コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

世界で一番暑い夏

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
どうやら、ドロテアとモクバはメリュジーヌ達を切り抜けた後も散々な目に遭った様だ。
それがスタンドを使った治療のさながら、イリヤの話を聞いたディオの感想だった。
今も生きている可能性が高いが、同時に重傷を負っている可能性も高いと言う。


「あの、ディオくん……」


情報を共有する最中、イリヤがディオに向ける瞳の彩は、猜疑だった。
正確には、彼が放送前まで行動を共にしていたというモクバとドロテアに対してだが。
メリュジーヌから伝えられた、ドロテアとモクバの悪評は果たして真実なのか。
白黒ハッキリさせるべく、イリヤはドロテア達の事をディオに尋ねた。


(チッ、面倒だな……)


話の雲行きが怪しくなり始めてから、ディオは既にこの場の最適解を思案していた。
まず、最も安直な選択としてはメリュジーヌがマーダーだと主張した上で否定する事だが。
永沢を襲い首輪を奪ったと言うのは事実の為、完全否定は不味い。
何しろ、メリュジーヌの話から出たのはドロテアとモクバの名前だけだったが。
永沢殺害の下手人は他ならぬ自分なのだ。それ故に、もしここで完全否定した後。
メリュジーヌ達が永沢殺害の証拠を提示してきた場合、一気に窮地に立たされる事となる。
隠した所でスタンドなど、ディオにとっての未知で暴かれれば太刀打ちできない。
それ故に、根も葉もない話だと断ずることは正解ではないだろう。
かといって、そのまま肯定するのは論外だ。ディオは決断した。



「………ドロテアに限って言えば、それは恐らく事実だろう。
だが、モクバについては違う。少なくとも奴は、積極的に人を害せる奴じゃない。
ドロテアにしても、殺し合い自体には乗っていない筈だ」



ドロテアに限って、認めてしまう。それがディオの選んだ解答であった。
だが完全な形で肯定もしない。ドロテアと再会した場合の事も考える必要がある。
独りだけ悪者にされる憂き目に遭えば、あの女狐は自分を道連れにしようとしてくる筈だ。
ただでさえニケやエリスには懐疑的な目で見られている以上、それは避けたい。



「ドロテアは危険な女だ。事実僕も脅されて…殺人の片棒を担がされかけた。
だが、同時に奴は意味のない事はしない。奴に殺された永沢は度々あの女と衝突していた。
それだけに、少なくとも君達に手荒な真似をするのは考えにくい…というのが僕の見解だ」
「ちょっと、そんな話聞いてないわよ!」
「僕も殺されるかどうかの瀬戸際だった!!
それにこんな話出会って直ぐに言ったら僕は信用されなかっただろう!?
大体、ついさっき殺し合いに乗りかけていた君が言えた立場か!!」



ドロテアに罪を擦り着けつつ、同時にフォローも行う。
当然の如くエリスが食って掛かって来るが、それは想定済み。
だからエリスにではなく、ナルトやニケ、イリヤに向かってディオは訴える。
仕方のない事だったと、むしろ今こうして正直に喋った事こそ。
自分が見せられる君達への誠意だと声高に主張を行う。



「………うん、取り合えず分かった。
ディオ君の言う通り、モクバ君は一応私に協力しようとしてくれてたし…」
「ちょっとアンタ、イリヤって言ったわね!こいつの言う事を……」
「大丈夫だよエリスさん。心配してくれてありがとう」
「……………」



一先ずディオの話を聞き入れる姿勢を見せたイリヤに、エリスが食って掛かろうとする。
だが、それを遮って感謝の言葉を述べるイリヤの眼差しに迷いはなく。
梯子を外された形となったエリスはニケ達の方に顔を向けた。何か言えと。
目が合ったニケは頭の後ろで手を組み、軽い調子でエリスへと自分の見解を告げる。




「まぁ落ち着けよエリス。俺も嘘は言ってねーと思うよ?」
「なんでよ」
「だって、見栄っ張りのこいつが自分から不利になるような事簡単に言うハズないじゃん」
「貴様ッ!それはどういう意味だ!」
「事実だろ」



肩を怒らすディオを気に留めず、間の抜けた顔で指摘を行うニケ。
本人のマヌケ面とは裏腹に、エリスにとっても一理あると思わされる言葉だった。
前提として、未だにエリスはディオを信用していないけれど。
だからこそ、保身最優先のこの男が軽率に疑われる様な事は言わないだろう。
一応の通った推測であったが、納得できるかは別の話だ。
疑わしいディオに新たなきな臭い部分が出てきたのだから、お咎めなしとはいかない。
矛を収める代わりに、一つの要求をエリスはディオに突き付ける。



