご飯の時も、甜花が大好きなお昼寝の時だって。
真ん中に置いて、二人で抱きしめながら気持ち良く眠った。
甜花だけでなく甘奈もデビ太郎が大好きだったから、いつも嬉しそうにしていたのを良く覚えている。
だけど、甜花には段々とそれが嫌になっていった。
自分もデビ太郎が好きだけど、それ以上に甘奈の事も大好きだったから。
生まれた時からずっと一緒の妹が、デビ太郎に取られた気持ちになってしまったのだ。
自分もデビ太郎が好きだけど、それ以上に甘奈の事も大好きだったから。
生まれた時からずっと一緒の妹が、デビ太郎に取られた気持ちになってしまったのだ。
『もういい、なーちゃんにあげる』
ある時、とうとう我慢が出来なくなりデビ太郎を放り投げた。
ヤキモチで、どうしようもなくムシャクシャする気持ちが抑えられない。
甘奈が不安がっているのにそっぽを向いて、不貞腐れた態度を取った。
今にして思えば、子供の頃とはいえ我ながら良くない事をしてしまったと反省する。
ヤキモチで、どうしようもなくムシャクシャする気持ちが抑えられない。
甘奈が不安がっているのにそっぽを向いて、不貞腐れた態度を取った。
今にして思えば、子供の頃とはいえ我ながら良くない事をしてしまったと反省する。
『てんかちゃんに、あげる』
でも甘奈はそんな嫌な態度を取った自分に腹を立てず、デビ太郎をあげると言ってくれた。
自分ばっかりがデビ太郎と遊んでいたから、それで甜花を怒らせたと思って。
きっとあの時から、自分はもっとデビ太郎が好きになって、甘奈の事はもっと大切に思うようになったのだろう。
自分ばっかりがデビ太郎と遊んでいたから、それで甜花を怒らせたと思って。
きっとあの時から、自分はもっとデビ太郎が好きになって、甘奈の事はもっと大切に思うようになったのだろう。
場面が変わる。
今度はアイドルを始めてからの記憶。
幼い頃の夢を見た、甘奈が風邪を引いてしまった時。
千雪とプロデューサーも協力してくれたおかげで甘奈の体調は良くなったけど、今度は甜花が風邪を引いてしまった。
幼い頃の夢を見た、甘奈が風邪を引いてしまった時。
千雪とプロデューサーも協力してくれたおかげで甘奈の体調は良くなったけど、今度は甜花が風邪を引いてしまった。
部屋でデビ太郎と一緒に寝ていると、甘奈が一緒に寝てくれた。
子供の時も、片方が風邪を引いたらもう片方はこっそり会いに行っていたのを今でも覚えている。
両親からは風邪が移ると言われたけど、でもやっぱり心配だったから。
子供の時も、片方が風邪を引いたらもう片方はこっそり会いに行っていたのを今でも覚えている。
両親からは風邪が移ると言われたけど、でもやっぱり心配だったから。
デビ太郎を間に挟んで、子供の時のように眠くなるまでお話をする。
風邪を引いたせいもあってか、普段以上に弱音を零した。
何時からプレゼントを違うものにしてもらったのか、幼い頃の思い出に花を咲かせた。
流れ星のお願い事を、こっそり甘奈に教えてあげた。
風邪を引いたせいもあってか、普段以上に弱音を零した。
何時からプレゼントを違うものにしてもらったのか、幼い頃の思い出に花を咲かせた。
流れ星のお願い事を、こっそり甘奈に教えてあげた。
全てが甜花の記憶の通り。
実際に体験したのと同じ光景。
実際に体験したのと同じ光景。
その筈だった。
『なーちゃん…?』
眠りに落ちるその寸前で、不意に甘奈が表情を変えた。
寂しそうな、どこか苦しそうに笑っている。
おかしい、自分の記憶が確かならあの時の妹はこんな顔をしなかったと思うが。
甜花の疑問を余所に、甘奈は姉をじっと見つめ言葉を紡いだ。
寂しそうな、どこか苦しそうに笑っている。
おかしい、自分の記憶が確かならあの時の妹はこんな顔をしなかったと思うが。
甜花の疑問を余所に、甘奈は姉をじっと見つめ言葉を紡いだ。
『甜花ちゃんは…――』
○
「なー…ちゃん…?」