「……ふん!ニケ達が言うなら今回はそう言う事にしておくわ!
でも、その代わり、アンタが頭の輪っかの約束に、この子を傷つけないも追加させなさい」



ディオの頭に装着されたこらしめバンドにはエリスら三人を害さないという制約がある。
その対象にイリヤも追加する事、それがエリスにとってのディオへの落としどころだった。
ディオが素直に受け入れればそれでよし。もし受け入れなかった場合でも……
それを口実に、スタンドの没収などに動けばいい。
元々、ディオにスタンドを渡すことは反対だったのだから。
そう考えて告げた言葉だったが…エリスにとって意外にもディオはすんなり要求を飲んだ。
腕を組み、不遜な態度でディオ側からも要求を突き付けてきたが。



「いいだろう、エリス。君の要求を承諾しよう。だが、此方からも条件がある。
もしドロテアと同行する事になった場合は、この輪をドロテアの方に移して欲しい。
僕よりも奴の方が余程危険な女だ。僕の事を信用しろとは言わないが……………
君達と、君達にドロテアの事を話した僕の安全の確保の為にこれだけは譲れない」



ディオの要求は、受け入れられた。あくまでドロテアと同行する事になったら、という前提だが。
モクバやドロテアにはこの場にいる者が持っていない工学の知識がある。
例え危険人物と言えど、首輪を外そうとするならその事実は決して無視できない。
そこにディオは目を付け、交渉に利用したのだ。
結果、不服そうだったエリスも最後には折れざるを得なかった。



(これでよし、これでドロテアと合流した場合でも俺が主導権を握る事ができる)



こんな甘ちゃん共、ドロテアの様な女狐にかかればあっという間に手駒にされかねない。
こいつらを利用するのはこのディオなのだから、それは望むところではなかった。
だから、敢えてドロテアの陰の部分を暴露し、彼女に対する不信を一同に周知した。
ドロテアからすれば裏切りといえるかもしれない行動ではあったが、文句は言わせない。
此方が便宜を図らなければ、ドロテアは首輪目当てに永沢を殺した殺人者として扱われる。
イリヤの口を塞ぐでもしないと、対主催としてまず間違いなく彼女は孤立するだろう。
幾ら技術があると言っても、何時切り捨てられるか分からない相手など危険すぎるからだ。
殺したのはディオだと暴露しても、ドロテアが信用される結果にもつながらない。
ディオとドロテア、両名が信用できないというレッテルを貼られるだけでメリットがない。
得られるリターンは精々ディオへの意趣返しくらいだ。

それなら彼女は、信用を回復させるためにこらしめバンドを被るだろう。
危険はないとアピールする為に、他の対主催の元に身を寄せるために。
彼女がこの一団と行動を共にすることを選ぶかは定かではないが。
もし選んだ場合ディオは忌々しい頭の輪を外せて、ドロテアへ精神的優位に立てる。
こらしめバンドという抑止力を用いれば彼女も同行できる程度に危険性は下がる筈だと。
そう口利きしたのは、紛れもなくディオなのだから。
如何な魔女とて、ある意味庇ってくれた相手は無下には出来まい。
そして、こらしめバンドによってドロテアからの万が一の報復も防止する事を見込める。
正に一石二鳥の妙手。さっさとこの窮屈な輪っかを女狐に押し付けたいものだ。
それまでなら、頭にまで犬の様に首輪を嵌められる屈辱も耐える事ができる。
そう胸の奥底で零しながら、新たに命令が加えられたこらしめバンドをディオは被った。

そうして、新たに明らかになったディオの疑惑が一旦纏まりを見せ。
必然的に各々今後どうするかという話に空気が移行する事となる。
そんな中で真っ先に頭を下げ、頼み込んだのはイリヤだった。




「お願い……紗寿叶さん達を助けに行かないと……!」



イリヤが逸れた仲間のうちのび太と美柑は死んでしまい、悟飯は狂気に憑りつかれた。
だが、まだ紗寿叶達はKC(海馬コーポーレーション)に置き去りにしたままだ。
戦う力のない彼女らの安否を確認し、守ってあげなければ。
きっとまだ生きているなら身を潜めて自分が来るのを待っているはずだから。
それに、悟飯が新たな凶行に及ぶ前に止めなければ。
声を張り上げ、新たな同行者たちにイリヤは必死に訴えた。



「……イリヤ、さっき僕の話を信じてもらっておいてなんだが、それは無理だ」



流石に危険すぎる、とディオが冷淡な声を上げた。
即座にエリスが何であんたが仕切るのよと食ってかかるが、ディオの態度に変化はなく。
淡々と、悟飯が戻ってくる可能性のある場所に近づくのは危険すぎると主張を行う。



「孫悟飯はイリヤやドロテアや…僕を襲った金髪の女でも歯が立たなかったんだろう?
そんな相手を現状の僕達が止めるのは不可能だ。止められたとしても犠牲者が出るだろう。
それに、余りこういう事は言いたくないが、イリヤの仲間が今も生きているかは……」
「…………っ!」



青ざめるイリヤの顔と、剣呑な表情で刀に手をかけるエリスを前に、言葉を濁すディオ。
けれど、最低でも次の放送で紗寿叶やモクバの生存を確認してから動くべき。
勿論悟飯の説得など論外、自殺する様なものだと言う彼の主張は頑ななモノだった。
更に、予想外の人物がディオに同調の意思を見せる。



「うーん、悟飯ってやつに関しては俺もディオに一票、かな」
「ニケ!?ちゃんと理由はあるんでしょうね。まさか危ない所に近づきたくないとかじゃ」
「まぁそれもあるよ、でも実際問題俺たちが暴れる悟飯を説得するのは無理だと思う。
これまでずっと一緒にいた美柑って子の話も聞かなかったんだろ、そいつ」



ニケとしてはイリヤの同行者を助けに行くのは、やぶさかではない。
いや、正直めちゃくちゃおっかないし、悟飯を説得しろと言われたら逃げるのだけれど。
でも憔悴したイリヤの様子を見ていると、放って置けるものでもなかった。
だから彼は、紗寿叶達の救助に限り了承のスタンスを示す。



「俺達でイリヤの知り合い回収して、悟飯が来る前にさっさとずらかろう」



安全策を提案するニケに対し、イリヤの反応は悪い。
俯きがちに顔を伏せ、やりきれない風に唇の端を結んでしまっている。
病魔に侵される悟飯に対する負い目からだろう。
だが、悟飯の対応についても一応ニケには考えがあった。



「まぁまぁ。悟飯についても一応考えがあるから、そんな暗い顔しなさんなって。
俺達が言っても話が通じないなら、話が通じる相手に止めて貰えばいいんだよ」
「………?」



怪訝そうな顔を浮かべる一堂に、ニケは人差し指を立てて一人の参加者の名前を挙げる。
孫悟飯の父であると言う、孫悟空の名前を。
赤の他人より、父親が止めれば今の悟飯の耳にも届く可能性はあるだろう。
それが、ニケの考えだった。
その言葉に、俯いていたイリヤの顔が上がり、消沈していた瞳に光が再び灯った。




「そう言えば悟飯君…お父さんの事は本当に尊敬してるって美柑さんが……」



悟飯が爆発する少し前、イリヤは美柑から彼が本当に父親を尊敬している話を聞いていた。
同時に自分のせいで父を探しに行けず、それも悟飯に負担をかけていたのやもと言う話も。
もし美柑の言葉が確かならば、悟飯が敬愛する悟空の言葉なら、もしかして。
微かな希望を抱くイリヤだったが、そんな彼女を尻目にすかさずディオが待ったをかける。
孫悟空の居場所にちゃんと心当たりはあるのか?と。



「あぁ、一応のアテはあるよ」



逸れてしまったらしいが、ネモから悟空もカルデアを目指す筈という事は聞いている。
ならばカルデアに行けば、悟空に悟飯の窮状を伝える事ができるかもしれない。
それが、ニケの考えたプランであった。



「今いるかは分かんねーから、先にイリヤの知り合いを助けてからの方が良いだろうな。
ただし悟飯がいたら俺達の命優先で基本は逃げる。いのちだいじに、それでいいか?」
「うん……!わかった。ありがとうニケくん!」



先ほどとは比べ物にならない程明るい声で、イリヤはニケの提案を飲んだ。
本当は一刻も早く悟飯の事も何とかしてやりたかったけれど。
それだけを気にしてニケ達の命を危険に晒すわけにはいかない。
独りでは至れなかったであろう希望を示し、関係ないのに協力してくれるニケ達もまた。
既にイリヤの心の内では仲間だと思いつつあったから。