目を覚ますと、10年以上住んでいる我が家とは違う場所が見えた。
自分が寝ていたのも自室のベッドじゃなくて、金のかかった黒張りのソファー。
壁には書類を纏めた棚と、歴代の部屋の主の写真が甜花を見下ろしている。
寝惚け半分の意識が徐々に鮮明さを取り戻し、眠りに落ちる直前の記憶を思い出す。
自分が寝ていたのも自室のベッドじゃなくて、金のかかった黒張りのソファー。
壁には書類を纏めた棚と、歴代の部屋の主の写真が甜花を見下ろしている。
寝惚け半分の意識が徐々に鮮明さを取り戻し、眠りに落ちる直前の記憶を思い出す。
「おはよう甜花。良く眠れたかい?」
耳からするりと入った声が脳まで届き、思考を瞬く間に蕩けさせる。
甘いマスクの青年が微笑むのが寝起きの視界に飛び込み、僅かに夢の中へ残っていた意識も現実へ引き戻された。
彼が自分へ微笑みかけてくれるのに、何時までも眠ってなどいられない。
熱さを増した顔で、彼の質問へ肯定を返した。
甘いマスクの青年が微笑むのが寝起きの視界に飛び込み、僅かに夢の中へ残っていた意識も現実へ引き戻された。
彼が自分へ微笑みかけてくれるのに、何時までも眠ってなどいられない。
熱さを増した顔で、彼の質問へ肯定を返した。
「う、うん……!おはようDIOさん……!ぐっすり寝たから、も、もう大丈夫だよ……」
「それは何よりだ。だがくれぐれも無理はしないようにしてくれ。君にもしもの事があったら、私も辛いんだ」
「それは何よりだ。だがくれぐれも無理はしないようにしてくれ。君にもしもの事があったら、私も辛いんだ」
影のある表情で心配を口にされると、益々甜花の心臓は高鳴りを抑えられない。
大好きな相手がこんなにも自分を大事に想ってくれている。
それは何て幸せな事なんだろうか。
こんなに幸せで良いのかと却って不安を抱きそうになる程だ。
いや、不安がる必要なんてどこにもない。
だってDIOが一緒にいてくれるなら、何も心配はいらないのだから。
大好きな相手がこんなにも自分を大事に想ってくれている。
それは何て幸せな事なんだろうか。
こんなに幸せで良いのかと却って不安を抱きそうになる程だ。
いや、不安がる必要なんてどこにもない。
だってDIOが一緒にいてくれるなら、何も心配はいらないのだから。
幸福を噛み締める最中、甜花はある事に気付いた。
確かPK学園には自分とDIO以外にもう一人いた筈。
彼女は後からPK学園に来ると言っていたが、もしかしてまだ到着していないのか。
純粋な疑問、それに加えてDIOとの関係が気になる少女について聞いてみる。
確かPK学園には自分とDIO以外にもう一人いた筈。
彼女は後からPK学園に来ると言っていたが、もしかしてまだ到着していないのか。
純粋な疑問、それに加えてDIOとの関係が気になる少女について聞いてみる。
「あ、あのねDIOさん……。さっきの、ヴァニラちゃんっていう女の子なんだけど……」
「アイスなら雨具の確保と見張りを任せている。奴は元々私の部下でね」
「部下……そっか、そうなんだ……」
「アイスなら雨具の確保と見張りを任せている。奴は元々私の部下でね」
「部下……そっか、そうなんだ……」
部下ということは、少なくとも嫌な予感を抱いたような関係では無い。
一瞬でもDIOが自分に向ける愛を疑ってしまい、申し訳なく思う。
罪悪感を抱く甜花だが、彼女はもう一つ勘違いをしている。
一瞬でもDIOが自分に向ける愛を疑ってしまい、申し訳なく思う。
罪悪感を抱く甜花だが、彼女はもう一つ勘違いをしている。
「一応言っておくが、アイスは元の肉体は男だぞ?」
「えっ……えぇ…っ!?」
「えっ……えぇ…っ!?」
思いもよらない真実に、驚きで素っ頓狂な声が飛び出た。
つまりヴァニラちゃんではなくヴァニラさんだったという事か。
考えてみればナナや燃堂のように、元々の性別とは違う体にされた参加者とはもう会っているのだ。
ならあの二人以外にもそういう者がいても不思議はない。