「ちょっと待て!何故行く流れになっている!僕は反対だぞ!!」
「行きたくないなら仕方ないな。んじゃやっぱりお前だけ残るか?」



異議を唱える事を読まれていたのか、塩気の強いニケの言葉にディオはんぐぐ、と呻く。
態々危険な場所に行きたくはない、だが、ここで別れては元の木阿弥だ。
苛立ちを抑えて関係を構築してきた意味が殆ど無くなる。
何とか話の潮流を変えようとディオは他の顔ぶれを見渡すが、無意味だった。



「私はナルトとニケが付き合うなら反対はしないわ。一緒に行ってあげる」
「俺は我愛羅やシカマルの奴を探さねーといけないけど…どうせアテはねーしなぁ。
お前だって怪我した仲間が待ってるかもしれないんだろ?ディオ」
(くっ……面倒くさい、このお人好しどもが………!)



不味い、お人好しどもが甘いせいで完全に赴く流れになっている。
だが、ディオとしては絶対に行きたくない。ドロテア達の安否など知った事か。
自分の安全を天秤にかけてまで救助に行こうとは思わない。
兎に角、この不吉な流れを変えなければ。



「僕は反対だッ!危険すぎるッ!
僕達はイリヤの事を何も知らないんだぞ!休日は何をして過ごすだとか、
どんな音楽を聴くのかだとか、そんな事すら知らないんだッ!!
なのに、何故─────」
「あーちょっといいか、ディオ」
「何だッ!?」
「危険って話なら、俺が影分身を先に行かせるから多分大丈夫だってばよ。
もしその悟飯って奴がいたら影分身で引き付けてる間に逃げればいいと思うぜ?」
(余計な事を…………!)




斥候として影分身を先行させて、もし悟飯が陣取っている様子なら即座に引き返す。
そうでなければ、影分身にイリヤの仲間を回収させて手早く撤収する。
もしその途中で悟飯の襲撃を受ければ、影分身を囮にして撤退。
均等にチャクラを分配する影分身が本体かどうかは白眼を以てしても看破できない。
本体のナルト達は身を潜めていればいいし、即座にバレる恐れも少ない。
イリヤの仲間の状態が分からぬ以上、一刻も早く救助に赴くのであれば。
きっとこれがベターな一手だ。尤も、ディオを納得させるには至らなかったが。



「しかしだな───ッ!」
「そんじゃあお前はここで暫く待ってろよ。それでいいだろ?」



冗談ではない。
金髪の痴女やメリュジーヌ、シャルティアと呼ばれていた突撃槍の女。
危険人物はこの島にまだまだいるのだ。そんな中で肉の盾をすべて手放すなど。
ディオからすれば、それは自殺行為に等しい。
等しいが、態々危険を犯して怪我人足手纏いを抱え込むのも御免被る選択肢だ。
だが、状況はどこまでも彼にアウェーだった。



「どうせこの島に安全な場所なんてねーよ。
それなら協力できそうな奴を増やす方向で動いた方がいいだろ」
「………ッ!」



ニケの言葉にうんうんと頷くエリスやナルトを見て、最早この流れを崩せない事を悟る。
本当に嫌だが、腹を括るほか無いだろう。これ以上粘っても置いて行かれるだけ。
それくらいなら自分も同行して、このお人好しどもを操ってやった方がまだマシだ。
無論の事、悟飯や他の強大なマーダーに襲われた場合は自分だけさっさと逃げる。
それを心に固く誓い、大きな大きな溜息を吐いてからディオは「分かった」と口にした。



「………!ありがとう……!本当にありがとう!みんな!!」
『私からも御礼申し上げます、皆様』



全員の方針がイリヤの願いに応えるという方向で纏まったのを目にして。
感極まったと言う声色と態度で、ぺこりとイリヤと彼女の傍らに浮く杖が頭部を下げる。
全く余計な事をしてくれたものだ、ディオは心中で毒づき。
せめてイリヤにたっぷり恩を売ってやらなければ割に合わないと口を開く。




────流砂瀑流!!




その場にいる者達を圧倒的な砂の奔流が飲み込んだのは、その直後の事だった。




          ■     ■     ■




息苦しく、闇の中にいる様な砂の中を、必死にもがく。
窒息する前に上へ、上へと。ひたすら砂の中から這い上がろうとする。
モグラの様に砂を掻き分け、ぶはぁと這い上がったのは窒息寸前になってからだった。
全身にチャクラを籠めて、創り上げられた砂山から脱出。
そして大地を踏みしめると、その先に待っていたのは予想通りの顔だった。
緊張と決意が込められた顔で、うずまきナルトはその名を呼ぶ。




「我愛羅………」
「うずまき、ナルト………!!」




名を呼ばれると共に、ナルトの目の前に立つ赤毛の少年、我愛羅の顔が歪む。
殺意と、憎悪と、歓喜の表情に。
それは木の葉崩しの時に戦った彼の様相と、完全に一致していた。
聞いていた話の通り、我愛羅はこの殺し合いに乗っている事を悟る。



「……俺と一緒にいた奴らはどうした」
「さぁな……生きてはいるだろうが………
お前が戦う意志を見せなければ俺の砂は飲み込んだ者を締め付けいずれ殺す。仲間を諦め逃げると言うのならそうするがいい」



逃しはしないがな。
獰猛な笑みを浮かべて、我愛羅はナルトに宣言した。
見る者の心胆を凍り付かせる、怪物の如き笑み。



「さぁオレと戦え!!
日向を倒した時の様に俺にも力を見せて見ろ!!俺は……その力を捻じ伏せてやる!!」



初めて拝んだときは身を竦ませた殺意と笑顔だった。
だが今は違う。もうその殺意は、その笑みはナルトにとって通過した物だ。
だから相対する彼の思考は冷静なもので。
我愛羅の様子をここまで眺めて、一つの結論に至る。




────間違いねぇ。やりとりまで、あん時の我愛羅だってばよ。




いかなる術に依る物かは計り知れないが。
この我愛羅は、自分と戦った事のない“過去”の我愛羅だ。間違いない。
その事を確信して、ナルトは薄く笑みを浮かべた。
良かったと。また彼が憎しみに囚われたのではないのだと、仄かに安堵を覚える。
であるならば、これから自分が行うべきことはたった一つ。



「……何が可笑しい」
「いや、別に……何でもないってばよ
ただ、お前は知らないだろうけどな、俺は前に約束したんだよ、我愛羅────」



怖れや怒りや憎しみは胸の内にはなく、ただ火の意志だけを胸に抱き。
堂々たる様で握りこぶしを形作ると、笑みと共に救うべき者の前へと突き出す。
そして告げる、己が成すべきことを唄うように。



「お前がまた誰かを憎しみで殺そうとしたら、俺は……お前を止めるってな」



それを目にして、我愛羅は奇妙な感覚を覚えた。
知らない筈なのに、まるでその言葉を知っているかのようで。
憎しみしか知らない筈の自分の胸の内に、安らぎが芽生える。
うずまきナルトの背後で幻術の様に、知らない景色を垣間見る。




────みな、チヨバア様に祈りを……
────母は強いな、死んでなおお前を信じ切り守り抜いた……



知らない。
こんな景色は、知らないのだ。
だから関係がない。父は死んだのだから。
死者と言葉を交わす未来など、あり得る筈もない。
だから、どうでもいい。知った事ではない。
知らぬ景色が見えた程度で霞むほど、己の憎しみは弱くはない。





「さぁ………始めるぞ、うずまきナルト!」
「あぁ、またお前に見せてやるってばよ───うずまくナルト忍法帖をな!!」




今はただ。目の前の男と雌雄を決するのみ。
その為に、殺す事無く邪魔者を排除したのだから。
台風の目の様な一騎打ち。二人の人柱力の死闘が再び始まる。




          ■     ■     ■




ジャック・ザ・リッパーは、死んだらしい。
合流したガムテからの報告で、ゼオンはその事実を受け入れた。
元より、デパートを離れた時から契約で繋がっていた感覚がなくなっており。
それ故に、そこまでの衝撃は無かった。



「しかし一度勝った相手に負けるとはな。所詮卑しい生まれ軟弱な殺人鬼だったか」


ジャックに対する個人的な感慨はないため、容赦なく敗北者となった彼女を蔑む。
とは言え、あの利便性の高い霧が失われたのはそれなりの痛手と言えるだろう。
残ったガムテも腕利きの暗殺者とは言え、ジャックの様に霧が出せる訳ではない。
幾ばくかの戦力の低下と、それによる戦略の見直しは避けられない。
そう考えるゼオンに、ガムテは俄かに醒めた視線で尋ねた。