とんだ勘違いをしてしまい、羞恥で顔が赤くなる。
しかしDIOは甜花を笑うでも馬鹿にするでも無く、あくまで彼女を気遣う態度を崩さない。
つまりヴァニラちゃんではなくヴァニラさんだったという事か。
考えてみればナナや燃堂のように、元々の性別とは違う体にされた参加者とはもう会っているのだ。
ならあの二人以外にもそういう者がいても不思議はない。
とんだ勘違いをしてしまい、羞恥で顔が赤くなる。
しかしDIOは甜花を笑うでも馬鹿にするでも無く、あくまで彼女を気遣う態度を崩さない。
「すまなかったね甜花。もっと早くに言うべきだったな…」
「う、ううん……!DIOさんは、悪くないよ……!甜花が、勝手に間違えちゃっただけで……」
「…甜花。改めて言うが、私が愛を向けるのは君一人だ。君も、君が大切に思う者達も私が守る。だからもう一度私を信じてはくれないか?」
「っ!?うん……!勿論、し、信じるよ……!だって、甜花もDIOさんが、だ、大好き、だから……!」
「う、ううん……!DIOさんは、悪くないよ……!甜花が、勝手に間違えちゃっただけで……」
「…甜花。改めて言うが、私が愛を向けるのは君一人だ。君も、君が大切に思う者達も私が守る。だからもう一度私を信じてはくれないか?」
「っ!?うん……!勿論、し、信じるよ……!だって、甜花もDIOさんが、だ、大好き、だから……!」
笑みと共に伝えられたDIOからの愛に、甜花は心が満たされる思いだった。
やっぱりDIOは優しい。
こんなにも自分の事を強く想ってくれる人と出会えて、自分はなんて幸せなんだろう。
殺し合いという恐ろしいものに巻き込まれても、DIOが支えてくれるなら大丈夫に決まっている。
何も心配はいらない、何も疑う必要はない。
DIOと共にいればそれだけで――
やっぱりDIOは優しい。
こんなにも自分の事を強く想ってくれる人と出会えて、自分はなんて幸せなんだろう。
殺し合いという恐ろしいものに巻き込まれても、DIOが支えてくれるなら大丈夫に決まっている。
何も心配はいらない、何も疑う必要はない。
DIOと共にいればそれだけで――
本当にそう?
「……っ」
本当に、今の自分の考えは正しいのだろうか。
DIOが自分を守ると言ってくれた時、嬉しいと心から思った。
だがDIO以外にも、甜花の事を守ると言ってくれた人物はいた筈である。
DIOが自分を守ると言ってくれた時、嬉しいと心から思った。
だがDIO以外にも、甜花の事を守ると言ってくれた人物はいた筈である。
(戦兎さん……)
そうだ。
殺し合いが始まって一番最初に出会った青年、桐生戦兎も甜花を守ると約束してくれたではないか。
甘奈の体にされて、どうすれば良いか分からず途方に暮れていた自分を支えてくれたのは戦兎。
突如襲い掛かって来たデビハムから自分を守るために、傷つきながら戦ったのだって戦兎だ。
もし最初に戦兎と会っていなければ、自分は今こうして生きていたかも分からない。
どうして戦兎が守ってくれたのを忘れそうになったのだろうか。
殺し合いが始まって一番最初に出会った青年、桐生戦兎も甜花を守ると約束してくれたではないか。
甘奈の体にされて、どうすれば良いか分からず途方に暮れていた自分を支えてくれたのは戦兎。
突如襲い掛かって来たデビハムから自分を守るために、傷つきながら戦ったのだって戦兎だ。
もし最初に戦兎と会っていなければ、自分は今こうして生きていたかも分からない。
どうして戦兎が守ってくれたのを忘れそうになったのだろうか。
いや、戦兎はDIOを殺そうとした許せない男。
愛するDIOの敵は自分の敵、そう考えるのが正しいに決まっている。
愛するDIOの敵は自分の敵、そう考えるのが正しいに決まっている。
なのにどうしてか、自分への疑問はより強くなるばかり。
(そういえば、甜花はどうしてDIOさんを…好きになったんだっけ……?)