「んで、ど~するよ王子(プリンス)。
大分お疲(ちか)れっぽいし、暫く穴熊(キューケー)するかァ?」



ぶぅん。殺しの王子が放ったその問いは、鮫肌が首筋に添えられるという返答で返された。
俺を舐めているのか?とゼオンは憎悪で濁った眼で、ガムテを睨みながら問いかけ。
対するガムテは次の瞬間に首が飛んでもおかしくない状況下で、無言で首を横に振った。
その表情に動揺はなく、ごめんちゃァ~いと変わらぬお道化た態度で謝罪を口にする。
それを見据えてから、次は無いと冷酷に告げ、大刀を降ろす。



「まだまだ俺は邪神の力を引き出し強くならねばならん、その為にもっと殺す必要がある。
魔力も俺の憎しみが尽きぬ限り幾らでも引き出せる。貴様程度に心配される筋合いはない」
「真実(マジ)ィ?異常(チート)じゃあん!」



死相が見える位な。
ガムテは心中で悪態を吐露するが、それをゼオンに伝える事は決してしない。
ドミノの獲得のためにできれば自分が殺したいが、この王子は遠からず自滅するだろう。
いっそ今仕掛けるか。その考えが過る物の、即座にその選択肢を棄却する。
ゼオンの様相は確かに疲労の色が濃く見えるが、目立った外傷はない。
そして魔力とやらに関しても、本当に憎しみによって即座に補填しかねない。
そんな異様さをガムテの第六感は嗅ぎ付けていた。それ故に早計は憚られる。
今仕掛けた所で相打ちになる可能性が極めて高い。まだ、機を待たねばならない。
時が満ちるまで利用する為に、ガムテはゼオンの言葉に異を唱える事はなく。
彼もまた片腕を失いつつも余力はあるため、次なる殺戮を目指す決定を下す。




「よ~し、二次会(オカワリ)決まりっ☆そんじゃあ次のブッ殺す奴探そう────」



刃を振り上げ、殺る気充分。
さぁ殺そう。もっと殺そう、殺せば僕らは幸せに。
グラス・チルドレンのテーマソングを口ずさみ、壊れた笑みを浮かべて。
次なる獲物を探しに赴こうとした、その時の事だった。




「─────は?」



ガムテらの目の前を、猛スピードで迫る砂の波濤が埋め尽くした。




          ■     ■     ■




マジ死ぬかと思った。てか俺ちゃんと生きてるよな?
足は二本揃ってるけど、異世界転生とかしてないよね?
津波の様な砂の怒涛に呑まれた先で、勇者ニケはそう独り言ちた。
風圧を利用し砂からの脱出に使った風の剣をスカーフへと戻し、砂丘の上へと降り立つ。
降り立つと同時に脇に抱えていた金髪の少年を、べしゃりと放り捨てて。


「おーい、お前の方は生きてるか~?」
「勝手に殺すな……殺すぞ………!」
「うむ、キレるくらい元気があるなら当分は死なないな、よしよし。
っと、それよりもイリヤとエリスの二人は…大分流されたし無事だろうな、二人とも。
もし生き埋めになってたら直ぐに見つけて、人工呼吸の一つでもしてやらねーと!!」


至極雑な扱いでディオが屈辱を覚えるのも、華麗なスルーを見せて。
不純な動機でディオよりも余程重要な華二つの姿を探そうとするニケ。
だが探すまでも無く、イリヤとエリスの二人はニケの前に姿を現す。


「ご生憎様。イリヤが引き上げてくれたから、アンタの助けは必要ないわ、ニケ」
「二人は大丈夫?」
「おっ、無事でよかった二人とも。怪我は無いか?」


ニケが風の剣で脱出に成功したように。
イリヤもまた、砂にもまれながらもサファイアは手放さず転身に成功し。
そのまますぐ傍にいたエリスの手を掴み、一緒に脱出に成功したのだ。
目立った怪我も負っておらず、これで全員が突然の奇襲から無傷で生還を果たした事になる。
後、この場にいないのはナルトだけだ。


『砂に呑まれるまでの魔力反応では、ナルト様だけ動いてはいないご様子でした』
「ってことはつまり、今の砂はナルトを狙った物って事ね」


ナルトに狙いを定めた砂使い。
この二つの要素が組み合わされば、奇襲をかけてきた容疑者は一人しかいない。
エリスも一度戦ったマーダー、砂瀑の我愛羅の襲撃を受けたのだ。
現況を認識しつつ、今度は周囲を見渡す。今いる場所には、見覚えがあった。
ここは一時間ほど前に通過した地点だ。どうやら、そこまで砂に押し流されたらしい。