DIOを愛する気持ちは確かに存在する。
しかし自分がDIOを好きになった切っ掛けが分からない。
これ程強く好意を抱くのならば、相応の理由があるだろうに。
考えても考えても、全く頭には浮かばなかった。
理由も無いのに好きになるなど、そんな奇妙な事が有り得るのだろうか。
しかし自分がDIOを好きになった切っ掛けが分からない。
これ程強く好意を抱くのならば、相応の理由があるだろうに。
考えても考えても、全く頭には浮かばなかった。
理由も無いのに好きになるなど、そんな奇妙な事が有り得るのだろうか。
そもそも自分がDIOを初めて見たのは、彼が戦兎を殺そうとした時。
自分達を守ろうとした戦兎へ攻撃するような人を、好きになる理由が果たしてどこに――
自分達を守ろうとした戦兎へ攻撃するような人を、好きになる理由が果たしてどこに――
「甜花?」
「…えっ?あ、ご、ごめんなさい……!何でもない、よ……」
「…えっ?あ、ご、ごめんなさい……!何でもない、よ……」
訝し気なDIOの声に慌てて思考を打ち切る。
DIOは自分を愛してくれる、そして自分もDIOが大好き。
それで良いだろう、一体どこに疑問を挟み込む余地がある。
妙な事を考えてしまったのは、きっと寝起きで頭がちゃんと働いていないからだ。
DIOがいるのだからしゃんとしないと。
苦しい言い訳を重ねて、自分の心に生まれた裂け目を見ない振りする。
DIOは自分を愛してくれる、そして自分もDIOが大好き。
それで良いだろう、一体どこに疑問を挟み込む余地がある。
妙な事を考えてしまったのは、きっと寝起きで頭がちゃんと働いていないからだ。
DIOがいるのだからしゃんとしないと。
苦しい言い訳を重ねて、自分の心に生まれた裂け目を見ない振りする。
(そうだ……甜花はDIOさんが大好き…なんだから……)
もうこれ以上余計な事を考えるのは止めにしよう。
きっとその方が良いと自分に言い聞かせる。
きっとその方が良いと自分に言い聞かせる。
校長室の扉が開き、青髪の少女が入って来たのは丁度そのタイミングだった。
「DIO様、至急お耳に入れたいことが…」
取り乱しはせず、あくまで冷静にヴァニラは言う。
突然の入室にも慌てずDIOが無言で続きを促すと、一礼し報告を始める。
鳥束の首輪と三人分の傘とレインコートを手に入れ、見張りをしていた時だ。
PK学園へ自動車が近付いて来るのを遠目から発見したのは。
離れた位置からでもおかしなデザインだと分かる、瓶に似た車体をしていたと伝える。
突然の入室にも慌てずDIOが無言で続きを促すと、一礼し報告を始める。
鳥束の首輪と三人分の傘とレインコートを手に入れ、見張りをしていた時だ。
PK学園へ自動車が近付いて来るのを遠目から発見したのは。
離れた位置からでもおかしなデザインだと分かる、瓶に似た車体をしていたと伝える。
「そうか……」
部下からの報告にDIOは意味あり気な深い笑みを浮かべる。
隣では甜花も表情を強張らせ、動揺を露わにしていた。
ヴァニラが今言ったのと同じ特徴の自動車を、DIOも甜花も知っている。
小癪にも手傷を負わせ、まんまと逃げおおせた連中が乗っていた車だ。
いずれ向こうからやって来るとは分かっていたが、どうやら今がその時らしい。
愚かにも自分を倒し甜花を取り戻そうとでも意気込んでいるのだろうが、その判断が大間違いだと教えてやらねばなるまい。
隣では甜花も表情を強張らせ、動揺を露わにしていた。
ヴァニラが今言ったのと同じ特徴の自動車を、DIOも甜花も知っている。
小癪にも手傷を負わせ、まんまと逃げおおせた連中が乗っていた車だ。
いずれ向こうからやって来るとは分かっていたが、どうやら今がその時らしい。
愚かにも自分を倒し甜花を取り戻そうとでも意気込んでいるのだろうが、その判断が大間違いだと教えてやらねばなるまい。
「来るがいい人間達よ。このDIOに楯突いた事を、後悔しながら死んでいけ」