「フン、それじゃあさっさとナルトの助太刀に行くぞ。
本当かどうか疑わしいが、その我愛羅というのはナルトが一度勝った相手なんだろう?
ならば僕達で一斉にかかれば、より楽に確実に勝つことができる筈だ」




本当はこれほどまでの規模の砂を操るマーダーなどからは逃げたい。
しかし、もうディオも理解している。言っても無駄だと。
このお人好し共は決してナルトを置いて逃げたりしないだろう。
それならば我愛羅をこの場にいる全員でリンチする様に誘導した方が現実的だ。
どさくさに紛れ我愛羅を始末し、ドミノを獲得するのも悪い話ではない。
そんな皮算用を行いながら放たれた提案は、やはりエリスには必要ないと断じられた。



「私達が加勢しなくても、ナルトは勝つわ」
「だから、勝つのは分かっているが、僕達が加勢した方がより消耗も抑えられてだな…」
「必要ないわ。ナルトの戦いに水を差すならタダじゃおかないわよ」



あ゛?お゛?と、最早何度目になるか分からぬ睨み合いを始めるディオとエリス。
お前ら仲悪すぎだろ、ニケは突っ込みながら二人の間に割って入った。
イリヤもどうどうと宥める様にエリスの前に仲裁に入る。



「まーまー、落ち着け、喧嘩するでない者ども。
どうせナルトとは合流しなきゃいけないんだ。なら直ぐ近くに行っておこうぜ。
助太刀するかどうかは……まぁナルトがヤバくなったらってことで。うん。
ちゃんと分かってるからそんなに睨むなよエリス。ちょー怖いから」
「………分かったわ」



どの道合流はしなければならない。その言葉に納得の姿勢を見せ。
ディオもいざとなればナルトが危険だと思ったとか何とか、理由をつけて手を出せばいい。
そんな姑息なプランを考えつつ、舌打ちと共にニケの言葉に同意の意志を示した。
何とか水と油の二人の方針が一致した事に胸を撫で下ろし、イリヤは出発を促そうとする。




「じゃあ皆で、早くナルト君の所に───」
「いや、それは無理だな」
「───────っ!?」




イリヤの言葉を否定する声が上がる。
それはニケの物でも、ディオの物でも、エリスの物でもない。
聞いた事のない、少年の声だった。
その声に不吉なものを感じ、一斉にイリヤ達四人は声の出所へと視線を向ける。
立っていたのは、白いマントを纏い、その手に刺々しい太刀を有した白髪の少年だった。
獰猛な戦意と殺意を声に乗せて、修羅の雷帝ゼオン・ベルは新たな獲物に言い放つ。



「テメェらの首はここでこの俺が貰う」




          ■     ■     ■




ガムテは砂に呑み込まれたらしい。
とは言え、助ける必要は無いだろう。奴はジャックが死んだ戦場でも生き残った暗殺者だ。
この程度で死ぬとは思えないし、死ぬようならどの道駒としても必要ない。
何よりドミノというルールが追加された以上、獲物は出来る限り自分が総取りしたい。
あのデパートでは眼帯の気狂いのせいでキルスコアを上げられなかったのだから。
ドミノの獲得と言う点で言えば、目の前のガキ共は実に手ごろな羊と言えた。
疲労を感じさせない肉食獣の笑みを浮かべて、ゼオンは獲物達に相対する。




「インクルシオッ!」



そんなゼオンを前にして、真っ先に動いたのはエリスだった。
鍵剣を構え咆哮を上げると共に、白亜の全身鎧が彼女を包み。
それに次いでイリヤも臨戦態勢に入る。


「夢幻召喚(インストール)!」


カードを掲げ言霊を紡ぐとともに、イリヤもまた清廉なる西洋甲冑を身に纏う。
そして、ステッキを媒介に現れた黄金の聖剣を握り締め、油断なく構えを取る。
目の前の少年の魔力量から、セイバーのクラスカードでなければ対抗できない。
サファイアはそうイリヤに告げ、それ故に迷いなくイリヤもセイバーのカードを選択した。


(よし、本当に使えた……!タイム風呂敷があってよかった…!)


本来は未だインターバル中のセイバーのクラスカードが使用できた理由。
それはイリヤに支給されたタイム風呂敷にあった。
クラスカードに被せる事で使用可能時間まで時間を経過させ、再使用可能としたのだ。
タイム風呂敷は、見事仕事を果たした。その成果が、今のイリヤの身体を包んでいる。
エリス、イリヤの二名の戦乙女の戦闘準備が整い、一触即発の空気が漂う。
そんな中で、真っ先に踏み出したのは二人でも、ゼオンでもなかった。



「ニケ君……?」
「ニケ……?」



ニケの意図が分からず、イリヤとエリスの二人は困惑した表情を浮かべる。
二人の少女を尻目に、ニケは胸を張ってずんずんとゼオンの前に進む。
ゼオンは、動かなかった。目の前のマヌケ面が脅威になるとは思えなかったからだ。
だから、無言で自分の前に進み出るニケの動向を見届けた。
そして、数秒の間を置き、ニケはゼオンの二メートルほど前までやってきた。
明らかなマーダーと対峙する勇者の背中を目にして、少女二人に緊張が走る。
一体何をするつもりなのか。エリスとイリヤが息を呑む中、答えは直ぐに明らかとなる。




「────不肖ニケ、ただいまより貴方様の忠実なる下僕で御座います」




本当に何をやっているんだろう、こいつは。
イリヤとエリス、そしてついでにゼオンがその時考えた事は全く同じだった。
暫く時が止まり、凍り付いた時が再始動したのはディオが罵倒の言葉を吐いてからだった。


「このクソバカが……!」


心底身下げ果てたという声で吐き捨てるディオに、跪いたままのニケが異議を唱える。


「何だよ!いーだろ別に戦わなくてもそれで丸く収まるなら!!
こっちはもうシリアスの供給過多でお腹いっぱいなんだよ!
此奴(ゼオン)もフラついてて疲れてそうだし、戦うにしても茶でもしばいてからぁあああああああっ!?」




どかッ。
無言のままのゼオンに蹴り飛ばされ、ニケの身体がサッカーボールの様に吹き飛んだ。
ごろごろごろごろごろごろと転がって、近場の植え込みに突っ込みようやく止まる。
ピクピクと震えるニケの尻を見て、まぁ…いいかと、イリヤとエリスは同じ結論に至った。
気を取り直し、武器も構え治す。ゼオンもまた、同じだった。



「アンタがこいつらに手を出すって言うなら、容赦はしないわ」



既に思いきり手を出されているけれど、それは完全に無かった事になったらしい。
ディオはニケの尻を眺めながらそう考えたが、直ぐにどうでもいいなと忘れ去る。
敵も味方も、その場にいる全員の思考が一つに統一された瞬間であった。
そして、状況は勇者を置いてけぼりにして進行していく。



「ククッ、そこに転がってるゴミよりはマシな言葉を吐くじゃねぇか」



空気が、切り替わる。
バチバチとゼオンの掌で雷光が瞬き、威圧感が溶岩の如く噴出して。
イリヤ、エリス、ディオの三人に、戦慄が走った。
この少年もまた、これまで出会ってきたマーダー達と同じ怪物だと。
その印象を裏付ける様に、疲労を感じさせぬ邪なる笑みで、雷帝は進撃の幕を開く。



「だが───大きな口を叩く前に、まずはこの雷を受けてみるがいい!!」



開戦の声が各々の耳朶を打つと共に。
白銀の少年の姿がシュッという衣擦れの音と共に消失を成す。
ディオの動体視力ではどう見ても掻き消えた様にしか見えなかった。
強化されたイリヤやエリスの反応すら、一手遅れた。
シュライバーとすら渡り合った、殆ど瞬間移動に近い速度。
血の滲む様な修練の果てに得たその速さを以て、ゼオンはイリヤとエリスの側面に現れる。
そして五指を広げ────一片の躊躇も容赦もなく、呪文を紡いだ。



「テオザケル!!」



多少弱められているとは言え、常人が受ければまず間違いなく即死の雷光。
言霊が吐き出されると共に、二人の獲物目掛け閃光が迸る。
イリヤとエリスは躱そうと動くが、すでに遅い。
側面に現れられた時に僅かに反応が遅れたのが、回避が叶うかの分かれ目だったのだ。



「く────」
「─────っ!」



迫りくる雷光に、白と緋の二人の少女は成す術がなく。
そのまま予定調和の様に、白光に二人の肉体は飲み込まれて。
そして、全ての色彩が白一色に塗りつぶされた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー